32 / 52
32:名誉顧問
しおりを挟む
昨日は散々だった。
社長がやたら自分のマンションを売り付けようとするのを躱しているだけで時間が経って行った。
上條課長が来てくれなかったら危なかった。
もちろんこれ以上ノリで何かを買う事はないだろうけど、社長に対して手を上げそうになるところだった。
しつこいんだもの。
上條課長は名誉顧問のアポを取ったので、火曜日の夜、つまり今夜に専務を含めて四人で会食される段取りになったらしい。
手土産は経理課の山村さんが用意するそうな。
俺はいつも通り定時前に出社。
筆頭株主とは言えども身分はまだ一般社員。
役員ではないので重役出勤は出来ない。
社長が定時よりも前に会社に来るのは朝礼のある月曜日くらい。
専務は取引先に直行する日以外は割と社内にいるイメージ。
俺しかいない社長室で、淹れてもらったお茶を啜る。
この湯飲みは来客用じゃないよな、誰のだろう。
自分で買って置いといた方がいいんだろうか。
ガチャ
ノックなしで開く扉。
社長かな?
「……おはよう」
まさかの名誉顧問。
今俺しかいないんだけど!?
「お、おはようございます!」
とりあえず立ち上がって挨拶する。
一応何度も顔を合わせているので、名前は憶えてなくても俺の顔は知ってるだろう。
「すみません、まだ社長は出社されていないのですが……」
「あぁ、構わんよ。
今日ワシはお前さんに会いに来たんだ」
俺をご指名? と、とりあえずソファーに座ってもらおう。
上座を勧め、内線でお茶を二つ頼む。
名誉顧問の向かい側のソファーに座り、さぁ何を話せばいいんだ? 天気の話? と内心パニくっていると。
「まぁまぁ、楽にしなさいな。
悪いようにはせんよ」
「は、はぁ……」
ニコニコと笑顔を向けてくれる名誉顧問。
お茶を持って来てくれた事務のおばちゃんに、名誉顧問が営業部長を呼んでくれと頼まれた。
おばちゃんはパタパタと小走りで社長室を出て行く。
そう言えば、株を譲ってもらった事のお礼を言うべきなのだろうか。
「そうそう、ワシの株を引き取ってくれてスマンかったな。
石橋と田沼に丸め込まれたんじゃないかと気になっとるんだがね」
先に名誉顧問から切り出されてしまった。
石橋というのは社長の事だ。
「えっと、少し乗せられたのは否定しません。
ですが、僕も納得した上ですので……」
うんうん、と大きく頷いている名誉顧問。ご隠居と揶揄されているが、俺から見れば好々爺というイメージだな。
コンコンコンッ
「入りたまえ」
社長がやたら自分のマンションを売り付けようとするのを躱しているだけで時間が経って行った。
上條課長が来てくれなかったら危なかった。
もちろんこれ以上ノリで何かを買う事はないだろうけど、社長に対して手を上げそうになるところだった。
しつこいんだもの。
上條課長は名誉顧問のアポを取ったので、火曜日の夜、つまり今夜に専務を含めて四人で会食される段取りになったらしい。
手土産は経理課の山村さんが用意するそうな。
俺はいつも通り定時前に出社。
筆頭株主とは言えども身分はまだ一般社員。
役員ではないので重役出勤は出来ない。
社長が定時よりも前に会社に来るのは朝礼のある月曜日くらい。
専務は取引先に直行する日以外は割と社内にいるイメージ。
俺しかいない社長室で、淹れてもらったお茶を啜る。
この湯飲みは来客用じゃないよな、誰のだろう。
自分で買って置いといた方がいいんだろうか。
ガチャ
ノックなしで開く扉。
社長かな?
「……おはよう」
まさかの名誉顧問。
今俺しかいないんだけど!?
「お、おはようございます!」
とりあえず立ち上がって挨拶する。
一応何度も顔を合わせているので、名前は憶えてなくても俺の顔は知ってるだろう。
「すみません、まだ社長は出社されていないのですが……」
「あぁ、構わんよ。
今日ワシはお前さんに会いに来たんだ」
俺をご指名? と、とりあえずソファーに座ってもらおう。
上座を勧め、内線でお茶を二つ頼む。
名誉顧問の向かい側のソファーに座り、さぁ何を話せばいいんだ? 天気の話? と内心パニくっていると。
「まぁまぁ、楽にしなさいな。
悪いようにはせんよ」
「は、はぁ……」
ニコニコと笑顔を向けてくれる名誉顧問。
お茶を持って来てくれた事務のおばちゃんに、名誉顧問が営業部長を呼んでくれと頼まれた。
おばちゃんはパタパタと小走りで社長室を出て行く。
そう言えば、株を譲ってもらった事のお礼を言うべきなのだろうか。
「そうそう、ワシの株を引き取ってくれてスマンかったな。
石橋と田沼に丸め込まれたんじゃないかと気になっとるんだがね」
先に名誉顧問から切り出されてしまった。
石橋というのは社長の事だ。
「えっと、少し乗せられたのは否定しません。
ですが、僕も納得した上ですので……」
うんうん、と大きく頷いている名誉顧問。ご隠居と揶揄されているが、俺から見れば好々爺というイメージだな。
コンコンコンッ
「入りたまえ」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
思い出を売った女
志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。
それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。
浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。
浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。
全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。
ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。
あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。
R15は保険です
他サイトでも公開しています
表紙は写真ACより引用しました
私と継母の極めて平凡な日常
当麻月菜
ライト文芸
ある日突然、父が再婚した。そして再婚後、たった三ヶ月で失踪した。
残されたのは私、橋坂由依(高校二年生)と、継母の琴子さん(32歳のキャリアウーマン)の二人。
「ああ、この人も出て行くんだろうな。私にどれだけ自分が不幸かをぶちまけて」
そう思って覚悟もしたけれど、彼女は出て行かなかった。
そうして始まった継母と私の二人だけの日々は、とても淡々としていながら酷く穏やかで、極めて平凡なものでした。
※他のサイトにも重複投稿しています。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる