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第3章 国際連合は活躍する

16【カトウ運輸の大躍進1】

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<<元隠れホンノー人レイ視点>>
俺の名前は、レイって言うんだ。
フォン様達とカトウ運輸を襲撃したメンバーの1人だ。
実際には襲撃する前に捕まってしまったから、何も出来なかったけどね。

俺達は、生まれてからほとんど集落を出たことがない。
フォン様の義理妹のフェアリー様と連絡を取る為にハローマ王国に何回か行っただけだ。
みんな外に出たいから、この仕事競争率が高いんだよね。

正直、外に出るには勇気がいるよ。
俺達、外の常識に疎いし、読み書き計算も苦手だし。

フォン様は読み書き計算を覚えろって言うんだけど、実際この集落にいる限りは必要ないんだ。
物々交換主体だからお金は使わないし、狭い村の中だから手紙書くより伝えに行った方が早いしね。

でも、外で生活するためには、読み書き計算ができないとダメらしい。
外には、余所者を騙そうとする悪い奴も居るらしいからね。

それでも、外に行きたいんだよね。
こんな小さな集落しか知らないんじゃなくて、もっと色々経験したいじゃないか。
決してフェアリー様からご褒美に頂くお菓子が目当てじゃないよ。
でもあのお菓子美味しかったなあ。



俺達は牢を出されてから、ヤング様の案内で宿舎に行った。
宿舎は、大きな建物で、5階建てになっている。
各階毎に廊下を挟んでたくさんの部屋がある。
俺達は、2人1組で住むらしい。
俺は、幼馴染のデリーと一緒の部屋になる。
部屋に入ると5メートル四方位の大きさがあり、真ん中がカーテンで仕切られていた。
4階で窓がたくさんあって気持ちが良い。
ベッドと机、洋服棚がそれぞれ2つづつあった。

これって、集落の俺の家より良いんじゃないって思うほど綺麗だ。

食堂では豪華な食事が出された。
量が多いとか、珍しい食材があるとかじゃ無い。
もちろん、集落で普段食べている物と比べられないけど。

ありふれた食材を上手く調理して、品数を増やしている。
食べたことがある食材も多いのに、無茶苦茶美味い。
いろんな味付けしているので、いくら食べても飽きないんだ。
もちろん初めて食べる食材もたくさんあるが、最近のキンコー王国では一般的になっている物ばかりらしい。

週に一度、たくさんの子供達が食べに来るんだ。
マサル様の慈善活動のひとつらしいけど、安い食材でも美味しく食べられることを通して、なんでも工夫する楽しみを覚えて欲しいとの願いがあるそうだ。

小さい子供達がいろんな工夫を考えられるようになったら、彼等が大人になる頃には、もっと生活が豊かになっているだろうと思う。

これは他から来ている奴等に聞いたんだけど、ここの飯はキンコー王国内でも美味くて有名らしい。
貴族達も視察と称して食べに来る程だって。
もちろん別室で食べて貰っているらしいけどね。

でも、たまに庶民の格好はしているけど、物凄く威厳を感じる人が何人かこの食堂に来るらしい。
いつもニコニコしながら、いろんな物を食べているんだって。

後で知ったんだけど、キンコー王国の国王やナーラ大公爵様とからしい。
みんな、軽く会釈ぐらいしかしていないけど、不敬罪にならないのかなぁ。

大丈夫らしい。


カトウ運輸では入社すると、まず学力検査がある。

その結果に合わせて、教育を受けられる。
俺は、読み書きも計算も出来ないので、初級クラスからになった。同室のデリーも一緒だ。
初級クラスは、庶民用の小学校で子供達と一緒に学ぶ。
俺以外にも大人がちらほらいるしデリーもいるので、寂しくはないぞ。

みんな一生懸命に勉強している。
ただで教えて貰えるんだぜ。
小学校を卒業するだけでも、普通に生活するだけなら充分以上の知識を得られる。

中学校を卒業したら、大商会に雇って貰えるらしい。

中学校を卒業出来たら、大商会が欲しい程優秀な人材ってことだ。

まぁ、なかなか難しいらしいけど。
たまに中学校卒業者に孤児院育ちの子供もいるみたいだ。

王国としても、埋もれている優秀な人材を発掘できれば、将来的な国の発展にも繋がる。だから学校への支援を強化しているとハリス様が言ってた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

小学校に入学してから1年が経った。
小学校は一定の学力がついたら卒業できる。
俺は一生懸命頑張ったから1年で卒業出来た。
優秀な方なんだって。

今俺はハリス様の下で、本社の警備と仕入れの管理をしている。

毎日大量に入ってくる品物の検品と、納品書の確認が主な仕事だ。
最近では、入荷が遅れている品物の督促や代替品の調達等も任せて貰えるようになった。

これも、小学校できちんと勉強させてもらったからだ。
あの時の俺のままだったら、今でも何も出来なかっただろう。

本当にカトウ運輸には感謝している。

実は「中学校に行かないか」とヤング様に声をかけて貰っている。

中学校は、働いている人達の為に、夜学をやっているらしい。
昼間働いて、夜に中学校に通うのだ。

俺は有難く行かせて頂くことにした。
もっと勉強して、カトウ運輸に恩返ししたいんだ。


<<元隠れホンノー人デリー視点>>
同室のレイが、小学校を卒業し中学校に通うことになった。
まぁ、あいつはなんでも器用だったからな。
頭の回転も早かったし。

俺もレイに教わりながら、レイに2ヶ月遅れで小学校を卒業した。

俺の配属先は物流センターの管理係だ。物流センターとは言ってもバカでかい。
カトウ運輸で、「ハブ・センター」と呼ばれる大規模物流センターの一つだ。

「ハブ・センター」とは、王都やサイカーみたいな交易の盛んな港町なんかに設置される物流センターで、各地に散らばっている物流センターから集められた品物を一旦集約し、適正量を各地に発送するための集約機能を担っているって説明を受けた。
難しいんだけど簡単に言えば、遠くの街から遠くの街に少量をちまちま運ぶよりは、中間地点で一旦集めておいて、まとめて大量発送した方が効率が良いということらしい。

物流センターに出入りする荷物の管理と倉庫内の整理、長期保管在庫の定期検品が仕事になる。

俺は、レイと違って頭より肉体を使う方が性に合ってる。

だから中学校には行かない。
そのかわり、ここの仕事では誰にも負けないくらいに頑張ってやる。

レイが夜学に通いだしてから、なかなか話す機会が減ったけど、たまに休みが合った時には、お互いの仕事のことを話す。
俺は荷物の入出庫情報から全体的な商品の流通量の変化について、レイは最近の市場の動向についてが多い。

お互いの話しを合わせると、いろんなことがわかってくる。

他領や他国の景気具合、商品流通の過不足、作物の生育状況や製品の生産力・供給力の過不足等である。

異常だと感じたところは、ハリス様を通してヤング様に報告している。

大体はヤング様もご存じだが、たまに気付いていなかったこともあるようだ。
そんな時は、直接俺達にお褒めの言葉をかけて頂ける。


この前、大根の流通量がおかしいと感じて報告した。

俺の働く物流センターには大陸中の各村々から野菜や肉類等が、毎日大量に入ってくる。
毎日入出庫の検品をしていると、どの作物が、いつ、どの位入って来て、どのくらい何処に出ていくかが頭に入ってくる。

発端はレイの何気ない一言だった。
「最近、大根の値段が上がっているような気がするんだが、不作の産地でもあったのかなあ。」

「いや、そんなことはないと思うぞ。若干の多少はあるが、入ってくる量は昨年とあまり変わらないと思う。」

「じゃあ、出荷が偏っているとかは?」

「そうだなあ、在庫量はほぼ変化が無いけど、どこに出荷されているか、ちょっと調べてみるよ。」

軽い気持ちで大根の出荷先を調べた。

この倉庫からは、食材のほぼ6割が王都内での消費、残りの4割が近隣の物流センターに配送される。
近隣の配送センターへは例年と変わらず出荷されている。

各物流センターには、卸売り市場の機能もある。
物を運ぶためには出荷者と、荷受人が必要だが、通常は出荷者が荷受人を先に特定しておくことが必要だ。
でも、実際にはそんなことは出来ないので、カトウ運輸が一旦出荷者から商品を買い取り、遠方で荷受人を探して販売する手段をとっている。
これが、卸売りだ。
荷受人は、大抵大きな商人となる。

商人からしてみれば、安定した量の様々な物を欲しい時に欲しいだけ調達できるのだから、直接産地から購入するよりも若干高めでも、カトウ運輸から購入する。

俺は王都での大根の卸先を調べてみた。

「んんっ、王都での卸先で昨年と比べて偏りがあるな。」

大根の卸先リストの中に昨年はなかったサーベル商会の名があった。王都に流れる大根のおおよそ3割近くを購入している。

「サーベル商会と言えば、最近王都に現れた新興の商会だったっけかな。」

俺は、その情報をレイに伝えた。

「サーベル商会が王都に流通するはずの大根の3割を買い占めているのか。
わかった、調べてみるよ。ありがとうデリー。」


後日、レイから話しを聞いた。

俺の話しを聞いた後、レイはヤング様に相談したらしい。
ヤング様が近しい商人達から情報を集めたところ、サーバル商会が売り惜しみをして値段のつり上げを考えているらしいことが分かった。

ヤング様とレイがその話しをしている時に偶然マサル様が入って来られたので、その内容をお伝えしたら、「ちょっと確認してきますね。」って出ていかれたらしい。
その2日後、ナーラ領の衛兵がサーベル商会に調査に入り、大量の大根を発見したそうだ。

サーベル商会はその後大量の罰金を取られると共に、王都での商売ができなくなったらしい。

衛兵がサーベル商会に入った翌日、俺とレイがマサル様に焼き肉を食べに連れて行って頂いたのは、みんなには内緒だ。
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