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奴隷解放
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その日は突然やってきました。
その日の朝、わたしは日課になっているメアリちゃんの勉強を見ていました。
「ミルク!上に上がるんだ。
お客がお待ちだ。
今日の客は貴族じゃ無さそうだが、金は持ってそうだぞ。
何人も欲しいって言っている。
お前も選ばれるように頑張るんだぞ。」
奴隷商人に声を掛けられ、牢の扉を開けて、上に連れて行かれました。
いつものように皆と一緒に並びます。
お客様は若い男性で23、4歳というところでしょうか。
ごてごてとした着飾りはしていませんが、簡素ながらも好感の持てる清潔そうな身なりです。
わたし達を好色な目で舐め回すこともありません。
わたしはふと気が付きました。
今日一緒に並べられているのは女の人だけじゃなくて男の人達もいるのです。
それも、この屋敷にいる奴隷で健康そうな人のほとんどじゃないでしょうか。
「マイルさん、ここにいる奴隷はこの方達で全てですか?」
「いえ、病気でお見せ出来ない者や、まだ10歳に満たない者も残っておりますが。」
「分かりました。その方達も含めて、全員購入させて頂きます。」
「「「「えぇっ。」」」」
奴隷は言葉を発してはいけないと強く言われていますが、思わず声をあげてしまいました。
まぁ奴隷商人も含めその場にいた全員が声を揃えたのも無理はないです。
だって全員ですよ。病気の人も含めて。
いくら掛かるのでしょう。
「お客様、いくらなんでもお戯れを。」
「冗談じゃないですよ。ちゃんとお支払いしますし。」
お客様はそう言うと、机の上に置いた重そうな袋を開け、中に入ったこうかをじゃらじゃらと出し始めました。
机の上には見慣れない硬貨がたくさん積み重なっています。
「これは白金貨!ええっ、こ、これ全てですか!」
「そうですよ。マイルさん、これでも足りなければ、後でお持ちします。」
白金貨ですって!
硬貨は大陸共通なので、白金貨の存在は知っています。
この国の物価は分かりませんが、白金貨が一般的に流通している国は無いはずです。
奴隷商人の驚き具合から考えても、とんでもない価値だと思います。
奴隷商人の態度が変わります。
「お客様、あなたはいったい何者ですか?
何が目的でこんなことをされているのでしょうか?」
明らかに警戒しています。
「いやあ、奴隷を買いに来ただけですよ。ちょっと大きな商売をしようと思うので、人が大量に必要になったんです。」
「それにしても、この白金貨の数は異常ですし、病気の者までお買い上げになるなんて、どう考えても不自然です。」
その通りだとわたしも思いますし、奴隷の皆もうなずいています。
「そうですねぇ、お金の出どころはちょっと言えませんが、わたしの言っていることは本当ですよ。」
「信用できませんね。お引き取りいただきましょうか。」
「しようがないなあ。あんまり使いたくなかったんだけどなあ。」
そう言うとそのお客様は書簡を奴隷商人に渡しました。
奴隷商人はそれを一瞥して、目を見開きました。
「まあ、開けて読んでみて下さい。」
奴隷商人が急いで開封し、中を確認します。
奴隷商人の顔が青ざめていくのがわかりました。
「どうですか、それを見なかったことにして、このお金でこの人達を売ってくれませんか?」
奴隷商人はしばらく考えて言葉を絞り出します。
「いえ、お金は必要ありません。何もなかったことにして、彼等を連れて行ってもらえませんか?
それで、このことは内密にお願いします。
よろしくお願いします。」
脂汗をかきながら奴隷商人は必死にお客様に頭を下げています。
「そうですか。ふうこれで8件目か。やっぱり同じ反応だなあ。
分かりました。
ところで、他のところでは、あなた方も商売が成り立たなくなるので、一緒に連れて行って欲しいという方もおられるのですが、あなたは如何ですか?」
「少し考えさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「わかりました。じゃあ、こちらの皆さんは連れて行きますね。」
その後、そのお客様はわたしに、牢に案内して欲しいと言ってきました。
わたしが牢まで案内すると、お客様は牢に残っていた病人や肢体が不自由な人達に向かって「浄化、回復」と言いました。
すると、先程まで死にそうな息遣いをしていた人達が、安らかな息遣いに代わっています。
右腕の無かった人には右腕がついていました。
皆、おどろいています。
それらの奇跡が1人の青年によってもたらされたと気付いた人達は、まるで神を崇めるかのようにその青年を拝み始めました。
「さあ、皆さん。外に出ましょう。あなた達は自由になるのです。
まだ動けない方は運んであげて下さい。
一緒に外に出ましょう。」
こうしてわたし達は何もわからないまま、お客様に導かれるまま外に出たのでした。
外に出ると、わたし達は集められました。
「隷属解除、浄化」
奴隷には隷属の魔法が掛けられ、行動を束縛されています。
それは、手のひらにある奴隷紋で分かるのですが、お客様の呪文でわたしの奴隷紋が消えました。
皆さん同じように消えて驚かれています。
「わあ、手の模様が消えたよ。ミルクお姉ちゃん。」
隣でメアリちゃんがよくわからないといった顔でこちらを見ています。
わたしも全く理解の範囲を超えていますが、お客様がわたし達を救って頂いたことだけははっきりとわかりました。
その日の朝、わたしは日課になっているメアリちゃんの勉強を見ていました。
「ミルク!上に上がるんだ。
お客がお待ちだ。
今日の客は貴族じゃ無さそうだが、金は持ってそうだぞ。
何人も欲しいって言っている。
お前も選ばれるように頑張るんだぞ。」
奴隷商人に声を掛けられ、牢の扉を開けて、上に連れて行かれました。
いつものように皆と一緒に並びます。
お客様は若い男性で23、4歳というところでしょうか。
ごてごてとした着飾りはしていませんが、簡素ながらも好感の持てる清潔そうな身なりです。
わたし達を好色な目で舐め回すこともありません。
わたしはふと気が付きました。
今日一緒に並べられているのは女の人だけじゃなくて男の人達もいるのです。
それも、この屋敷にいる奴隷で健康そうな人のほとんどじゃないでしょうか。
「マイルさん、ここにいる奴隷はこの方達で全てですか?」
「いえ、病気でお見せ出来ない者や、まだ10歳に満たない者も残っておりますが。」
「分かりました。その方達も含めて、全員購入させて頂きます。」
「「「「えぇっ。」」」」
奴隷は言葉を発してはいけないと強く言われていますが、思わず声をあげてしまいました。
まぁ奴隷商人も含めその場にいた全員が声を揃えたのも無理はないです。
だって全員ですよ。病気の人も含めて。
いくら掛かるのでしょう。
「お客様、いくらなんでもお戯れを。」
「冗談じゃないですよ。ちゃんとお支払いしますし。」
お客様はそう言うと、机の上に置いた重そうな袋を開け、中に入ったこうかをじゃらじゃらと出し始めました。
机の上には見慣れない硬貨がたくさん積み重なっています。
「これは白金貨!ええっ、こ、これ全てですか!」
「そうですよ。マイルさん、これでも足りなければ、後でお持ちします。」
白金貨ですって!
硬貨は大陸共通なので、白金貨の存在は知っています。
この国の物価は分かりませんが、白金貨が一般的に流通している国は無いはずです。
奴隷商人の驚き具合から考えても、とんでもない価値だと思います。
奴隷商人の態度が変わります。
「お客様、あなたはいったい何者ですか?
何が目的でこんなことをされているのでしょうか?」
明らかに警戒しています。
「いやあ、奴隷を買いに来ただけですよ。ちょっと大きな商売をしようと思うので、人が大量に必要になったんです。」
「それにしても、この白金貨の数は異常ですし、病気の者までお買い上げになるなんて、どう考えても不自然です。」
その通りだとわたしも思いますし、奴隷の皆もうなずいています。
「そうですねぇ、お金の出どころはちょっと言えませんが、わたしの言っていることは本当ですよ。」
「信用できませんね。お引き取りいただきましょうか。」
「しようがないなあ。あんまり使いたくなかったんだけどなあ。」
そう言うとそのお客様は書簡を奴隷商人に渡しました。
奴隷商人はそれを一瞥して、目を見開きました。
「まあ、開けて読んでみて下さい。」
奴隷商人が急いで開封し、中を確認します。
奴隷商人の顔が青ざめていくのがわかりました。
「どうですか、それを見なかったことにして、このお金でこの人達を売ってくれませんか?」
奴隷商人はしばらく考えて言葉を絞り出します。
「いえ、お金は必要ありません。何もなかったことにして、彼等を連れて行ってもらえませんか?
それで、このことは内密にお願いします。
よろしくお願いします。」
脂汗をかきながら奴隷商人は必死にお客様に頭を下げています。
「そうですか。ふうこれで8件目か。やっぱり同じ反応だなあ。
分かりました。
ところで、他のところでは、あなた方も商売が成り立たなくなるので、一緒に連れて行って欲しいという方もおられるのですが、あなたは如何ですか?」
「少し考えさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「わかりました。じゃあ、こちらの皆さんは連れて行きますね。」
その後、そのお客様はわたしに、牢に案内して欲しいと言ってきました。
わたしが牢まで案内すると、お客様は牢に残っていた病人や肢体が不自由な人達に向かって「浄化、回復」と言いました。
すると、先程まで死にそうな息遣いをしていた人達が、安らかな息遣いに代わっています。
右腕の無かった人には右腕がついていました。
皆、おどろいています。
それらの奇跡が1人の青年によってもたらされたと気付いた人達は、まるで神を崇めるかのようにその青年を拝み始めました。
「さあ、皆さん。外に出ましょう。あなた達は自由になるのです。
まだ動けない方は運んであげて下さい。
一緒に外に出ましょう。」
こうしてわたし達は何もわからないまま、お客様に導かれるまま外に出たのでした。
外に出ると、わたし達は集められました。
「隷属解除、浄化」
奴隷には隷属の魔法が掛けられ、行動を束縛されています。
それは、手のひらにある奴隷紋で分かるのですが、お客様の呪文でわたしの奴隷紋が消えました。
皆さん同じように消えて驚かれています。
「わあ、手の模様が消えたよ。ミルクお姉ちゃん。」
隣でメアリちゃんがよくわからないといった顔でこちらを見ています。
わたしも全く理解の範囲を超えていますが、お客様がわたし達を救って頂いたことだけははっきりとわかりました。
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