22 / 40
Part22:男女逆転世界なんです
しおりを挟むパンパンパンっ!
「いいよ!」
パンっ、パンパンっ!!
「ゼノ君、そこっ!」
パンっ! パンっ!! ぐちゃぁ~。
「避けて!!」
「うわぁー!!」
あぁ……、ご覧の通りまた勇者ちゃんがスライムに呑まれてしまいました。すかさずスノォちゃんがスライムをボコり、勇者ちゃんを救出して事なきを得ましたが。
ん? 何か変な想像されましたか? 見ての通り、勇者ちゃんが修行の為にスライムを叩いていただけなのですが。
ローラちゃんから重傷を負わされた勇者ちゃんですが、寝室で気が付いた勇者ちゃんはその出来事を綺麗さっぱり忘れていた様子でした。急激なストレスを受けて精神が自衛の為にシャットダウンしたのか、それとも覚えているけれども忘れたフリをした方が身の為だと判断しての行動なのか、そこまでは分かりません。
心配するイリスちゃんとスノォちゃんに笑顔を見せて、予定通りスライム叩きに向かう事になった訳です。
で、ご覧の通りまたスライムに傷一つ付ける事が出来ず、粘体に取り込まれそうになったところを助けてもらったという流れですね。
この世界の中では、スライムであれば子供1人で対処出来る相手です。そもそも向こうから積極的に襲いかかるような魔物でもないですし。勇者ちゃんは明らかにレベルが低いので積極に襲われている感じですね。
「ゼノ君、やっぱり男の人には無理だよ。もう家に帰ろう?」
「いえ、もう少しだけ」
「無理に強くなろうとしなくっても、ワタシ達が守ってあげるから大丈夫だよ?」
スライムに襲われるたびに修行を打ち切ろうとするスノォちゃん。要所要所で自分達姉妹が面倒を見るから家にいるよう説得している形です。9歳の女の子に囲われようとしている17歳の勇者認定を受けた成人男性。本人はなかなかに辛いでしょうね。
やったぜハーレムバンザイ! って性格ならば喜んで受けるでしょうけれども、本人は至って真面目な性格ですからね。仲間に見捨てられた後も自分1人だけで魔王を倒せるようにと武者修行した訳ですし。そのお陰で魔王を倒す事が……、おっと。
「ぐっ……、げほげほげほっ」
「大変! 早くこれを飲んで!!」
勇者ちゃんの発作が起こったようです。伝説の剣を落としてしまい、その上に這いつくばるようにして咳き込んでいます。背中をさすりながらスノォちゃんが鞄から状態異常回復薬を取り出して勇者ちゃんへと差し出しました。
震える手で受け取ろうとした勇者ちゃんですが、ちゃんと瓶を掴む事が出来ずに地面に落とし、中身が全て零れてしまいました。あ~あ。なおも咳き込み苦しそうな勇者ちゃん。
「もしかしたら、いけるかも……!」
這いつくばっている勇者ちゃんの正面にしゃがみ込み、スノォちゃんが勇者ちゃんの顔を両手で包み込みました。そして手が淡く光ります。魔法を使っているようですね。
「どう、かな……?」
苦しそうにしていた勇者ちゃんの顔が穏やかな表情へと変わりました。どうやら魔法の効果があったようですね。
「ありがとう、ございます……」
「状態異常回復薬が効くなら、状態異常の効果をなくす魔法も効くんじゃないかなって思ったんだ。楽になって良かったね」
治癒系の魔法ではなく、状態異常の効果を打ち消すタイプの魔法を使ったようですね。そして勇者ちゃんは今もまだ、銀髪姉妹が無詠唱で魔法を使っている事に気付いていないようです。
「魔法でも効果があるって分かったから、苦しくなったらすぐに楽にしてあげるからねっ!!」
四つん這いのままの勇者ちゃんへ、スノォちゃんが手を貸して立たせてあげました。
地面に着いて汚れた衣服を払ってもらっている間に、勇者ちゃんの息も落ち着いて来ました。
「すみませんでした、もう大丈夫です」
「良かった~、でももう帰ろう?」
スノォちゃんが勇者ちゃんの右手を抱きかかえ、帰るよう促しています。そんな2人目掛けてオオカミのような魔物が勢い良く走って近付いて来ます。
勇者ちゃんが2人を振り払って構えようとしますが、そんな勇者ちゃんの目の前で突然炎が燃え上がりました。
「大丈夫、ワイルドウルフは火魔法に弱いからすぐに倒せるんだよっ」
スノォちゃんがニコニコと勇者ちゃんを見上げます。9歳の女の子がワイルドウルフに対して火魔法を使ったのです。瞬殺したのです。
自分が出来ない事を見せ付けられるというのは精神的ダメージが大きいものなのでしょう。
「…………」
ほら、もう愛想笑いどころか反応すら見せないものー。心折れちゃってるものー。
そんな勇者ちゃんの様子を見て、スノォちゃんがフォローしようと口を開きます。
「ゼノ君、女の子が出来る事でも、男の人に出来ない事なんていっぱいあるよ? 男の人を守るのが女の役目だからねっ! だから、いっぱいいっぱい頼ってくれて、いいんだよ?」
「男を守るのが、女の役目……?」
はい、呆然自失状態だったからでしょうか、やっと勇者ちゃんがその部分に食いついてくれたのでようやく説明が出来るようになりました。
そうです、この世界は男女逆転世界です。貞操? 貞操ももちろんですが、そもそも役割が逆転している訳です。あ、今の男女平等時代において男の役割だ女の役割だと言うと炎上してしまうでしょうか。
んー、女の方が強い世界、という意味です。肉体的にも精神的にも女性の方が丈夫で強い存在である世界へ、勇者ちゃんは飛ばされたのです。飛ばしたのは私ですがw
「そうなんですか……。俺が元いた大陸では逆だったんです。男が女の人を守るのが普通でした。だから、俺はもっと強くなりたいんです」
じっとスノォちゃんを見つめる勇者ちゃん。違う大陸に転移したからといって、自分の信念や信条を変えるつもりはない。だから自分はもっと修行して、もっともっと強くなりたいのだ。そう訴えるかのような真っ直ぐな瞳。
「スノォさんは無詠唱で魔法を使われていましたよね……? 俺にも、教えてもらえませんか?」
お願いします、と9歳のスノォちゃんに深々と頭を下げる勇者ちゃん。いやぁ~、見た目はね、大の男が女児に頭を下げるという一見みっともない光景ですけどね。これが出来る男って結構少ないんじゃないでしょうか。
例え相手が小さな女の子だとしても、教えを乞う姿勢は正しく礼を尽くす。勇者に選ばれる人物だけあり、真っ直ぐで真面目で礼儀正しい。実に好青年です。素晴らしい!
「えっと……、無詠唱って何?」
「え? あの、魔法を使われましたよね? 魔法を発動させる為の呪文とか……」
「スノォはね、燃えろって思っただけだよ?」
これですこの顔w キリっとした顔から一遍したこの世の終わりみたいな表情ですよwww 緩急の付け方が上手いんだから勇者ちゃんったらwwwww
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない
AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。
かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。
俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。
*書籍化に際してタイトルを変更いたしました!
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す
佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。
誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。
また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。
僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。
不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。
他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる