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10:筆頭株主と代表取締役

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「先ほど名誉顧問が会社へ来られてな、社長室で臨時株主総会が開かれて、名誉顧問と専務の持つ株式の幸坂君へ譲渡が可決されたよ。
 株主名簿の書き換えなど実務としての処理はあるが、実質的には君が名誉顧問と専務の口座へ金を振り込めばそれで君が筆頭株主になる」

 筆頭株主。

「ただ、筆頭株主になったとて、必ずしも代表取締役社長にならなければならないという決まりはない。
 本来株主と経営者はイコールではないからな。
 うちのような中小企業であれば限りなくイコールに近いが。
 社長も専務も、当分は会社に残って君を経営者として鍛えると言っておられる。
 逆に、自分が興した会社を他人に押し付けて逃げるなんてそんな無責任な事、普通は出来ない」

 あの二人が普通の経営者かどうか、俺には判断が出来ないです……。

「中小企業の難しいところはな、代替わりだ。
 経営者と株主がイコールであるうちのような会社は、後継者を育てるだけでなく株の引き取り手も見つけなくてはならないんだ。
 多くの場合、社長の子供や親戚を入社させて後継者として育て、株は生前贈与や相続で処理する。
 このパターンだと実際に現金キャッシュを動かす必要がない」

 うちの社長も専務も、お子さんはおられるが社内にはいないな。

「社長はそもそも身内経営に否定的でな、名誉顧問のお子さんを追い出した過去がある。
 まぁ実際に絵に描いたような二代目ドラ息子だったからその判断は正しかった。
 その反面、自分の子供を入社させる事もなく、株の引き受け手と社長後継者を用意出来なかった。
 専務のお子さんは娘さんお一人でね、すでに嫁いでおられる」

 名誉顧問と社長との間に、そんな軋轢があったとは。

「と、まぁそんなこんなで、君の存在は社長と専務にとっては飛び付くに値する訳だ。
 すぐに現金化する事の出来ない非上場中小企業の株なんて、誰も欲しがらない」

 そんなにハッキリと言われると、後悔の念が押し寄せてくる。
 止めとけと、金をドブに捨てるような事はするなと、暗にそう言われているような気がしてならない。
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