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第2章  敵はホンノー人にあり

3【コフブ領へ】

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<<マサル視点>>
突然ネクター王に呼び出され、ホンノー自治区の状況を聞いた。
最終的な解決方法は別途考える必要があるが、まずは期限の迫った襲撃に備える必要がある。
マリス様から頂いたタブレットを使って、カクガーの森側の戦力を調べる。
「約500人か。ライヤー殿、こちらの戦力は?」
「負傷者を除くと、約150人です。」
再びタブレットを検索し、敵の武器を調べる。
火器は、炎と地震の杖型魔道具がそれぞれ100本づつってとこか。
リーダーの名前はっと 、   ????

????ってどういうことだ?

「????になるのは特定の人物がいない時か、あるいはわたしにすら隠蔽できる強力なスキルを持っているかどちらかね。」

マリス様の声が頭の中に聞こえた。
特定の人物がいないのか、いやそれだと、こんなに早く各部族をまとめるのは難しいだろう。
そうすると、強力な隠蔽スキルを持った奴ということになる。

「もし、わたしにも分からない隠蔽スキルが有るとしたら、わたしが創った者には、不可能ね。
もちろんマサルさんみたいに、わたしが力を与えた者にも。
もしかしたら、魔族かも。魔族は、人族が突然変異したものだから、わたしの知らないスキルを持っている可能性があるわ。」

なるほど。そうすると、かなり厄介だ。
もしかすると、本当のターゲットは、ホンノー人じゃなくて、人族ってこともあり得る。
ともかく、一度ホンノー自治区に行って状況確認するとともに、防衛策を考えよう。

俺は、ユーリスタ様の元に戻って、事の顛末を話し、ホンノー自治区に向かうと告げた。
ユーリスタ様は心配してくれ、騎士団の派遣も提案してくれたが、まだ何も分からない状況なので、今回は1人で行くことにした。
まぁ、1人の方が融通が利くからな。
ということで、俺はホンノー自治区に向かった。

ホンノー自治区は、コフブ伯爵領の西の端にある。
途中、ネクター王の親書をコフブ伯爵に渡す為、首都コフブに立ち寄った。
王都からコフブまでは、馬車で5日かかるが最速で走ったら、1日ちょっとで着いた。
コフブ伯爵に面会を申し入れ、親書を手渡す。
コフブ伯爵は、キンコー王国の西側を守護する役割を担っている。
それ故に、軍事的には強力なものを持っているが、行政には少し疎い様に感じた。

俺は親書にもあるように、もしもの場合の防衛ラインとしての機能をお願いした。
コフブ伯爵は快諾してくれ、今日は、伯爵家に宿泊させていただくことになった。

「さあマサル殿、長旅お疲れでしょう。あまり大層なご馳走もできませぬが、ゆっくりしていって下され。」
「コフブ伯爵、ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。」
「マサル殿の噂は、ここコフブまで聞こえてきておりますぞ。斬新なアイデアとそれを実現する行動力、この辺りの社交界でも持ちきりですぞ。」
「ありがとうございます。クラーク様やヘンリー様が、王都でのネゴに奔走してくださり、ユーリスタ様が、全体的な調整を担って下さったからこそ、上手くいっているといえましょう。」
「マサル殿は、謙遜に過ぎるな。そもそも、ナーラ大公爵を動かせる程の信頼を勝ち取った事自体が、千金に値するのだぞ。

おおっ、ちょうど妻が来た。紹介しょう。
妻のミランダだ。」
「はじめまして、マサル様。
マイク・コフブの妻ミランダです。
お噂はかねがね伺っております。
行政改革の手腕についてはもちろんですが、お茶会で一番盛り上がっておりますのは、料理の腕前ですのよ。
以前、王都の舞踏会に参加した際に、マサル様の作られたという、えっと何と申しましたか、米の上に茶色のソースがかかった…」
「カレーライスですね。」
「そうそう、それです。カレーライスです。口に入れた時は、辛くてしようがないのですが、直ぐに甘みと何とも言えない香りがして、やみつきになってしまいました。
材料を聞いて持ち帰り、当家の料理長に作らせてみましたがあの味が出ないのです。」
「まだ材料があるのであれば、わたしが料理長に指導させて頂きましょうか?」
「そんな、お疲れですのに申し訳無いですわ。」
「大丈夫ですよ。すぐに始めましょう。」

<<コフブ家料理長視点>>
奥様が王都で食されたというカレーライスという食べ物に悪戦苦闘している。
米という食材も初めてだし、様々な色と匂いの粉や実… 香辛料というらしいがこれの合わせ方が難しい。
肉を焼く際に、塩とペッパーなる香辛料を振ってから焼いたら、信じられないくらい美味しくなった。
まるで魔法の実だ。1種類だけでも劇的に味が変化するのだ。
上手く香辛料を混ぜ合わせることができたなら、どれ程味のバリエーションが増えるだろうと思う。

奥様の仰る、「辛いけど、味に奥行きがあり、ほのかな甘みと食欲をそそる強烈な香り。」をどうしても再現したいが、わたし自身食したことがないので、イメージが掴めない。

あれから1月は格闘しているが、まだ奥様の満足を得られていない。

料理人としての限界を感じ始めていた頃、あの方、マサル様が突然やって来られた。

「料理長、紹介します。王都から来られたマサル様です。」
奥様が厨房に入って来られ、1人の青年を紹介された。
「マサルと申します。カレーライスを作る為、厨房と食材をお借りしたいのですが、よろしいでしょうか?」

なにぃ、カレーライスだと!

「マサル様は、王都でわたしが食したカレーライスを、作られた方なのです。
今回、特別に作り方をご教示頂けるとのことなので、料理長もしっかり教わって下さいね。」

なんと、カレーライスの作り方をご教示頂けると!
これはなんたる幸運なことか。

「マサル様、ご教示感謝致します。よろしくお願い致します。」

「承知しました。料理長、一緒に頑張りましょう。」

マサル様の料理方法は、わたしが知るものよりも繊細で丁寧なものだった。
この世界の料理といえば、基本塩を付けて焼くか、水に入れて煮るぐらいが一般的だ。

マサル様は、「蒸す」という調理方法を教えてくれた。
この調理方法を使えば、野菜の形を崩さずに、色も鮮やかに火を通すことができた。
口に入れてみると、砂糖も使っていないのに、甘みがしっかりついている。
「その甘みは、野菜本来が持っているものです。
水で煮た場合、スープに甘みを付けることはできますが、野菜からは甘みを失ってしまいます。
蒸せば、スープに溶け込んでいた甘みを野菜に閉じ込めておくことができます。

じゃあ、カレーライスに取り掛かりますね。」……

米のとぎ方や炊き方、香辛料の調合から入れるタイミング、香辛料の種類と使い方等、今までの常識が覆る程の衝撃を受けたが、必死で覚えた。

料理を始めて30年、わたしにはもう学ぶべきものなど無いと自負していた。
今回、マサル様に料理の奥深さを教えていただき、更なる精進を決意したのである。


(後日談) 
この料理長は、マサルが伝授した様々な調理法を昇華させ、後に「真料理の始祖」と呼ばれるようになるが、いつまでも精進することを忘れなかったという。
また、彼は多くの弟子を取り、自身の新たに得た知識を惜しみなく弟子に伝えたので、大陸中に散らばった弟子達により、一気に新しい食文化が花開いた。



「そう、この味よ!」奥様のうれしそうな声が、食堂いっぱいに響く。
旦那様も、夢中で食べておられる。
今日の料理は、カレーライスとハンバーグ、蒸し野菜だ。
どれも、わたしの知っている料理ではなく、マサル様に教わったものだ。

わたしも一通り食べてみたが、これまで食したどの料理でもなく、そしてどの料理よりも美味しい。
いや、味だけでいえば、もっと美味しい食材はあるだろう。
ただ、いくつかの香辛料を使うことと、調理方法を変えただけだ。
それだけのことで味に深みが出て素材本来の旨味を引き出している。
どこでも取れて且つ安価な食材を高級料理として充分出せるレベルにできるところに、料理の神髄を見たような気がする。
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