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第3章 国際連合は活躍する

3【ターバ領の視察】

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<<マーク視点>>
ターバの街は活気に満ちていた。
いち早くカトウ運輸を招致し、大規模物流センターを構築した首都ターバは、キンコー王国の倉庫と呼べる程の食料や物で溢れている。
その関税だけでもとんでもない金額になるであろう。
また、その商品を取引するために集まった大陸中の商人達が落とすお金もばかにならない。

これだけ人・金・物が集まっても治安がしっかりしているのは、ライス代官の手腕と言わざる負えないだろう。

昨夜ターバ伯爵主催の晩さん会でライス代官が、なぜ改革を推進しようと決意したのかを聞いた。
ナーラ領での視察経験、それもマサル殿に対する憧れが彼をここまでに育てたのだ。

マサル殿、あなたっていったい。

<<リザベート視点>>
ライス先輩は、税制の見直しも行なっていました。
所得に応じて税額を計算する累進課税制度です。

マサルさんの提案から出てきたこの課税方法は、ナーラ領では既に採用されていますが、それ以外では、ここターバ領だけでしょう。
これだけ景気が良く、他領から商人が集まっているのだから、累進課税制度は、非常に効果的だと思います。

商人にとっては、他よりも高い税金を納めることになるのですが、それをはるかに超える利益が出るのだから、文句も出ないでしょう。

必要な税収を賄うだけであれば、一般庶民にかかる税額は、微々たるものになると思います。

そうだとすれば、この領に移住する人が増え、労働力の確保が容易になり、更なる税収が望めるでしょうね。

ライス先輩が、もしそこまで考えてカトウ運輸の早期招致を進めたとすると、彼もまた天才だったというべきですね。

それにしてもターバ伯爵も慧眼だと思うのです。
アカデミーを卒業したとはいえ、若造に過ぎないライス先輩を登用したのだから。

どちらにせよ、現状はこのままでも大丈夫でしょう。

ちょっと気になったのは、物流が税収の柱になっているので、自領内での生産による税収確保が脆弱なことかな。

非常時に備えてこれから準備しておくことをライス先輩に伝えて、ターバ領を離れます。

見送ってくれるライス先輩の後ろで控えめに手を振っているシルビア先輩もいるから、これからも大丈夫みたいです。

<<ルイス・ターバ伯爵視点>>
ライス君を雇ったのは、本当に正解だった。
ライス君のことは、昔からよく知っている。
わたしと彼の父親であるカツ・カレー子爵は幼馴染なので、家族ぐるみの付き合いがあった。
カツは、寡黙だが頭の良い男だ。
カレー家は、代々王城で裁判官を務めている。
彼は現在、裁判官として1年の大半を王都に滞在している。
カレー家の長男であるナン君は、アカデミーを優秀な成績で卒業し、裁判官の見習いとして父親と共に王城で働いている。
将来的には、ナン君が裁判官として跡を継ぐのだろう。
カレー家は、ナン君がいれば安泰だと思う。

2年前のある日、仕事で王都に滞在中のわたしのところに、カツが訪ねてきた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ルイス、忙しいところ申し訳ない。
折り入って頼みがあるんだ。」

カツが、頼んでくるなんて珍しいこともあるものだ。

「珍しいな、君が人に頼み事をするなんて。」

「実は、息子のライスのことなんだが。
ライスは、今王立アカデミーに通わせている。
あいつは長男と違ってなんでもすぐに諦めてしまうところがあってな、全て中途半端なんだ。
アカデミーに通わせたのも、アカデミー卒の箔でも付けておかないと、働き先にも困るだろうと思ったからだ。

あいつも今年卒業する。
半年くらい前に、進路について話したんだがどうも的を得ない。
このままでは働きもせず、のらりくらりと堕落しそうなんだ。
俺が働き先を決めることも出来るが、たぶん反発するだろう。」

「なるほど、それで俺に働き口を紹介して欲しいと。
わかった。他ならぬおまえの頼みだ。引き受けよう。」
「情けない話しですまないが、よろしく頼む。」

「任せておけ。」

それからしばらくして、ライスが実家に帰って来た。

それを聞きつけたわたしは、早速ライスを城に招いた。

「ライス、久しぶりだな。アカデミーはどうだった?」

「はい、ルイス様。正直なところ、最初の2年間は、退屈で無気力な生活をしていたと反省しています。」

「様はよせ。他に誰もいないし、いつものようにおじさんでいいぞ。」

「わかりました。ルイスおじさん。
アカデミーでの最初の2年間は、シルビアがいてくれたお陰で、何とか進級できたようなものです。

ただ、3年目の1年間は非常に充実した時間でした。
3年目に、「次世代の農村を考える会」っていう研究会に参加したんです。

ナーラ領での農村改革のことは、既にお聴きになられていると思います。
「次世代の農村を考える会」っていうのは、アカデミーとしてそれを支援する為の研究会です。」

「ああ、ナーラの件は聞いている。
ハーバラ村だったか。 生産性が大幅に向上し、移住者の受け入れが大変だと聞いたが。」

「そうです。そのハーバラ村に研究会で行ってきたんです。
改革を指揮している、ユーリスタ・ナーラ公爵夫人の養子であるリザベート様と一緒に。

改革中の村に入って、一緒に作業をして来ました。全てが俺の常識を遥かに超えていて、理解するだけでやっとなほどでした。

でも1番凄いと思ったのは、お金をかけた公共事業なんかじゃなくて、村人をはじめ、王都から派遣された学者達、アカデミーの教師達、荒くれ者達までが一丸となって、お互いに協力し合いながら、作業をしていることなんです。

作付けする作物の選定、作付け時期、農地の治水から収穫後の加工や保存方法、食材の調理方法まで、一貫して整備してました。

今まで食べられないと思われていた物が美味しく食べられるんです。

おじさん、米って知ってますか?

そうです、昔東の国から献上された植物です。
焼いて食べようとしたら、固くって食べられないと判断され、ナーラ領に保管されていたのですが、これを麦の2期作用として植えていました。

麦は、半年くらいで収穫できますが、続けて植えると、だんだんと不作になっていくのはご存知だと思います。
だから、麦畑は半年間空いています。
実は、麦を続けて植えるとダメなんですけど、麦と米だったら続けても大丈夫みたいです。
これだけで、収穫は2倍になります。

更に、野菜なんかも、腐葉土っていう森の土を混ぜて耕すことで、作物の発育が良くなり味も抜群に美味くなるんです。

あっそうそう、オドラビットって知って  ………………」

ライスは興奮しすぎて、話しが止まらない。

「ライス、わかった。おまえが凄い経験をして、良く勉強して来たのも良くわかった。

その経験は、非常に有意義だと思うので、レポートにまとめて提出してくれ。

ただ、ターバ領とナーラ領では、産業構造が違うから、その辺は考慮して、ターバ領にあった改革案を頼む。

良いものであったら、おまえをリーダーとして、改革を進めようじゃないか。」

「おじさん、いやターバ伯爵様、絶対良い案を提出します。1週間時間をください。」



1週間後、ライスはレポートを持って来た。
農村に対するテコ入れはもちろんだが、その案の中核になるのは、ユーリスタ様の第1書記官であるマサル殿が計画中の「カトウ運輸」の拠点をターバ領に構えて、それを核とし、ターバ領を王国各地間を繋ぐ交易の中心として発展させるというものである。

レポートは、あと何十枚も続くのだが、案を採用するかどうかの可否だけであれば、これで充分だ。

わたしは、その場で辞令を書いた。
ライス、おまえは今日から、俺の行政改革補佐官に任命する。
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