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Part24:銀髪姉妹達の異変

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ねぇ皆さん、今の勇者ちゃんを見て、滑稽だなと思いませんか? 今まで自分が積み上げて来たものが、なくなった訳ではないのです。
ただ、今までと違う環境に放り込まれただけで、今まで自分が積み上げて来たものがなくなった訳ではないのですよ? 勇者ちゃんは何故、そんなにも焦っているのでしょう。

お前がやったんだろうって? ええそうですとも、私がやりました。
この動画を通じて何を訴えたいんだって? いえ別に。ただ私が面白いなって思ってるものをお見せしているだけで、特別な意味を含んでいる訳ではありません。この動画を通じてあなたが何か感じたならば、元々あなたの中にあったものが表層心理に浮かび上がって来ただけの事。この動画はきっかけに過ぎません。

「燃えろ」

「勇者ちゃん?」

「燃えろ!」

 それでもまだ諦められないようですねぇ。想いが強ければ強いほど、魔法として発現しやすい、という事ではないんですよねぇ。

「燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ…………!!」

ここまで来ると魔法ではなく最早呪いの類いですね。草は燃えません。草生えますね。

「うっ……、頭が急にっ……」

 スノォちゃんが地面に膝を付きました。勇者ちゃんは背中を向けているのでまだ気付いていません。

「んんん~~~、【魔法剣:火の太刀】!」

 無詠唱での魔法行使が出来ないイライラから、ようやく元々使える魔法を唱えたようです。腰からパシュンと伝説の剣を抜き、刀身に火を纏わせます。
ゴォ! と燃え盛る巨大な炎が伝説の剣を包み込んでいます。というか勇者ちゃんの前髪、燃えてるよね?w

「わっち!!!」

 びっくりして伝説の剣を放り投げてしまう勇者ちゃん。お蔭で燃えろと念じていた草が消し炭になりました。良かったね勇者ちゃんwww

「威力がおかしい……、どうしました!?」

 そしてやっとスノォちゃんが苦しそうにしているのに気付いたようです。スノォちゃんの前にしゃがみ込み、顔を覗き込んでいます。無詠唱は出来ないままですが、魔法が使えない訳ではない事でプライドを持ち直した訳ですね。そうしてようやく異変に気付く事が出来た訳です。
 えぇ、勇者と呼ばれど彼はただの村人A。ちょっとだけ強かった事もある普通の人間なのですもの。世界という重圧を肩に背負っていた勇者ちゃんですが、何でもかんでも彼に求めるのが筋違いというもの。気が利かなかったり察する事が出来なかった時の方が多いのです。

「ごめんね、ちょっとクラっとしちゃって……」

 勇者ちゃんの手を取って何とか立ち上がるスノォちゃん。どうしたのでしょうねぇ、こればっかりは私の仕込みではないのですが。たまたま体調不良になったのでしょうか。こういう予期せぬハプニングも動画を盛り上げるスパイスになるってもんですね。
洒落にならないレベルでのトラブルであれば後でカットすればいいし(小声)

「すみません、スノォさんが苦しまれているのに気付きませんでした。帰りましょう」

 足もがおぼつかないスノォちゃんをおんぶして、勇者ちゃんが村へと帰って行きます。
 レベルの概念が約100倍になったからといって、人間の体重が100倍になる訳ではありません。
決して世界観が矛盾しているなんて事はないのです。ただただ、そういうものだと思って頂くだけで良いのです。
 素直な気持ちって、いくつになっても持っていたいものですね……。

 辛そうな表情をしつつも、ニヤニヤとだらしない口元をした少女。そんなスノォちゃんを負ぶった勇者ちゃんが村に戻って来ると、ちょうど勇者ちゃんの後方からローラちゃんとラミィちゃんが歩いています。王城の兵士養成所から帰宅途中でしょうか。
 あら? 帰りは夕方になると話していたのに、まだお昼です。こちらでも何事かあったのでしょうか。

「ゼノン様、妹に何かございましたか……?」

 ローラちゃんが突然耳元で問い詰めるように話し掛けたので、勇者ちゃんが飛び上がってびっくりしています。もう少しでスノォちゃんを落としてしまうところでした。
 ローラちゃんからの鯖折りを受けたばかりの勇者ちゃん。記憶は飛んでしまっているようですが、防衛本能が警笛を鳴らしているのでしょうw

「草原での修行に付き合ってもらっている間に、突然体調が悪くなったようです。自分で立っていられない様子でしたので……」

「それはそれは、ゼノン様、ありがとうございます」

 勇者ちゃんの背中からスノォちゃんを引き剥がそうとしていたローラちゃんを止め、ラミィちゃんが勇者ちゃんにお礼を言っています。

「姉様達、お帰りが少し早くない?」

 ローラちゃんに引き剥がされまいとして蹴っていたスノォちゃんが、2人の早い帰宅についてツッコみます。心なしか、ローラちゃんもラミィちゃんも疲れているような。いや、疲れているのではなく辛そうな表情ですね。

「訓練中にね、兵士達がバタバタ倒れていってね。診断の結果、流行病ではないという事は分かったみたいなのだけど、原因が分からないからとりあえず今日は帰らされたのよ」

「あぁ、頭がクラクラしますわ……」

 ラミィちゃんが養成所での出来事を話してくれましたが、ローラちゃんが勇者ちゃんの肩に顔を預けてしまったので信憑性に欠ける内容となってしまいました。そして勇者ちゃんの顔面は蒼白です。女性恐怖症というか、銀髪シルバー姉妹シスターズ恐怖症というか……。

 しかし、本当に何が起こっているのでしょうね?
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