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記憶喪失

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「…………マクベスさん。」

「ええっ、この人がマクベスさんなの!」

「本当かよ、こいつはマックっていうんだぜ。でも記憶喪失だから昔の名前は分からないんだっけな。」

「ミルクさん、間違いないの?」

「間違いありません。この人はマクベスさんです。この肩の痣が証拠です。」

「俺過去の記憶がないんだが、確かに俺の名前はマクベスだ。
君は俺のことを知っているのかい?」

「お前、マックって名乗っていたじゃないか?」

「あーすまない。ハリス。記憶が無いものだから、本名で街に出ると危険な目にあう可能性があったからな。」

「記憶は何時頃からありませんか?」

「もう5年近く前からだな。モーグル王国の山中で傷だらけで倒れていたらしい。」

「わたしが山賊に攫われた時期と同じ頃です。

あの時、マクベスさんの部下だったラムスという男が裏切り、わたしを拉致したのです。
マクベスさんはその時わたしを逃がそうとして……

死んでしまったと思っていました…、本当に…本当に良かった……」

涙でグチャグチャなわたしをヤーラさんが優しく抱きしめてくれました。




その後今日の仕事を終えたわたしは、マクベスさんと2人で夕食を食べながら話しをしました。

お互い当たり障りの無い話ししか出来ません。

話しを切り出すのが怖かったのです、

きっとマクベスさんも同じだったと思います。

自分が自らの過去を全く忘れているにもかかわらず、それを知る人間が現れたのです。

恐らくマクベスさんは、自分が清廉な人間ではなかったことを本能的に感じているのでしょう。

食事が終わり店を出ました。

お互い気まずいまま、寮まで歩きます。

寮の近くの公園に差し掛かった時、マクベスさんが話し掛けてきました。

「俺のことを教えてくれないか?」

マクベスさんの言葉に、わたしは言葉に詰まります。

街を破壊したことや、わたし達を拉致したこと等、今のマクベスさんを傷つけてしまうかもしれません。

わたしが躊躇していると、その様子を見たマクベスさんは、少し俯き加減で話します。

「やはり、俺は何か悪事に手を染めていたのだな。
もしかして、君を辱めるようなことをしてしまったんじゃないのか?」

「………………」

「やはりそうだったのか。
本当に済まなかった。申し訳無い。

いくら口で言ったところで、許してもらえるとは思わない。

俺の一生を掛けて償わせて欲しい。

それと、やはり今回の話しは辞退すべきだと思う。

明日ハリスさんに断ってくる。

ミルクさん、本当に申し訳なかった。」

「待って、ち、違うの。
確かにあなたは傭兵のリーダーとして街を襲い、わたし達を攫った。

でもあなたは優しく扱ってくれた。
わたし達は、あなた達と一緒に暮らせて楽しかったのよ。

本当に。

わたしはあなたが大好きだったの。

あなたのことだけが……。今でも……。

だから一緒にいて欲しい。
わたしをひとりにしないで。」

「君をどんなに傷つけてしまったか分からない俺で良いのか。

本当に後悔しないのか。」

「あなただけ、あなただけを5年も待ち続けたのよ。

また離れるなんて言わないで。」

「ミルクさん……

分かった。俺はこれから一生掛けて君を守ろう。

俺と一緒になって欲しい。」

わたしは、マクベスさんの腕の中に飛び込み泣き出してしまいました。

もちろん嬉し涙なのは言うまでもありません。

「はい。一生守って下さいね。
約束ですよ。」

マクベスさんは、ギュッと抱きしめてくれました。



3日後、マクベスさんはモーグル王国に帰って行きました。
もちろん、向こうの警備隊の隊長として。

「ミルクさん、一緒について行かなくて良かったの?」

「ええ、マクベスさんもしばらくは大変でしょうし、わたしもここの仕事にやりがいを持っていますから。

でも近いうちに一緒に住もうって約束したんです。

死んでるかもと思いながら、5年も待ったんてすよ。

生きていて、約束もしてくれたのだから、全然平気です。

それとも、ヤーラさんは、わたしが居なくなった方が良かったですか?」

「本当に、ぶつよこの娘は!」

「「ははははは」」

経理部は笑いに包まれていたのでした。




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