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第3章 国際連合は活躍する

26【富めるモーグル王国と乗り遅れた2国 4】

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<<スポック視点>>
ハッカ外務大臣から提出された資料は、彼の話しを裏付けるに足るものだった。

ナーカ教国には合計で白金貨5000枚、ハーン帝国に対しては合計白金貨1万枚が拠出されていた。

モーグル王国の一昨年の国家予算が白金貨3万枚だったので単純に考えて、100年の間に平均して毎年国家予算の0.5%を拠出していたことになる。


====================

参考まで。日本の国家予算は、特別会計を合わせると300兆円と言われる。
白金貨1万5000枚/100年は、現在の日本円に換算すると約1.5兆円/年になる。

====================


「富める時であればまだしも、国内が貧困に苦しんでる時にこの金額は、かなり大きな負担となりますね。
訳の分からない金額をこれだけ支払っていたということは、ナーカ教国、ハーン帝国以外に大きな脅威があるのではありませんか?」

「スポック事務長、素晴らしい洞察力ですね。
その通りです。2国の後ろにはソラン教団がいます。

実は100年前にナーカ教国を乗っ取ったのは、ソラン教団だと言われています。

彼等は、ナーカ教国にあった宗教を真似た教えでナーカの民を騙して国を乗っ取っとり、100年かけて少しずつ変化させ、現在では名前こそ違えどほぼソラン教と同じになっています。

元々、ナーカ教国は他国との交流が少なかった為、最近まで気付かなかったのですが。」

「ソラン教団ですか。

昔ソラン共和国を宗都としていた教団と聞いたことがありますが、魔族との戦闘で国は滅び、教団自体も消滅したと聞いた覚えがあります。
実際に今もあるのでしょうか?」

わたしの疑問にカッパ宰相が答えてくれました。

「仰る通り記録では500年前の
魔族の侵攻で、1週間も経たずに
首都が陥落し降伏、僧侶や議員等主だった実力者は全て処刑され、その他の全ての住民が国を追われたと言われています。
もしかすると、その時に追われた人達に紛れて国を抜け出した教団の主要人物が代々隠れて教義を繋いできたのかも知れませんね。」

ソラン教団はソラン共和国内でのみ布教していた為、他国ではあまり知られていません。

500年も前に滅んだと言われる教団が100年前に復活し、今一国を牛耳っているとは、考え難いのだが、カッパ宰相が断言するからには、間違いないのだろう。

皆がしばらく考えていると、これまで静かに話しを聞いていたマサル殿が、話し始めた。
「魔族がソラン教団の背景にいるかも知れませんね。」

<<ナーカ教国シン教皇視点>>
俺達魔族が生を受けたのは2000年前と言われる。
それから我らが4世代目になる。

2000年前、魔族は世界の果てで自然発生したと言われている。
この世界を創造したマリスは、想定外の生き物である魔族を無視した。
それ故にマリスの加護を受けられなかった魔族は、深い瘴気の中で生きざるを得なかった。

瘴気が強いと植物は育たない。
それを取り込んだ下等な動物は自我を無くし凶暴化する。
我々魔族も淘汰の末、少数の強い個体だけが残った。

彼等は、住みやすい場所を求めて、各地へと散って行ったらしい。

我が一族は、当時の都であったプラークの都を目指した。
当時プラークの地では、人間同士の激しい争いが起こっていた。

魔族の力を利用して、戦いを有利にしようとした人間の手引きにより、プラークに侵入した爺さん達
は、 守護者である竜のナージャを眠らせることに成功し、大量の瘴気をプラークに引き込み人間を追い出した。

プラークは地下に作られた都市であり、瘴気を維持するには都合が良かった。

親父の時代まで、プラークの都に住んでいたと聞いている。
ちなみに魔族の平均寿命は、600~700年である。

しかし年月が経つ間に、瘴気はだんだんと薄くなって魔族が生きていくには厳しくなってきたのだ。

瘴気を引き込んでいた穴が土砂崩れによりふさがれて、瘴気を取り込めなくなったのだ。

魔族は、瘴気を糧として取り込み体内で浄化し排出する。
そのため、充分な瘴気が入って来ないと生きていくことができなかったらしい。

こうしてプラークの街を放棄せざるを得なかった親父達は新たな住処となる地を探した。

時が過ぎ、永住の地を求めて流浪の民となった俺達がソラン共和国にたどり着いた頃、ソラン共和国ではソラン教という宗教が、国を支配していた。
ソラン教の最高司祭は催眠術に長けた男で、議会や大商人などの国の中心となる人物を次々と催眠術で操りながら、独裁者として振る舞っていたらしい。

最高司祭は、新しい住処を求めてソランの地にたどり着いた俺達を受け入れることはなかった。

自分達よりも強力な力を持つ魔族を恐れたのだろう。

俺達に向けて軍隊を差し向けてきた。

俺達が軍隊を退けると、今度はソランの民を催眠術で洗脳し、差し向けてきた。
鍬や鋤を持った農民、子供の手を引きながら鎌を持つ女達などが、雲霞の如く押し寄せてきたという。

自分達の命を守る為、俺達は彼等を殺した。いや虐殺したという表現が相応しいだろう。

俺達は向かってくる者達を灰にしながら、そのまま首都に入り最高司祭を捕らえてソラン共和国を制圧した。

俺達はこの男を傀儡として利用することで、このソランの地を安住の地と定めた。

だがそう上手くはいかなかった。

俺達が生きていく為に必要な瘴気を首都に引き込んだところ、人間達は、狂ったように暴れ出し、人間同士で殺し合いを始めてしまった。

農村部には漏れ出した瘴気が溢れて作物が育たない。

結局、10年程でこの国は完全に消滅してしまった。

濃い瘴気の為隣国も侵略することも簡単にはできない。

少人数で国を相手に大虐殺をして国を奪った俺達を恐れた隣国は、国境線を強化して、俺達を完全に拒絶した。

その為、俺達は400年もの年月ソランの地で密かに過ごすこととなった。

幸いにも、400年もの間に少しずつ減ってきた瘴気量で生命を維持する為に体が順応してきたようで、どうにか人族が住める環境でも生命を維持することが出来るようになった。

このまま、人口が増えず俺達は滅びていくのかと諦め出した100年前のあの時、我々魔族が再び再起する機会が訪れた。

近隣のナーカ教国がハーン帝国に戦争を仕掛け、逆に攻め落とされたのだ。

それだけなら、これまでも何度か他国でもあったのだが、ナーカ教国は、戦後戦勝国に支配されることなく、脆弱な国主である教皇の元、国を運営し続けていたのだった。

国を運営しているとはいえ、敗戦の影響は大きい。
働き手を兵役に取られた国民は疲弊し、土地は荒れ、指導者が脆弱な状況で、まともな国家運営ができるわけがない。

元々宗教によってまとまっていた国民性である。

脆弱で信仰心の薄れた既存宗教よりも、俺達が征服目的で設立した甘美な新興宗教に民が乗り換えるのは、当然のことだった。

今回は、ソランの時のようなヘマはしない。

民には甘美な響きを与え続け、俺達への依存度を高めさせる。

国外には極力干渉しないようにし、俺達の存在を知られないようにした。

こうして100年かけて、我々魔族が、完全にナーカ教国を乗っ取ったのだ。

今では、教義の元において国民を、奴隷のように扱うことも可能だ。

近年、近隣の小国に対しても俺達の宗教を利用して、密かに侵攻を進めている。

このまま順調に進めば、この大陸に再び魔族が君臨する日も近いだろう。

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