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第4章 リザベートの結婚狂想曲

5 【王城での晩餐会】

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<<レイン皇帝視点>>

先程リザベート殿との謁見が終わった。

相変わらず聡明な女性だ。

最強と言われた父親から武術指導を受け、キンコー王国の天才と呼ばれた母親から学業の英才教育を受けた才女。

高位貴族としての所作を持ちながらも、生まれながら庶民としての生活を送っていたことで、真の意味で庶民目線を持って改革を推進できる唯一の存在であろう。

ユーリスタ殿やマサル殿の活躍に皆目を奪われがちであるが、キンコー王国、いや大陸全体の発展に最も貢献しているのは、彼女ではなかろうか。

彼女に影響を受け、教えを請うた者達が各地での改革を地道に推進しているのだから。

しかし、あの小さかったリザベートも、もう20歳になるのか。
初めて会った時から聡明ではあったが、知識も美貌も更に磨きがかかって、相並ぶ者は居らぬのではないかな。

ハローマ王国には、ユーリスタ殿の元学友であるマリー・ダゴー殿が、ハローマ王国行政改革担当大臣として改革を推進していると聞く。

我が国でも、サリナが上手く育ってくれれば良いのだが。

しかし、女性の活躍が目覚ましいな。
少し前までは、どんなに優秀であろうとも女性が政策に関わるなど、頭から否定されていたのに。

我々は慣習に囚われ過ぎているのだろう。

もっと慣習に囚われない広い視野が必要になるし、それができる柔軟な考え方を持つ人材の育成が必要だ。

マサル殿に、相談してみよう。



「リザベート殿、トカーイ帝国の料理は如何かな?」

「陛下、美味しく頂いております。
特に高山地帯に自生するトカーイ帝国でしか手に入らない山菜が気に入っております。

カトウ運輸が物流ネットワークを大陸中に広げてから、キンコー王国でも珍しい食材がたくさん入ってくるようになりましたが、その調理方法については生産地には遠く及ばないでしょう。

以前マサルさんから『知的財産』という言葉を教わりました。

どの国にも、その環境や地域特性により、料理に限らず、様々な分野で他国に勝る知識の集積があると思います。

これらは、知識という財産であり、価値のある商品と考えるべきだ。 とマサルさんは言っておられました。

同時に、『知的財産』を保護し、更なる発展をさせることでその商品価値を上げていくことが国の責任であるとも、言っていました。

  あっ、申し訳ありません。食事中だというのに、話しに夢中になってしまって。」

「なに、なにも気にする必要は無いぞ。

皆熱心に耳を傾けておる。

サイツなんか、食事そっちのけでメモばかりとっておるではないか。」

真っ赤な顔のサイツを見て場が和む。

しかし、食事の感想を聞かれただけで、あそこまで深い知識を持った持論を展開できるとは。

先程の話しも、食材の輸出を主要産業にしていきたい我が国にとって非常に有用な内容である。
サイツを担当にして、知的財産の管理に真剣に取り組んでいこう。



<<クラウド・エルン公爵視点>>
数日前にレイン皇帝から帝都に来るようにと連絡があった。

帝都に到着後、わたしは陛下に謁見した。

「クラウドさん、来週キンコー王国のリザベート・ナーラ殿が、帝国カレッジに講演に来られることは聞いていますか。」

「はい、うちのサリナが陛下に無理を言って招聘頂いたとか。
ご迷惑をおかけしました。」

「これしきのことは大したことではないので大丈夫です。

実はサリナから、カレッジを卒業後に官僚として改革に携わりたいと相談されているのです。

各国で国政への女性参加が増えており、その効果が予期せぬ程大きいのは、ご承知ですよね。」

「確かにそうですな。
キンコー王国ではユーリスタ・ナーラ公爵夫人、ハローマ王国では、マリー・ダゴー殿。

両名とも、陛下と近しい年代では抜きん出た才女でありましたな。

もし、当時に女性の登用が認められておれば、もしかすると時代は大きく変わっていたやも知れません。」

「そうかもしれないですね。

ただ、過ぎてしまったことを悔やんでも仕方がない。

2人とも、今は一国の大臣として活躍されているのですから、良しとすべきでしょう。」

「そうですな。
ところで、本日はいかなる御用でございましょうか?」

「実は、サリナが官僚として改革に携わりたいと言っていることに関してで、お願いがあります。

我が国は、先の2国に比べて女性の登用が遅れています。

先の2人に関しては、それぞれの国内において才女の代名詞のような者ですから、既得権益にうるさい法衣貴族の反対を躱せたかもしれないですが、サリナを登用するには少し弱いと思っています。

わたしはサリナを登用して、女性目線から現状の政治体制を変革して欲しいと思っています。

そこで、今大陸中から最も注目され、最も我が国に必要なポジションにいるリザベート殿をサリナの後ろ盾にしたいと考えています。

彼女の活躍を知れば、たとえ保守的な法衣貴族といえど、女性だからとは決して口に出来ないでしょう。
そんなことをすると、国からも民からも見放されることが明白だからです。

クラウドさんにお願いしたいことは、“サリナの希望を了承してあげて欲しいこと“と、“リザベート殿との縁が太く繋がるように考慮してあげて欲しい“、の2点です。

お願いできますでしょうか?」

「陛下からのたっての頼みとあらば、お受けするしかございません。

サリナにとっては茨の道になるやも知れませんが、あの子の選んだ道ならば、親としてはサポートしてあげるべきでしょう。」

そして講演会当日、講演を終えられたリザベート殿が、我が屋敷にやってこられた。

わたしは屋敷の外に出て彼女を待ちながら、サリナをどう引き合わせようかと考えていた。

あれこれ考えていたが、全ては杞憂に終わる。

わたしが挨拶する前に、横にいたサリナが先に挨拶をしたのだ。

リザベート殿は、優しそうな笑みを浮かべている。

わたしはホッとして、とりあえず第1段階をクリアしたと安堵する。

挨拶が終わった2人が仲良さそうに屋敷に入って行くのを確認したところで、思わぬ問題が発生した。

どこで聞いて来たのかサニー子爵家の嫡男であるデビス君達数人が我が家にやって来て、『夕食をリザベート殿と同席したい』と言い出した。

サニー子爵家は家柄も良く、わたしの支持基盤の中心的な存在なので、数人が夕食に参加することぐらいは、何も問題無い。

ただ、彼は空気を読むのが苦手なのだ。

彼の目的はわかっている。

サニー子爵は、息子の嫁にリザベート殿を欲しいと、再三キンコー王国宛にアプローチをして、断わられているようなのだ。

あちらは、キンコー王国公爵令嬢なのだから、隣国の王族ならいざ知らず、子爵家がどうこう出来る話しではないのだが、息子と一緒で、子爵自身も空気を読めないのだ。

夕食では、デビス君の暴走にヒヤヒヤしていたが、さすがはリザベート殿、上手く大人の対応で躱していた。

夕食が終わりデビス君が、リザベート殿を強引に誘っている。

あっ、サリナに手酷くあしらわれ、一緒に来た若者達を伴ってトボトボと帰って行った。

その後2人は、交友を深めたようで、翌日の朝には姉妹のように街に出て行った。

昼過ぎに王城から迎えの馬車が来て、わたし達3人は皇帝陛下主催の晩餐会に向かった。

馬車の中で、マサル殿が作った神話に出てきそうな魔道具の数々を嬉しそうに披露するリザベート殿を見て、サリナのみならず、我が家にも打ち解けてくれたことを喜んだと同時に、あわよくば息子の嫁にと思ったが、その思いはすぐに断念した。

彼女はわたしの息子達とはスケールが違いすぎるのだ。
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