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第1章 キンコー王国は行政改革で大忙し

18【作業は順調に進んでいく】

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<<マサル視点>>
作付け環境改善チームは、当初混乱した。

地域の農民達とナーラの知識人(いわゆる学者)が、作物の植え方、育て方について意見を違えたからだ。

農民は自分の経験から得た知識で、知識人は農学の学術的な知識で、それぞれ主張する。

俺の前世の記憶をたどれば、どちらの言い分も正しくて間違っている。

つまり、農学に基づく知識は前世の14世紀における常識に近く、一般的な農法としては的を得ている。もちろん、俺の知っている現代の常識とは大きく違う。

農民の経験による知識は、この地の地形や気候、土壌に合わせた工夫がされており、この土地に関しては、ほぼ正解だが当然間違っているところも多い。

つまり両者の主張を合わせた上で、俺の知識を入れるのが正しいのだが、なかなかそうはいかない。

そこで俺は、両者を集めて勉強会を行うことにした。

もちろん講師は俺で、オブザーバーとしてフレディにも参加してもらった。

比較法を使って、両者の意見をまとめていく。

まず、作付け手順や方法、考慮すべき点等を洗出し、一覧表に項目として並べていく。

次に、一覧表の各項目に対する両者の意見を双方並列に書き出していく。

項目を随時加えていきながら、意見の書き出し精度を高めていき、両者が納得できる表ができるまで続ける。

最後に、同意見のところと差異のあるところを洗出し、差異のあるところについて、相手の意見をどう思うか双方に質問し、差異を明らかにする。

だいたいにおいて、こんな諍いはよくある話だ。こうしてキチンと比較してみると、80%くらいは同じ事を言っている。

一部の意見が相違するところだけが衝突し、それに引っ張られて全く違う意見のような錯覚をする。

冷静にその一部が何故違うのかを話し合えば、概ね解決する。

最終的に両者で合意の取れた結果を元に表を書き直し、左側に入れる。

そして、俺の考える農法をその左側に書き出していく。

ようやく、ここから作業を始める準備ができた。

この作業に丸1日要したが、おかげでこの地域独特の環境やこの世界での常識が良く理解できたし、何よりも気難しい学者達が農民の言葉に耳を傾けてくれるようになったのが一番の収穫だ。

その晩、フレディさんが俺の部屋に来た。

「マサル様、本日はお見事でした。

わたしは立場上、どちらの味方に付くわけにもいかずおろおろするばかりでしたが、あんなにうまくまとめて頂けるとは。

さすが領主様が認められた方ですね。

今日の話し合いはわたし達にとって、非常に有意義なものでした。

マサル様や学者様から教わった技術は、わたし達の知らない事も多く勉強になりましたし、何よりも村人に向上心を目覚めさせられたのが大きいと思います。」

フレディさんの目はキラキラしており、俺は自分がやろうとしている事の必要性について改めて再認識した。

翌日より、農民と学者の溝はどんどん埋まっていき、それに応じて様々な案と検証が進んでいった。

そして治水工事が完了する頃には、作付けに必要な技術、玄麦(種子)、肥料等が一通り揃っていた。



<<とある学者視点>>
領主様より農村の改革を行うプロジェクトに参加するよう要請があった。

わたしの専門は地質学であり、農地の改善を行う事になる。

わたしの家は代々ナーラ領に仕える学者の家系で、わたしも王立アカデミーを卒業したエリートだという自負がある。

このプロジェクトは、わたしの研究結果を実際に試す良い機会だと思い、参加を決意した。

10日後にハーバラ村というところに行くらしい。

今回の目的は全領内での農村改革の試行である。

この試行がうまくいき、さらに全領内の改革がうまくいけば、わたしの名前は後世まで残るであろう。

バーバラ村には、マサルという人がリーダーとして赴くらしい。

わたしも研究ばかりであまり人間関係に明るい方ではないが、全く聞いたことの名前だ。

家名も明らかでない。

広場で行われた壮行会では、伯爵家のジャン様が見知らぬ若者と壇上に立っている。

彼がマサルであろう。

ジャン様の親しげな態度や時々出る敬語、マサルの上品な態度や受け答えなど鑑みると、どうやらあのマサルという若者はかなり高貴な出自だとみた。

バーバラ村に到着すると、歓迎会が開かれた。

当然我々学者は上座に座る。

マサルより下なのは、ちょっと癪だが、向こうは、領主様から指名されたリーダーだからしょうがないだろう。

村人達は皆リザベート様のところに集まっていて、こちらには誰もこない。

まぁ 来てもらっても話しが合うわけでもなく、来ない方がありがたいが。

当然わたし以外の学者連中も同じこと、上座は上座で呑むことにする。

同じ上座の末席に座っていたジョージ騎士を見ると、どこに行ったのかいつの間にか居なくなっていた。

宴が始まってすぐの頃、マサルがやってきた。

簡単な挨拶を交わした後、わたしは彼にこのプロジェクトについて聞いてみた。

マサルは、まだ内密にと言いながらも、このプロジェクトの背景やなすべき事、その後の壮大な計画まで、わたしに語った。

その話しは、一見夢物語に思えたが詳細を聞くにつれだんだんのめり込んでいく程に聞き入ってしまった。

荒唐無稽に見えて緻密な計画の積み上げがあり、わたしの想像を大きく超える、いや想像すら出来ない。まるでそれを実際に実現し運用してきたかの様な説得力がある。

もしこれが作り話であれば、彼は稀代の詐欺師であろう。

その後彼は席に戻ったが、わたしの興奮は収まらず、つい深酒をしてしまった。

翌日は、当然のように二日酔いになって、自己嫌悪に陥ってしまった。

するとマサルがやって来て、わたしに浄化魔法をかけていった。

二日酔いはすぐに解消したが、わたしの彼に対する考えが大きく変わった。

彼は詐欺師ではない。

何故なら、浄化魔法が使えるのであれば、詐欺なんてチンケな事をする必要がないのだから。
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