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エピローグ

新しい生活が始まるのです。

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気が付いた時、俺と子猫になったミーアはあの渡り廊下の橋の上にいた。

服装はあの転移した時の中学校の制服のままだ。

向こうの世界での記憶は残っている。

ミーアを見ると、じっとこっちを見て嬉しそうに「ミャー」と鳴いた。


俺はそのまま高等部の校舎に向かう。

あの時転移した直後であれば、高等部で説明会と進学手続きをする予定だったから。

説明会場に行くと皆んながざわついていた。

俺は懐かしいいくつかの顔から盛岡保志に話しかける。

中学校時代からの同級生のひとりだ。

「保志、なんかざわついているみたいだけど、何があったんだ?」

「おお、広志か。実はな...って広志お前がどっかに消えたって健二と由香里が騒いでいて...

おおーい、健二!、広志がいたぞー!」


「広志!お前どこに行ってたんだ!突然いなくなったから皆んなで大騒ぎしていたんだぞ!」

「あー良かった広志君。ほんと心配したんだからね。」

顔を真っ赤にして怒りながらも安堵の顔を見せる健二と、半べそをかきながら笑顔で迎えてくれた由香里さん。

「悪い。橋の下にこの子がいたから拾いに行っていたんだ。」

異世界に行ってましたなんて言っても誰も信じないし、下手をしたら病院に運ばれる可能性もあるし。

咄嗟に出た言葉にミーアも呆れたみたいで「ミャー」っと鳴いた。

「ほんとにお前は可愛いものを見ると見境が無くなるんだから。

とにかく先生方も心配しているから早く顔を見せてきた方がいいぞ。」

ミーアを一瞥した健二も少しあきれ顔である。

俺は先生の元に行って素直に謝った。

ちなみに中高一貫のこの学校では6年間担任は同じである。

「広志、全く心配したぞ。さあ、これがお前の進学資料だ。説明会はこれからあるから早く席に着くように。

その猫はこちらで預かっておこう。」

先生がミーアを掴もうとするがミーアが逃げる。

俺の頭の上に乗ったまま梃でも動かないぞとばかりに踏ん張っている。

「やれやれ、広志、おとなしそうな猫だしそのまま行ってもいいぞ。
うるさくしたら無理にでも連れ出すからな。」

「ミャー」

小さく返事をしたミーアにその場は大爆笑に包まれたのだ。


こうして俺の高校生活は始まった。

さすがに授業にミーアを連れていくわけにはいかず、ミーアは母親に預けてある。

母親もミーアの可愛さにはメロメロで二つ返事でOKだ。

授業が終わるとまっすぐ家に帰り、ミーアの相手をしながら勉強を始める。

今までは勉強する意味が全く分かっていなくて怠けてばかりだったけど、転移して向こうの世界で生活してからは、学校で学ぶ全てのことが意味あることに思えてきた。

特にこの学校の独自カリキュラムでもある経営学では、先生も舌を巻くほどだった。

実際に向こうで領地経営していたわけだから、その時の知識も大きいけどね。

ミケツカミ様が言ってた通り、地球では魔素が限りなくゼロに近いため、魔法は使うことが出来ない。

ただ、第六感って言うんだろうか、気配察知と鑑定はなんとなくだけど使えるようだ。

鑑定って言っても前みたいに詳細な内容が分かるわけでは無く、多者択一がよく当たるとか、嘘を見抜けるとかそのレベルだけど、こっちの世界ではかなり有利なスキルだ。

例えば競馬の出走表を見ただけでどの馬が1等になるか分かるし、試験の選択問題も答えが分かってしまうし。

そんな不正はしないけどね。

そんなことして手を抜いても本質的に何も変わらないのはよく知っているからね。

そんな感じで月日は流れ、俺は日本の最高学府である○○大学に入学することが出来た。

卒業後は親父の会社に入って、社長となる予定の兄貴のサポートをするのが俺の役目。

だから経済学部に進む。ここで国際経済学を学んで海外事業を推進していくのが俺の今の夢だ。

大学に入学して2カ月。俺はあるひとりの外国人と知り合うことになる。

名前はハリス君。ヨーロッパ系アメリカ人の留学生だ。

っていうか、ハリス王子じゃないか。

もちろん、あっちの世界の記憶なんて全く持って無さそうだから、他人の空似ってことは充分考えられるが。

ハリス王子…いや留学生のハリス君が何かを必死になって探しているみたいだから、話しかけてみた。

実はあっちにいた時のスキルで、こっちでも使えるものがもうひとつあった。

翻訳スキルだ。

英語であろうがロシア語であろうがドンと来い。

ロシア人と話したことは未だ無いから分からないけどね。

ただ英語の先生でも難解なハリス君のアラスカ訛りは完璧だったよ。

おかげでハリス君の探し物を見つけられたし、ハリス君の通訳に任命されたのは仕方ないかな。

大学生活はそれなりに楽しかった。

そうそう、3回生の時に新歓コンパにやって来た新入生の芹沼(せりぬ)ちゃんに一目惚れしたハリス君が玉砕していたことは公然の秘密だよ。


大学を卒業後、親父の会社に就職した。

一部上場の商社で、先物取引きを得意としている。

俺は言語スキルを買われて、2年目から、海外駐在生活を送った。

ミーアとふたりで、世界中を回って商品の買い付けをしていく。

鑑定と気配察知スキル、それと翻訳スキルをフル活用して、ドンドン成果を上げていく。

早くも5年目には役員へのお誘いが親父からあったけど、丁重にお断りした。

だってミーアとふたりの旅生活って面白いんだもの。

まるであっちの世界に戻ったような気がするんだ。

ロシアでレアアースの取引き交渉をしていた時のことだ。

親父のやつ、縁談を持ってきやがった。

断ったんだけど、取引き先のお嬢さんだって言うから断り切れず、とにかく顔見せだけでもすることになった。

お見合いと言ってもロシアのこと、相手先の家でホームパーティーらしい。

その家に行く途中、俺は運命の出会いをすることになる。
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