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エピローグ

その人の名は

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取引き先のホームパーティーに向かう途中で、俺は運命の出会いをすることになった。

ひとりの女性が靴の紐が切れて困っているってベタなシチュエーションに出くわした。

清楚な佇まいに愛らしい顔つき、でも意思の強さを感じる知性的な女性。

一目ぼれとかじゃなくて、なんとなく俺の第六感が彼女を引き付ける。

俺は予備で持っていた靴紐をその彼女に渡してあげた。

何故そんなに靴紐を持っているかって。

あっちの世界で俺は何回も殺されているんだ。何事にも用心深くなっているのは当然だろう。

靴紐だってTPOに合わせて10本くらい持ち合わせているぞ。

彼女とはそこで別れ、少し遅くなったのでパーティー会場へ急ぐ。




結果から言うと、得意先令嬢との恋愛はなかったよ。

ホームパーティー会場について酒と食事をして終わり。

あちらも日本企業に合わせた社交辞令ってやつだね。

親父に結果を連絡しても、「そうか」の一言で終わったから、それで良かったのだろう。

もちろんその取引き先企業とは、その後も問題無くお付き合いさせて頂いた。

その後、ロシアでは靴紐の彼女と再会すること無く、俺は別の国へと移動した。




それから20年。45歳になった俺は社内の内紛に巻き込まれる。

俺が海外を飛び回っている間に、社内は社長となった兄貴を推す社長派と俺を社長に擁立しようと考えている常務派の2つに分かれていたんだ。

俺には社長になりたいなんて気持ちは全く無かったんだけど、それは会社の実権を取りたい常務の陰謀だった。

兄貴も次の社長は自分の子供って考えていたから、俺が邪魔だったのかもしれない。

まぁ、俺にはあっちの世界で持ったスキルがあるし、この程度のことは慣れっこだったから、何の問題も無い。

兄貴から適当に退職金をせしめてとっとと会社を辞めた。

その後常務派がどうなったかなんて知らないよ。




日本に帰って来た俺は、東京の郊外にマンションを購入してミーアとふたりで暮らし始める。

実はこの辺り地元ではパワースポットとして有名なところで、魔力が特に濃いところだったんだ。

現代日本に魔力を感じられる人なんていないから、誰も気付かないだろうけど俺達には分かる。

ここでは少しだけ魔法が使えるようになった。

ミーアは変身出来るくらい。
俺は収納くらいかな。

でもこの2つがあればこの先の生活が楽になるのは間違いない。

だって収納には食べ切れないくらいの食糧と金塊が入っているんだからね。

一応働き先はリモートワーク出来るところを選んだ。

外国語が堪能で商社の海外駐在経験豊富だから、貿易事務関係の会社に入ったんだ。

これでミーアと一日中一緒に居られるね。


金塊は少しづつ海外のインターネットサイトを通して売却していった。

まとまった取引きをして入手先を問い質されても困るからな。

少しづつ金を現金化しているが、あまり使うことが無いため貯金はどんどん貯まっていく。

もう働く必要も無いんだけど、何かしていないと落ち着かないんだよね。



しばらく経ったある日、会社からロシアの現地企業に連絡を入れて欲しいとの依頼を受ける。

輸入申請されている数と実際に入ってきた数が合わないんだけど、確認した相手側のロシア訛りがひどくて何を言っているか分からないから、代わりに対応して欲しいとのことだった。

最近はインターネットの発達でパソコンを使ってテレビ電話が出来るようになってきた。

まだ通信速度の問題で完全とは言えないって聞いたけど、顔を見て話せるだけで充分だ。

俺はパソコンで指定されたインターネットアドレスに接続する。

画面には俺と同じくらいの女性の顔が。

「「あっ!」」


ロシアで靴紐をあげた彼女だった。

彼女が向こうの会社の担当者みたいで、普段はロシアの西北にある小さな港町で俺と同じく貿易事務をしているとのこと。

あの日はたまたま友人の結婚式でモスクワに来ていたらしい。

トラブルの件については実に単純ですぐに解決した。

それ以来、彼女とはテレビ電話で時々話す間柄になった。

彼女の名はイリア。偶然似た名前なのか生まれ変わりなのかは分からない。

俺が彼女に運命を感じたのと同じように彼女も何かを感じていたらしいから、やっぱり生まれ変わりなのかも。

別に彼女と付き合いたいとか、結婚したいとかそんなことはみじんも思っていない。

だって彼女はあのイリヤじゃないんだから。


向こうも早くに旦那様を亡くしているみたいで一人暮らしみたいだ。

俺達はミーアも交えていろいろと会話を楽しんだ。

ミーアはイリアさんと会う時は人間の姿に変身して俺の子供のように振舞っている。

以前イリヤとお茶を飲みながらたわいもない話しをしていた時のことを思い出すよ。

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