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番外編

番外編 イリヤの特訓

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イリヤとの結婚式に出席する為に、ヒロシがアルマニ領から王都に向かっている頃のお話し。

「イリヤ様、イリヤ様、お目覚めの時間にございます。」

「うーん、ふぁーあー。もう朝なのね。タランおはよう。」

「イリヤ様、おはようございます。

善くお眠りになられましたか?」

「ええ、とっても。今日は天気も良くってとっても気持ちの良い朝だわ。」

「それはなによりです。

さあ、朝食のご用意が調っております。
お着替えをいたしましょう。」

「タラン、今日はひとりで着替えてみるわ。

ほらアルマニ領に行ったら自分ひとりでやらないいけない場面もあるかもしれないもの。」

「まあまあ!彼方にはわたくしもご一緒致しますからそんなご心配には及ばないとは思いますが、イリヤ様のそのお気持ちにタランは感動しております。」

イリヤが生まれてからずっとそばに寄り添ってきた壮年の侍女は、我が子のように慈しむ姫の結婚を控えた覚悟を垣間見たようで、思わず笑みを浮かべた。

「どう?わたしひとりだと少し時間がかかってしまうかもしれないけど。」

「大丈夫でございますとも。

ごゆっくりお着替えくださいませ。

わたくしは、この吉事を妃殿下にお伝えして参ります。」

タランは着替え一式と化粧道具をイリヤに説明すると、いそいそと退出していった。

ひとり自室に残ったイリヤ。

「さてと、お着替えしましょうね。

市井の洋服屋では自分ひとりで着替えた事もあるんだからね。

全く問題無いわ。」


その頃、タランは王妃様と慶びを分かち合いながらお茶を楽しんでいた。

タランとしては早く戻りたい心地ではあったのだが、「着替え終わる前に行くとイリヤの気が削がれるかもよ」の王妃の言葉にそれもそうかと誘われるままひとときのお茶を楽しむのであった。

「妃殿下様、そろそろ1時間くらいになります。

少し様子を伺いに伺いたいと思います。」

楽しい時間に囚われていつの間にか時間が経過していることに気付いたタランが王妃にお暇を願う。

「そうね、そろそろ良いかも。
わたしもご一緒するわ。」

連れ立って王城内を歩く二人はイリヤの部屋の前に立ち、中を窺う。

特に音もしないため、既に着替え終わったのではと推測。

ドアをノックした。

とたんガタガタという音が鳴ったと思ったら、ドシン!と大きな音が中から聞こえた。

慌てて部屋に飛び込むタランと王妃。

「イリヤ様、どうされましたか!」

横たわるイリヤと、その身体に複雑に絡みまくったドレスが目の前にあった。


「もお、お母様ったらいつまで思い出し笑いをしていらっしゃるの!!」

「ハハハ、ごめんなさいね、でも思い出したら面白くって。クククク。」

時間は経過し、午後のティータイムのひととき。
王妃の楽しそうな顔に少々苛つき気味のイリヤ。
「でもね、学業でも行儀作法でも誰よりも優れているあなたなのに、着替えが出来ないのは盲点だったわ。

本当なら小さな時に当たり前のように覚えるものですのにね。

でも王女だから仕方ないかもね。

いいわイリヤ。今から特訓しましょ。」

かくしてイリヤの着替え大特訓が始まった。

ドレス、浴衣、その他自室にあるあらゆる衣装を覚えていく。

意外にもチュニックには手を焼いた。
首を通すのを怖がったのだった。

それもなんとか克服し、最後に残ったのは正装の十二一重モドキ。

さすがにこれをひとりで着るのは難しいので、とりあえず終了となったのは夜の10時過ぎ。

へとへとになった2人はその晩自室でぐっすり熟睡したのだった。

翌朝、イリヤが自分ひとりで着替える姿を見たタランが大粒の嬉し涙を流したのは当然だろう。

もともとなんでも器用にこなしてきたイリヤだったが、昨日人間として基本的な部分が滑落していることに気付かされた。

他にも無いかとタランに相談。

その日からお茶の入れ方や生花の生け方などを教わり、2日後にはタランのお墨付きを頂いた。

こうして3日に及ぶイリヤの特訓は無事に終了した。

後はヒロシとの結婚式を待つのみであったのだが、早朝の早馬でヒロシの訃報が知らされたのはその3日後のことであった。

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不定期で番外編を書いていこうと思います。

本編のサブストーリーとして1話完結にしたいと思っています。

お読み頂ければ幸いです。

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