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Part22:男女逆転世界なんです

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 パンパンパンっ!

「いいよ!」

 パンっ、パンパンっ!!

「ゼノ君、そこっ!」

 パンっ! パンっ!! ぐちゃぁ~。

「避けて!!」

「うわぁー!!」

 あぁ……、ご覧の通りまた勇者ちゃんがスライムに呑まれてしまいました。すかさずスノォちゃんがスライムをボコり、勇者ちゃんを救出して事なきを得ましたが。
 ん? 何か変な想像されましたか? 見ての通り、勇者ちゃんが修行の為にスライムを叩いていただけなのですが。


 ローラちゃんから重傷を負わされた勇者ちゃんですが、寝室で気が付いた勇者ちゃんはその出来事を綺麗さっぱり忘れていた様子でした。急激なストレスを受けて精神が自衛の為にシャットダウンしたのか、それとも覚えているけれども忘れたフリをした方が身の為だと判断しての行動なのか、そこまでは分かりません。
 心配するイリスちゃんとスノォちゃんに笑顔を見せて、予定通りスライム叩き修行に向かう事になった訳です。
 で、ご覧の通りまたスライムに傷一つ付ける事が出来ず、粘体に取り込まれそうになったところを助けてもらったという流れですね。
 この世界の中では、スライムであれば子供1人で対処出来る相手です。そもそも向こうから積極的に襲いかかるような魔物でもないですし。勇者ちゃんは明らかにレベルが低いので積極に襲われている感じですね。

「ゼノ君、やっぱり男の人には無理だよ。もう家に帰ろう?」

「いえ、もう少しだけ」

「無理に強くなろうとしなくっても、ワタシ達が守ってあげるから大丈夫だよ?」

 スライムに襲われるたびに修行を打ち切ろうとするスノォちゃん。要所要所で自分達姉妹が面倒を見るから家にいるよう説得している形です。9歳の女の子に囲われようとしている17歳の勇者認定を受けた成人男性。本人はなかなかに辛いでしょうね。
 やったぜハーレムバンザイ! って性格ならば喜んで受けるでしょうけれども、本人は至って真面目な性格ですからね。仲間に見捨てられた後も自分1人だけで魔王を倒せるようにと武者修行した訳ですし。そのお陰で魔王を倒す事が……、おっと。

「ぐっ……、げほげほげほっ」

「大変! 早くこれを飲んで!!」

 勇者ちゃんの発作が起こったようです。伝説の剣を落としてしまい、その上に這いつくばるようにして咳き込んでいます。背中をさすりながらスノォちゃんが鞄から状態異常回復薬を取り出して勇者ちゃんへと差し出しました。
 震える手で受け取ろうとした勇者ちゃんですが、ちゃんと瓶を掴む事が出来ずに地面に落とし、中身が全て零れてしまいました。あ~あ。なおも咳き込み苦しそうな勇者ちゃん。

「もしかしたら、いけるかも……!」

 這いつくばっている勇者ちゃんの正面にしゃがみ込み、スノォちゃんが勇者ちゃんの顔を両手で包み込みました。そして手が淡く光ります。魔法を使っているようですね。

「どう、かな……?」

 苦しそうにしていた勇者ちゃんの顔が穏やかな表情へと変わりました。どうやら魔法の効果があったようですね。

「ありがとう、ございます……」

「状態異常回復薬が効くなら、状態異常の効果をなくす魔法も効くんじゃないかなって思ったんだ。楽になって良かったね」

 治癒系の魔法ではなく、状態異常の効果を打ち消すタイプの魔法を使ったようですね。そして勇者ちゃんは今もまだ、銀髪シルバー姉妹シスターズが無詠唱で魔法を使っている事に気付いていないようです。

「魔法でも効果があるって分かったから、苦しくなったらすぐに楽にしてあげるからねっ!!」

 四つん這いのままの勇者ちゃんへ、スノォちゃんが手を貸して立たせてあげました。
 地面に着いて汚れた衣服を払ってもらっている間に、勇者ちゃんの息も落ち着いて来ました。

「すみませんでした、もう大丈夫です」

「良かった~、でももう帰ろう?」

 スノォちゃんが勇者ちゃんの右手を抱きかかえ、帰るよう促しています。そんな2人目掛けてオオカミのような魔物が勢い良く走って近付いて来ます。
 勇者ちゃんが2人を振り払って構えようとしますが、そんな勇者ちゃんの目の前で突然炎が燃え上がりました。

「大丈夫、ワイルドウルフは火魔法に弱いからすぐに倒せるんだよっ」

 スノォちゃんがニコニコと勇者ちゃんを見上げます。9歳の女の子がワイルドウルフに対して火魔法を使ったのです。瞬殺したのです。
自分が出来ない事を見せ付けられるというのは精神的ダメージが大きいものなのでしょう。

「…………」

 ほら、もう愛想笑いどころか反応すら見せないものー。心折れちゃってるものー。
 そんな勇者ちゃんの様子を見て、スノォちゃんがフォローしようと口を開きます。

「ゼノ君、女の子が出来る事でも、男の人に出来ない事なんていっぱいあるよ? 男の人を守るのが女の役目だからねっ! だから、いっぱいいっぱい頼ってくれて、いいんだよ?」

「男を守るのが、女の役目……?」

 はい、呆然自失状態だったからでしょうか、やっと勇者ちゃんがその部分に食いついてくれたのでようやく説明が出来るようになりました。

 そうです、この世界は男女逆転世界です。貞操? 貞操ももちろんですが、そもそも役割が逆転している訳です。あ、今の男女平等時代において男の役割だ女の役割だと言うと炎上してしまうでしょうか。
 んー、女の方が強い世界、という意味です。肉体的にも精神的にも女性の方が丈夫で強い存在である世界へ、勇者ちゃんは飛ばされたのです。飛ばしたのは私ですがw

「そうなんですか……。俺が元いた大陸では逆だったんです。男が女の人を守るのが普通でした。だから、俺はもっと強くなりたいんです」

 じっとスノォちゃんを見つめる勇者ちゃん。違う大陸に転移したからといって、自分の信念や信条を変えるつもりはない。だから自分はもっと修行して、もっともっと強くなりたいのだ。そう訴えるかのような真っ直ぐな瞳。

「スノォさんは無詠唱で魔法を使われていましたよね……? 俺にも、教えてもらえませんか?」

 お願いします、と9歳のスノォちゃんに深々と頭を下げる勇者ちゃん。いやぁ~、見た目はね、大の男が女児に頭を下げるという一見みっともない光景ですけどね。これが出来る男って結構少ないんじゃないでしょうか。
 例え相手が小さな女の子だとしても、教えを乞う姿勢は正しく礼を尽くす。勇者に選ばれる人物だけあり、真っ直ぐで真面目で礼儀正しい。実に好青年です。素晴らしい!

「えっと……、無詠唱って何?」

「え? あの、魔法を使われましたよね? 魔法を発動させる為の呪文とか……」

「スノォはね、燃えろって思っただけだよ?」

 これですこの顔w キリっとした顔から一遍したこの世の終わりみたいな表情ですよwww 緩急の付け方が上手いんだから勇者ちゃんったらwwwww
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