23 / 29
付き合うのに好き以外の理由が必要ですか?
「だから、口にアイスが付いてるよ?」
しおりを挟むイルカショーが終わっちゃった。タイミングとしては今だったんじゃないの?
だってさ、みんなイルカを見に来てるんだよ? 私達が何をしてようが、気付かないじゃん。
いつするの? 今でしょ!?
そんな私の心中には気付かず、やや引き攣った表情でイルカを眺めていた柊人さん。
もうっ、そんなに緊張してるの?
するよね、私もドッキドキしてる。分かるよ、いつするべきなのかなんて、分からないよね。
さり気なく肩と肩を触れ合わせても、興奮した様子で柊人さんの太ももをバシバシ叩いても、すごいねって顔を覗き込んでも、引き攣った笑顔のままの柊人さん。
デート自体は初めてじゃない。いつもよりも少し遠出したけど、お弁当を食べ始める前まではいつも通りの会話が続いていた。
気になる映画の話、行ってみたいデートスポット、食べてみたいスイーツ。
どれもSNS上では触れられていない柊人さんの言葉に耳を傾けていた。
どれも、これから2人で体験したい事、という話題だった。
とっても楽しい。これからの2人の未来を語り合う、それだけで楽しい。やっぱり柊人さんに好きだと伝えて良かった。柊人さんが私の想いに応えてくれて良かった。とっても嬉しい。
だからだろうか、私は柊人さんがキスをしようとしてくれたのに、茶々を入れてしまったのではないかと思い返す。
「後で、ね?」
まるで年上のお姉さんが、はやる年下の彼氏を諌めるかのようなセリフ。バカにされたと、そう思われたんじゃないだろうか。あぁぁぁ~~~、急に不安になって来たよ~~~……。
どうしよう、どうしたらいい? 私のせいで柊人さんに嫌な思いをさせてしまった、かも知れない。でも私が落ち込んでしまったら、2人の間の空気は悪くなる一方だ。
謝るのもダメだ、彼に事を上手く運べなかったという失敗を再認識させてしまうかも知れない。失敗を確定させてしまうかも知れない。それだけは避けなくっちゃ!!
冷静になれ、私。キャキャウフフしたいだけなんだもん。緊張感漂う空気だけは払拭しなければ。考えれば考えるだけ焦りが出て来る。
どうすればいい、どうすれば空気を変えられる? 悩みながら水槽の前を通りかかると、私達の目の前でアザラシが水中でガラスに思いっきり頭をぶつけた。
「ははっ、バカだなぁ~」
ポロリとこぼす柊人さん。バカ? バカ……、そっか、バカだ! 私はバカになればいいんだ、恋するバカになろう!!
ちょうどカフェスペースが近くにある。柊人さんの手をグイッと引いて駆け出す。
「ちょっ!? 冬花ちゃんどしたの!!?」
「食後のデザート!!」
誰も並んでいなかったからすぐにソフトクリームを2つ頼む。チョコとバニラの2本。戸惑いながらもささっとお金を出してくれた柊人さんにお礼を言い、尋ねる。
「どっちが食べたい?」
あざとく上目遣いで、ほんの少し前かがみになりながら聞く。うっ、と小さく声を漏らして、どっちでもいいよと返事する柊人さん。
ダメだよ、そこはどっちも、だよ? お前を食べたい、も可。
丸テーブルに向かい合わせではなく隣同士に座る。少し迷う素振りを見せつつ、柊人さんにチョコを渡す。バニラおいしい。ペロペロ舐める。この時柊人さんの目を見てはいけません。ダメったらダメです。
「おいしいね」
「そうだね」
笑い合う恋人達。きっと絵になってる。
「ちょっと頂戴♪」
返事は待たず、柊人さんの手にあるチョコソフトをパクッと口に入れる。
「おいしいっ」
返事は待たず、柊人さんの口元にバニラソフトを差し出す。目を見つめる。戸惑う表情。
可愛い、っていうのはおかしいのかも知れないけど、私はそんな柊人さんの事を可愛いと思うんだから可愛いでいいんだ。
はむっ、とバニラソフトを口にする柊人さん。絶対意識してるよね? もちろん私もしてるけど。
でもいいの、私は今、恋するバカだから。すかさずバニラソフトを口にする。
「どっちもおいしいね」
「うん」
困った顔の耳元で囁く。間接キス、しちゃったね……?
「ゲホゴハグハゲハゴハンハッ!!!」
顔が真っ赤っかになった。でも気付いて、こっちを見て! 私の口元にバニラアイスが付いちゃってるんだよ!! 早く取ってくれないと垂れちゃうよ!!!
じぃ~~~……。チラッ、見たよね? 今見たよねっ!? 二度見したよねっ!!?
「つ、付いてるよ?」
知ってるよ?
「え?」
とぼけてみる。
「だから、口にアイスが付いてるよ?」
「え? どこどこ? 早く取って!!」
うぅぅぅ~、もうバカだから何やってもいいやっ!
唇を付き出して目を閉じる、どうだっ!!!??
チュッ♪
パッ! と目を開けると、フニャフニャした表情の柊人さんの顔が目の前に。
「はぁ……、心臓痛い、死ぬかも……」
「死んだらもう1回キスして生き返らせてみせるよ」
「マジで? それはそれでアリだけど、生き返ってすぐにまた死ぬ予感がする」
「試してみる?」
私が顔を寄せる前に、柊人さんからのキス。
チュッ♪ グシャッ……
「「あ……」」
柊人さんがチョコソフトを握り潰してる……。手がチョコまみれだ。
「やっちった、緊張し過ぎだな俺」
緊張、そっか、緊張してたのか。
今からキスするぞぉぉぉ! ってなってたのか。だから顔が引き攣ってたのか、そっか……。
「舐めてあげよっか?」
「ブフォッ!!!」
私達のファーストキスは、バニラの味でした。
10
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
JC💋フェラ
山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる