上 下
9 / 20

奴隷解放

しおりを挟む
その日は突然やってきました。

その日の朝、わたしは日課になっているメアリちゃんの勉強を見ていました。

「ミルク!上に上がるんだ。
お客がお待ちだ。

今日の客は貴族じゃ無さそうだが、金は持ってそうだぞ。

何人も欲しいって言っている。
お前も選ばれるように頑張るんだぞ。」

奴隷商人に声を掛けられ、牢の扉を開けて、上に連れて行かれました。

いつものように皆と一緒に並びます。

お客様は若い男性で23、4歳というところでしょうか。

ごてごてとした着飾りはしていませんが、簡素ながらも好感の持てる清潔そうな身なりです。

わたし達を好色な目で舐め回すこともありません。

わたしはふと気が付きました。
今日一緒に並べられているのは女の人だけじゃなくて男の人達もいるのです。

それも、この屋敷にいる奴隷で健康そうな人のほとんどじゃないでしょうか。

「マイルさん、ここにいる奴隷はこの方達で全てですか?」

「いえ、病気でお見せ出来ない者や、まだ10歳に満たない者も残っておりますが。」

「分かりました。その方達も含めて、全員購入させて頂きます。」

「「「「えぇっ。」」」」

奴隷は言葉を発してはいけないと強く言われていますが、思わず声をあげてしまいました。

まぁ奴隷商人も含めその場にいた全員が声を揃えたのも無理はないです。

だって全員ですよ。病気の人も含めて。

いくら掛かるのでしょう。

「お客様、いくらなんでもお戯れを。」

「冗談じゃないですよ。ちゃんとお支払いしますし。」

お客様はそう言うと、机の上に置いた重そうな袋を開け、中に入ったこうかをじゃらじゃらと出し始めました。

机の上には見慣れない硬貨がたくさん積み重なっています。

「これは白金貨!ええっ、こ、これ全てですか!」

「そうですよ。マイルさん、これでも足りなければ、後でお持ちします。」

白金貨ですって!

硬貨は大陸共通なので、白金貨の存在は知っています。

この国の物価は分かりませんが、白金貨が一般的に流通している国は無いはずです。

奴隷商人の驚き具合から考えても、とんでもない価値だと思います。

奴隷商人の態度が変わります。

「お客様、あなたはいったい何者ですか?
何が目的でこんなことをされているのでしょうか?」

明らかに警戒しています。

「いやあ、奴隷を買いに来ただけですよ。ちょっと大きな商売をしようと思うので、人が大量に必要になったんです。」

「それにしても、この白金貨の数は異常ですし、病気の者までお買い上げになるなんて、どう考えても不自然です。」

その通りだとわたしも思いますし、奴隷の皆もうなずいています。

「そうですねぇ、お金の出どころはちょっと言えませんが、わたしの言っていることは本当ですよ。」

「信用できませんね。お引き取りいただきましょうか。」

「しようがないなあ。あんまり使いたくなかったんだけどなあ。」

そう言うとそのお客様は書簡を奴隷商人に渡しました。

奴隷商人はそれを一瞥して、目を見開きました。

「まあ、開けて読んでみて下さい。」

奴隷商人が急いで開封し、中を確認します。

奴隷商人の顔が青ざめていくのがわかりました。

「どうですか、それを見なかったことにして、このお金でこの人達を売ってくれませんか?」

奴隷商人はしばらく考えて言葉を絞り出します。

「いえ、お金は必要ありません。何もなかったことにして、彼等を連れて行ってもらえませんか?
それで、このことは内密にお願いします。
よろしくお願いします。」

脂汗をかきながら奴隷商人は必死にお客様に頭を下げています。

「そうですか。ふうこれで8件目か。やっぱり同じ反応だなあ。

分かりました。
ところで、他のところでは、あなた方も商売が成り立たなくなるので、一緒に連れて行って欲しいという方もおられるのですが、あなたは如何ですか?」

「少し考えさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「わかりました。じゃあ、こちらの皆さんは連れて行きますね。」


その後、そのお客様はわたしに、牢に案内して欲しいと言ってきました。

わたしが牢まで案内すると、お客様は牢に残っていた病人や肢体が不自由な人達に向かって「浄化、回復」と言いました。

すると、先程まで死にそうな息遣いをしていた人達が、安らかな息遣いに代わっています。
右腕の無かった人には右腕がついていました。

皆、おどろいています。

それらの奇跡が1人の青年によってもたらされたと気付いた人達は、まるで神を崇めるかのようにその青年を拝み始めました。

「さあ、皆さん。外に出ましょう。あなた達は自由になるのです。
まだ動けない方は運んであげて下さい。

一緒に外に出ましょう。」


こうしてわたし達は何もわからないまま、お客様に導かれるまま外に出たのでした。

外に出ると、わたし達は集められました。

「隷属解除、浄化」

奴隷には隷属の魔法が掛けられ、行動を束縛されています。

それは、手のひらにある奴隷紋で分かるのですが、お客様の呪文でわたしの奴隷紋が消えました。

皆さん同じように消えて驚かれています。

「わあ、手の模様が消えたよ。ミルクお姉ちゃん。」

隣でメアリちゃんがよくわからないといった顔でこちらを見ています。

わたしも全く理解の範囲を超えていますが、お客様がわたし達を救って頂いたことだけははっきりとわかりました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...