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第3章 国際連合は活躍する

6【マーズル領の視察3】

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<<マーズル街代官スライス視点>>
わたしはマーズル領の首都、マーズル街で代官職を務めたているスライスという。
王都の官僚であるリザベート様がマーズルに来られ、街の案内役を仰せつかった。

リザベート様といえば、ナーラ公爵の養子であり、英雄「赤いイナズマ」のリーダー ライアン男爵の実子だ。
王都でロングラン中の舞台「マサル、ハーバラ村の奇跡」でもヒロインとして、逆境に耐えながらも汗水流して改革を進める姿は見る者の全てが涙したという。

更に、王立アカデミー在学中には、常に首席を維持し、大陸中に行政改革を広めたと言われる研究会の会長を務めていたという。
女性初の官僚になられたことも、当然のことだろう。

リザベート様の今回の視察目的は、マーズル領で改革が遅れていることについてだろうと思う。

王国全体で進んでいる改革は、わたしも良く聞いているし、王都で定期的に開かれている説明会や勉強会にも参加している。

ただ、この街の代官であるわたしには、この街をコントロールしきれていない。
この街には古くから数件の商会による暗黙の独自自治があり、街の大半がその傘下にある為だ。

彼等にとって改革は、何の価値も無く、弊害の方が多い。
彼等が改革に反対する以上、この街で改革は進まないだろう。

リザベート様の案内をしながら、そんな話しをした。
あまり王都の官僚にはしたく無い話しだ。
でも、リザベート様だったらこの状況を何とかしてくれるのではないかとの期待も込めて、一生懸命説明した。

メモを取りながら熱心に聞いて頂けている。

そうこうしている間に、城壁門までやって来た。
ここで あの マサル殿と待ち合わせだそうだ。

しばらく城壁から外を見ていると、遠くで高い砂煙が発生しており、守兵が騒然となっている。

魔物の襲撃?
一瞬頭をよぎるが、物見の者から魔物の報告は無い。
あれだけの砂煙なら大型が20匹ほどいそうだから、物見が気付かないはずは無い。

「人間です!人間が凄いスピードで走っています。」

耳を疑う物見の怒鳴り声。

「マサルさん。相変わらず派手ね。」

えっ、リザベート様のつぶやきに我に返る。
マサル……様?

やがて我々の前に、1人の若者が現れた。

「リズ、マーク、すまない。遅くなった。」

「マサルさん、いつもながら派手な登場ですね。
皆さん、魔物の襲撃かと大騒ぎでしたよ。
ねえ、スライス殿。」

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。
この街の代官を拝命しております、スライスです。
マサル様、よろしくお願い申し上げ致します。」
リザベート様に振られて、また我を取り戻したわたしは、マサル様に挨拶した。

だって、舞台「マサル、ハーバラ村の奇跡」の主役本人だぜ。
これが緊張せずにいられるかってんだ。
あっ不味い、本音が出た。

「マサルです。スライス殿、よろしくお願いします。」

「さあ、マサルさん行きましょう。歩きながら情報共有しますね。」

やっぱり、マサル様とリザベート様、舞台の中も良かったけど、本人達はもっとカッコいい。
ああ、ジャン騎士にもいつかあえるかなあ。あの人の境遇には親近感がわくんだよなあ。

マサル様、リザベート様一行と城に戻り、領主と引き合わせた。

その後、マサル様が空を飛んだり、ボールペンの開発者であったりで驚くことが多かったが、
とりあえず、改革を進めるための案はまとまった。

よく話しが見えなかったが、国家間の取り決めが成立すれば、この街の自治権が戻り、改革が進むらしい。

良い方向に進めばいいな。




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マサル様、リザベート様を見送ってから2ケ月後、あれ程この街に巣くっていた商会達が、次々に街から出て行った。
どうやら、国家間の取り決め?が成功し、商会達が取引していた小国が取引を停止したらしい。
それに合わせて、力を急速に失った商会達は、今までの非道な行動もあり、街に居られなくなったみたいだ。

現在、街の中心部に巨大な物流センターが建設中だ。
とは言っても、マサル様がまた飛んできて、土魔法で建物を建てていったから、後は内装だけなんだけど。

やっぱり「事実は小説よりも奇なり」っていうしね。マサル様はすごい人だ。

吟遊詩人にこの話しをしてやったら、また舞台になるかも。「マサル、マーズル街での奇跡」ってね。
そしたら、わたしもジャン騎士のように脇役の一人になれるかな。

口止めされているから、話さないけどね。


物流センターができると、大規模な雇用が始まった。

カトウ運輸の会頭であるマサル殿.... えっ、マサル様?
マサル様って、あの巨大商会のカトウ運輸の会頭なの?

何度も言うけど、あの人って????

といことで、仕切り直して。

カトウ運輸のマサル会頭からの指示で、引退した冒険者、老人、働き口を探している主婦や女性、孤児院出身で身寄りのないもの等、俗に言う生活弱者を中心に人が集められた。
通常なら、カトウ運輸は大手商会であり応募多数になるので、生活弱者は絶対に雇用しない。
ただ、カトウ運輸はこれまで全ての街でこうしているらしい。

マサル様曰く、「適材適所」というもので、適切な教育と配置をすれば「使い物にならないと言われる者達」も良い人材になるらしい。

とにかく、カトウ運輸が正式稼働する頃には、スラムが無くなり、代わりにカトウ運輸が経営する集合住宅というものができた。

これも、マサル様の発案でナーラ領、王都他各街で作られているみたいだが、1つの建物を細かい部屋に分け、大量の人間が住めるようにしたものだ。
各部屋は、入り口が施錠でき、さらにその中が細分化されており、トイレや風呂もある。
家族でも、1人でも住めるように部屋の大きさもまちまちだ。

カトウ運輸で働いているものや、生活弱者は優先して住めるようになっている。

また、物流が増えた街には多額の関税が入るようになったので、住民の税額が一様に下がった。
これにより、他国からの移民や商人も増え、より街に活気が出てきた。

いや、いいことだらけだ。マーズル様は、ナーラ領のように累進課税の導入や下水道や上水道の整備等街の基盤を充実させると意気込んでいらっしゃる。

わたしの仕事も忙しくなったが、こんな忙しさは大歓迎だ。

本当に良かった。

やっぱり、吟遊詩人に話してしまおうかな。
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