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第1章 キンコー王国は行政改革で大忙し

24【ハーバラ村は大賑わい】

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<<フレディ視点>>
マサル殿がこの村にやって来て1年が過ぎた。

1年前に立てた計画はほぼ完了し、村人だけでも運用できるようになった。

成果についても充分過ぎる程に出ている。

この村での成果は、大公爵領内のみならず、王都でも評判になっているらしい。

麦や米は領主様が買い取ってくれ、税は貨幣でも構わない事になった。

決められた期間に税の農作物を運ぶ必要がなくなり、随分と楽になった。

王都の大手商会は、村内に支店を作って、米や安い白パン、オドラビットのハンバーグを買い取り、王都を始め、他国にまで販売してくれている。

そのおかげで、村内ではすっかり貨幣が流通している。

流入してくる農民もどんどん増え、過疎の問題もどこかにいってしまった。

改革を実施したメンバーは、各地の領主様に請われ、その領地の改革を指導し始めた。

1年前にヘンリー様に呼び出された時には想像すらできなかったものがここにある。

マサル殿には、いくら感謝してもし足りない。

そのマサル殿は、つい先日ナーラ街に戻って、今度は、ナーラ大公爵領全体の改革に取り組むそうだ。

その旗振りは、ユーリスタ様がされるらしい。

ユーリスタ様は、名宰相と歌われた、アーノルド・ワーカ様の娘であり、稀代の天才と言われた方だ。

女性が表舞台に立つのは珍しいが、ハーバラ村の改革も、マサル殿とユーリスタ様の話し合いから始まったそうだ。

きっと、領内全体を幸せにしてくれるだろう。


わたしもこの村をより発展させるために尽力したいと思う。

後継者の育成も必要だしな。

おっと、そろそろ王立アカデミーの生徒さんが社会見学に来られる時間だ。



<<ユーリスタ視点>>
マサル様がハーバラ村に行ってから1年が過ぎました。

その間何度も打ち合わせを行い、進捗の確認と方針の見直しをしてきました。

マサル様の意見は、穴を見つける事すら出来ない程緻密でしたので、詳細の確認をすることぐらいしかわたしにできることはなかったと思います。

ただ、マサル様は、「自分の計画を他人に話すことで、漏れがないか確認できる事がありがたい」と仰って下さいます。

この1年、かなり勉強させていただきました。

唯一の誤算は、秘密裏に試行するはずだったハーバラ村の件が、王都どころか他国にまで知れ渡ってしまった事です。

3ケ月前に、村の警備隊を組織し、慌ててハーバラ村に派遣しました。

それと領内の他の場所でも改革を望む機運が高まり、それに伴いわたしが改革担当として、表舞台に立つ事になりました。

領内とはいえ、若い時に夢見た事が実現できるところまできました。

今はまだマサル様についていくのがやっとですが、若い頃のパワーを取り戻して、頑張ります。



<<マール視点>>
ハーバラ村を訪れるのは何回目だろう。

ハーバラ村の事が王都でも有名になり、社会見学に、ハーバラ村を利用することになった。

そこで村人から語られるリザベート君の話しが話題になり、リザベート君もすっかり有名人になった。

「次世代の農村を考える会」にも入会希望が殺到し、成績優秀者や領主の子弟等の制限を設けている程だ。

「次世代の農村を考える会」では、定期的にまとめ上げた案をユーリスタ君に提案している。

いくつか採用され、それが更なる活動へのモチベーションとなっている。

リザベート君も、持ち前の聡明さに磨きがかかり、すっかりリーダーとしての貫禄がついてきた。

ナーラ大公爵領では、ユーリスタ君が改革担当として、大鉈を振るっているらしい。

彼女の養子であるリザベート君といい、やはり、これからは女性の社会参加も必要だと思う。

ナーラ大公爵領に行ってユーリスタ君の補佐をしたい気持ちもあるが、わたしは、教育で立派な人材の育成をしていこう。



<<マサル視点>>
ハーバラ村の改革もひと段落してきた。もう俺が居なくなっても、フレディ村長が運用してくれるだろう。

とにかく、マリス様に頂いたタブレットは非常に役に立った。

あれが無ければ試行錯誤を繰り返し、もっと大変だったろう。

他の地域に展開する場合にも必須だろう。

地域特性で考慮が必要な部分は、先にまとめておいた方が良いだろう。

王都に、開発専門の部隊を設置してもらってそこにノウハウを蓄積していった方が良いな。

しばらくサポートしてあげれば大丈夫だろう。

実は、このプロジェクトを始める前に、クラーク様にお願いしていた案件があった。

それは、特許制度と国際裁判所の設置である。

ハーバラ村での試行結果は、様々な発明品や調理法、技術を生み出すだろう。

俺が教えた事だけでなく、この世界の人々が新たに創造することもあるだろう。

これからは特許の仕組みが無いと、これらの発明は、紛争のタネになりかねない。

特に軍事に関するものは、国家を超えての紛争を引き起こすだろう。

それを調整する為の国家間を跨ぐ調停機関、つまり国際裁判所が必要となる。

俺は、クラーク様にその必要性を訴え、ハーバラ村での試行の条件にした。

クラーク様は、その必要性をよく理解され、ネクター・キンコー国王に進言して下さった。

その後すぐに、俺はクラーク様、ヘンリー様と共に王城に呼ばれ、俺の世界の制度について話した。

ネクター王は聡明であり、先見性を持っていた。

すぐに俺の説明を理解し、その必要性と有用性を悟られた。

その場で、国の重鎮が集められ、国内での特許制度の導入手順の策定や、大陸会議での国際裁判所に対する提案準備を進めるよう指示を出しておられた。

こうして、特許制度の導入と国際裁判所の設置は、完了した。


余談ではあるが、国際裁判所の初代所長には、ユーリスタの父親で元宰相のアーノルド・ワーカ氏が選出された。

大陸各国からの信頼が高かったのが理由である。

ちなみに特許第1号は、水車、水車を使った畑への水引きの技術である。

その後、岩塩から製塩する方法や麹菌の生産等、試行の中で産まれた様々な発明も特許対象となり、村の共有財産となることが決まった。

特許を取得した発明は、その製造方法を文書にて国際裁判所に保存され、誰もが特許使用料を払えば製造でき、その製造物を販売する際には、売り上げに対して一定の特許使用料の支払いが発生する為、発明者に不利益にならないようにするのが目的である。

また、誰かが発明したものを合法的に使うことができるので、開発コストの削減等特許使用料を払う側にも利点が大きい。

こうして、大陸各国にハーバラ村の改革が採用されていったのだった。
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