120 / 132
番外編
番外編 イリヤの特訓
しおりを挟む
イリヤとの結婚式に出席する為に、ヒロシがアルマニ領から王都に向かっている頃のお話し。
「イリヤ様、イリヤ様、お目覚めの時間にございます。」
「うーん、ふぁーあー。もう朝なのね。タランおはよう。」
「イリヤ様、おはようございます。
善くお眠りになられましたか?」
「ええ、とっても。今日は天気も良くってとっても気持ちの良い朝だわ。」
「それはなによりです。
さあ、朝食のご用意が調っております。
お着替えをいたしましょう。」
「タラン、今日はひとりで着替えてみるわ。
ほらアルマニ領に行ったら自分ひとりでやらないいけない場面もあるかもしれないもの。」
「まあまあ!彼方にはわたくしもご一緒致しますからそんなご心配には及ばないとは思いますが、イリヤ様のそのお気持ちにタランは感動しております。」
イリヤが生まれてからずっとそばに寄り添ってきた壮年の侍女は、我が子のように慈しむ姫の結婚を控えた覚悟を垣間見たようで、思わず笑みを浮かべた。
「どう?わたしひとりだと少し時間がかかってしまうかもしれないけど。」
「大丈夫でございますとも。
ごゆっくりお着替えくださいませ。
わたくしは、この吉事を妃殿下にお伝えして参ります。」
タランは着替え一式と化粧道具をイリヤに説明すると、いそいそと退出していった。
ひとり自室に残ったイリヤ。
「さてと、お着替えしましょうね。
市井の洋服屋では自分ひとりで着替えた事もあるんだからね。
全く問題無いわ。」
その頃、タランは王妃様と慶びを分かち合いながらお茶を楽しんでいた。
タランとしては早く戻りたい心地ではあったのだが、「着替え終わる前に行くとイリヤの気が削がれるかもよ」の王妃の言葉にそれもそうかと誘われるままひとときのお茶を楽しむのであった。
「妃殿下様、そろそろ1時間くらいになります。
少し様子を伺いに伺いたいと思います。」
楽しい時間に囚われていつの間にか時間が経過していることに気付いたタランが王妃にお暇を願う。
「そうね、そろそろ良いかも。
わたしもご一緒するわ。」
連れ立って王城内を歩く二人はイリヤの部屋の前に立ち、中を窺う。
特に音もしないため、既に着替え終わったのではと推測。
ドアをノックした。
とたんガタガタという音が鳴ったと思ったら、ドシン!と大きな音が中から聞こえた。
慌てて部屋に飛び込むタランと王妃。
「イリヤ様、どうされましたか!」
横たわるイリヤと、その身体に複雑に絡みまくったドレスが目の前にあった。
「もお、お母様ったらいつまで思い出し笑いをしていらっしゃるの!!」
「ハハハ、ごめんなさいね、でも思い出したら面白くって。クククク。」
時間は経過し、午後のティータイムのひととき。
王妃の楽しそうな顔に少々苛つき気味のイリヤ。
「でもね、学業でも行儀作法でも誰よりも優れているあなたなのに、着替えが出来ないのは盲点だったわ。
本当なら小さな時に当たり前のように覚えるものですのにね。
でも王女だから仕方ないかもね。
いいわイリヤ。今から特訓しましょ。」
かくしてイリヤの着替え大特訓が始まった。
ドレス、浴衣、その他自室にあるあらゆる衣装を覚えていく。
意外にもチュニックには手を焼いた。
首を通すのを怖がったのだった。
それもなんとか克服し、最後に残ったのは正装の十二一重モドキ。
さすがにこれをひとりで着るのは難しいので、とりあえず終了となったのは夜の10時過ぎ。
へとへとになった2人はその晩自室でぐっすり熟睡したのだった。
翌朝、イリヤが自分ひとりで着替える姿を見たタランが大粒の嬉し涙を流したのは当然だろう。
もともとなんでも器用にこなしてきたイリヤだったが、昨日人間として基本的な部分が滑落していることに気付かされた。
他にも無いかとタランに相談。
その日からお茶の入れ方や生花の生け方などを教わり、2日後にはタランのお墨付きを頂いた。
こうして3日に及ぶイリヤの特訓は無事に終了した。
後はヒロシとの結婚式を待つのみであったのだが、早朝の早馬でヒロシの訃報が知らされたのはその3日後のことであった。
----------------------------------------
不定期で番外編を書いていこうと思います。
本編のサブストーリーとして1話完結にしたいと思っています。
お読み頂ければ幸いです。
「イリヤ様、イリヤ様、お目覚めの時間にございます。」
「うーん、ふぁーあー。もう朝なのね。タランおはよう。」
「イリヤ様、おはようございます。
善くお眠りになられましたか?」
「ええ、とっても。今日は天気も良くってとっても気持ちの良い朝だわ。」
「それはなによりです。
さあ、朝食のご用意が調っております。
お着替えをいたしましょう。」
「タラン、今日はひとりで着替えてみるわ。
ほらアルマニ領に行ったら自分ひとりでやらないいけない場面もあるかもしれないもの。」
「まあまあ!彼方にはわたくしもご一緒致しますからそんなご心配には及ばないとは思いますが、イリヤ様のそのお気持ちにタランは感動しております。」
イリヤが生まれてからずっとそばに寄り添ってきた壮年の侍女は、我が子のように慈しむ姫の結婚を控えた覚悟を垣間見たようで、思わず笑みを浮かべた。
「どう?わたしひとりだと少し時間がかかってしまうかもしれないけど。」
「大丈夫でございますとも。
ごゆっくりお着替えくださいませ。
わたくしは、この吉事を妃殿下にお伝えして参ります。」
タランは着替え一式と化粧道具をイリヤに説明すると、いそいそと退出していった。
ひとり自室に残ったイリヤ。
「さてと、お着替えしましょうね。
市井の洋服屋では自分ひとりで着替えた事もあるんだからね。
全く問題無いわ。」
その頃、タランは王妃様と慶びを分かち合いながらお茶を楽しんでいた。
タランとしては早く戻りたい心地ではあったのだが、「着替え終わる前に行くとイリヤの気が削がれるかもよ」の王妃の言葉にそれもそうかと誘われるままひとときのお茶を楽しむのであった。
「妃殿下様、そろそろ1時間くらいになります。
少し様子を伺いに伺いたいと思います。」
楽しい時間に囚われていつの間にか時間が経過していることに気付いたタランが王妃にお暇を願う。
「そうね、そろそろ良いかも。
わたしもご一緒するわ。」
連れ立って王城内を歩く二人はイリヤの部屋の前に立ち、中を窺う。
特に音もしないため、既に着替え終わったのではと推測。
ドアをノックした。
とたんガタガタという音が鳴ったと思ったら、ドシン!と大きな音が中から聞こえた。
慌てて部屋に飛び込むタランと王妃。
「イリヤ様、どうされましたか!」
横たわるイリヤと、その身体に複雑に絡みまくったドレスが目の前にあった。
「もお、お母様ったらいつまで思い出し笑いをしていらっしゃるの!!」
「ハハハ、ごめんなさいね、でも思い出したら面白くって。クククク。」
時間は経過し、午後のティータイムのひととき。
王妃の楽しそうな顔に少々苛つき気味のイリヤ。
「でもね、学業でも行儀作法でも誰よりも優れているあなたなのに、着替えが出来ないのは盲点だったわ。
本当なら小さな時に当たり前のように覚えるものですのにね。
でも王女だから仕方ないかもね。
いいわイリヤ。今から特訓しましょ。」
かくしてイリヤの着替え大特訓が始まった。
ドレス、浴衣、その他自室にあるあらゆる衣装を覚えていく。
意外にもチュニックには手を焼いた。
首を通すのを怖がったのだった。
それもなんとか克服し、最後に残ったのは正装の十二一重モドキ。
さすがにこれをひとりで着るのは難しいので、とりあえず終了となったのは夜の10時過ぎ。
へとへとになった2人はその晩自室でぐっすり熟睡したのだった。
翌朝、イリヤが自分ひとりで着替える姿を見たタランが大粒の嬉し涙を流したのは当然だろう。
もともとなんでも器用にこなしてきたイリヤだったが、昨日人間として基本的な部分が滑落していることに気付かされた。
他にも無いかとタランに相談。
その日からお茶の入れ方や生花の生け方などを教わり、2日後にはタランのお墨付きを頂いた。
こうして3日に及ぶイリヤの特訓は無事に終了した。
後はヒロシとの結婚式を待つのみであったのだが、早朝の早馬でヒロシの訃報が知らされたのはその3日後のことであった。
----------------------------------------
不定期で番外編を書いていこうと思います。
本編のサブストーリーとして1話完結にしたいと思っています。
お読み頂ければ幸いです。
1
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜
和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。
与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。
だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。
地道に進む予定です。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる