上 下
70 / 382
第3章 国際連合は活躍する

27【ハーン帝国に愛の鞭を】

しおりを挟む
<<マサル視点>>
「魔族がソラン教団の背景にいるかも知れませんね。」

俺の発した言葉に皆が一斉にこちらを向く。

マリス様からもらったタブレットでソラン共和国を襲った魔族を調べると、400年間ソランの地に居たことまではわかったのだが、その後の足取りがわからない。
また、ナーカ教国の現教皇について調べても、その正体はわからなかった。

つまり、タブレットでわからないイコール  マリス様の創造物以外  イコール  魔族  となったわけである。

魔族は寿命が長い。今ナーカ教国を牛耳っている者達が、ソランを襲った者達と同じとも考えられる。

「マサル殿、ナーカ教国の教皇が魔族だとは、どういった推論からでしょうか?」

ハッカ外務大臣の質問に答える。
もちろんタブレットのことは話せない。

「魔族は古い文献の中に登場しますが、今現在、存在しているかどうかは不明です。
ただ、キンコー王国ヨーシノの森での瘴気増大やハローマ王国で発生した元ホンノー人の事件等、魔族絡みの事案も発生しています。

魔族の寿命が、数100年と長い事実を考慮すると、ソランを襲った魔族が生きていて、100年前にナーカ教国を乗っ取ったと考えても不思議は無いと思います。」

俺の説明に一同は、静かにうなづく。

「とりあえず、ハーン帝国に対する基本方針を決めましょう。

ナーカ教国については、不明な点が多いので、もう少し調査をしてから考えた方が良いですね。」

「マサル殿の言うとおりだ。
面倒だが、はっきりしているハーン帝国から片付けた方が良いだろう。」

アーノルド様の発言により、この後、ハーン帝国に対する国際連合の対応について話し合った。

<<アーノルド視点>>
マサル殿から、ナーカ教国における魔族の存在に関する可能性を示唆された。

魔族については、古い古文書にその存在を見つけられる程度の知識しかないが、強力な魔法と頑強な肉体を持っていると言われる。

果たして本当に今でもいるのかは疑問であるが、ヨーシノの森での出来事は、儂もネクター王から聞いている。
マリス様の使徒であるならば間違いは無いだろう。

とにかくナーカ教国については不明な点も多いから慎重に動くべきか。

ここは、マサル殿の言うとおり、ハーン帝国から処理しておこう。

あいつらは本当にどうしようもないからな。

「アーノルド様、どういう手段で進めていきましょうか?」

スポック事務局長が尋ねてくる。
もちろん、ハーン帝国のことだ。

「そうだな、単純に資料を見せて問い詰めたところで、嘘八百でのらりくらりとシラを切り通すでだろうな。

ああいう連中は無視をするに限るが、モーグル王国にそれだけの嫌がらせをしているとなれば、そうも行くまい。

いっそのこと、国際連合加盟国全てにネゴをして、大陸の大部分からハブらせてやろうかの。

あの国は他国からの輸入や施しが無いと、半年も持つまいて。」

儂は軽い気持ちで言ったのだが、その場にいた皆は凍りついたように固まっていた。

<<スポック視点>>
現在、国際連合本部では加盟国による定例国際会議が開かれています。

モーグル王国から宰相と外務大臣が来訪されてから1ヶ月が経ちました。

あの後、わたし達はそれぞれの場所に赴き、今日の会議の議題の1つである、ハーン帝国に対する制裁措置についての調査と、加盟各国に対するネゴに奔走しておりました。

わたしは、国際連合事務局長として国際連合への加盟案内を名目にハーン帝国の王城に入り、ハーン王や外務大臣の隣国に対する考え方やその奥にあるであろう背景を調査します。

また、アニスさん達数名には、旅行者として入ってもらい、市民のモーグル王国に対する感情や教育内容等について調査してもらいました。

3日間の滞在と調査期間にしては少し短かったのですが、それなりの調査結果は出せたと思います。

「スポックさん、国民に対する調査結果ですが、ひと言で言うと、唯我独尊ですね。
被害者意識が強く僻み根性が染み付いています。
生活にも困窮しており、他人を慮る気持ちは薄く、自分だけが良ければそれで良いという感覚が根付いているようです。

飲食店に入っても、他店の悪口を堂々と広言して、自店の方が優れているとアピールしてきます。
どこの店に入ってもですよ。
信じられないです。

また周辺国に対する情報も操作されているみたいです。

『隣国ではこんな不祥事があり、我が国はこんなにも優れている』とか、『隣国が新たに開発した装置は、実は我が国が開発していた技術をパクったものだ。』とか、とにかく、自国がどれだけ優れているか、隣国がどれだけ悪どく我々を貶めているかを常に情報として流しています。

国民性もそうですが、あんな環境にいたら周辺諸国に悪い思いしか抱かないでしょうね。」

アニスさんの報告に、街の調査を行ったメンバーが激しく同意しています。

「王城での会談結果も似たようなものでしたよ。

連合に加盟する条件に無茶苦茶な要求をしてきたりと、かなり上目線でしたね。
また、『周辺諸国はこんなに理不尽だから何とかしろ』と散々悪口を聞かされましたよ。」

わたしの言葉に皆も首を縦に振り相槌を打ちます。

どうやらモーグル王国の主張は、正しいことが証明できました。

ーーーーーーーーーーーーーー

定例会議の議題でモーグル王国が抱える問題になった時、わたしは自分達の調査結果を報告しました。

そうすると、ハーン帝国の周辺諸国のほとんどが、自国もモーグル王国程ではないにしろ、ハーン王国には手を焼いていると発言し、満場一致でハーン帝国への制裁が決まりました。

ハーン王国が輸入を依存している、キンコー王国、トカーイ帝国、ハローマ王国が輸出制限をかけることになりました。
3国からみたらハーン帝国への輸出などたかが知れており、何の影響もありませんが、ハーン帝国から見れば、主要産業の製造業が成り立たなくなり、庶民の暮らしにも影響が出るでしょう。

これで困って、泣きついてくれれば、国際連合として色々と手を打てるのですが。

まぁ2ヶ月もしたらなんらかのアクションを起こしてくると思いますので、それまで待ってみましょう。



1ヶ月半が過ぎた頃、ハーン帝国の驚くべきニュースが流れてきました。

ハーン帝国がナーカ教国に吸収され、消滅してしまったのです。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

慟哭の時

レクフル
ファンタジー
物心ついた時から、母と二人で旅をしていた。 各地を周り、何処に行くでもなく旅をする。 気づいたらそうだったし、何の疑問も持たなくて、ただ私は母と旅を続けていた。 しかし、母には旅をする理由があった。 そんな日々が続いたある日、母がいなくなった。 私は一人になったのだ。 誰にも触れられず、人と関わる事を避けて生きていた私が急に一人になって、どう生きていけばいいのか…… それから母を探す旅を始める。 誰にも求められず、触れられず、忘れ去られていき、それでも生きていく理由等あるのだろうか……? 私にあるのは異常な力だけ。 普通でいられるのなら、こんな力等無くていいのだ。 だから旅をする。 私を必要としてくれる存在であった母を探すために。 私を愛してくれる人を探すために……

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

処理中です...