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Part21:家から1歩も出ずに瀕死www

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「忘れ物はございませんか?」

 はい、朝食が終わったので約束通り勇者ちゃんはスノォちゃんに連れられてスライム叩きに向かうようです。
 ローラちゃんが家の玄関前で剣は持ったか、兜は被ったか、と指さしながら忘れ物チェックをしていますね。さながら若奥様のようです。さりげなく右頬を前に出しているのですが、そんなローラちゃんの様子に気付いていない勇者ちゃん。

「では、行って参ります」

 丁寧に頭を下げました。礼儀正しいのは元来の性格から来るものですが、この場においては何とか銀髪シルバー姉妹シスターズの怒りに触れないようにという恐れから来る方が大きいように見えますね。
 そんな勇者ちゃんの両腕はスノォちゃんにがっしりと掴まれています。決して逃がすつもりはない、絶対にだ! という決意が窺えます。

「スノォ、お昼ご飯はイリスに頼んであるからね。時間になったら帰って来るのよ?」

 ラミィちゃんはスノォちゃんが勇者ちゃん付きの保護者であると認識していますね。ぱっと見では逆なんですが、レベルが高いのはスノォちゃんなので決して間違ってはいないのです。
10歳ほど年下の女の子が保護者って、勇者ちゃん、本当に立場も何もないよねw

「は~い」

 スノォちゃんはラミィちゃんの方を振り返る事なく返事します。さりげなく頬を勇者ちゃんの腕にすりすりしています。今はカメラアングルが背中からなのでアレですが、正面から撮るのがはばかられるような表情をしていますね。ちょっと9歳の顔じゃないよね、コレは。

「えへへっ、楽しみだねっ!」

「ハハハッ」

 こらこら勇者ちゃん、スノォちゃんが楽しくて仕方ないって顔をしているのに愛想笑いはダメでしょう? 決死の覚悟でスライムに挑む勇者ちゃんと、お散歩気分のスノォちゃんではそれぞれ心境が違うんだよ! ほら、スキップしてこっ!!www

 さて、ここらでローラちゃんとラミィちゃんについて説明しておきましょうかね。彼女達はいわゆる兵士としての訓練を受けています。この村は規模としては村で間違いないのですが、王都王城からさほど離れておらず、ローラちゃんとラミィちゃんは毎日王城付近にある兵士の養成所へと通っているんですね。ですのでこの2人は姉妹の中で特にレベルが突出しているという訳です。
 兵士として訓練を受けるのは12歳になってから。イリスちゃんはすでに12歳になっていますが、まだその時期になっていないだけであり、もうしばらくすると訓練を受ける為に上の2人と一緒になって養成所へ通う事になります。

 この国、ランヴェルスマン魔法王国においても勇者ちゃんの国と同じく成人年齢は16歳。12歳から16歳まで兵士としての教育を受け、その才能や実力を測った上で各地へと赴任させられるという流れですね。ま、この子達の場合はやや事情が異なりますが。

「では私達も参りましょうか」

「え? ラミィさん達もどこかへ出掛けられるんですか?」

 勇者ちゃんは銀髪シルバー姉妹シスターズの諸事情を知らされていないものね。いつもは勇者ちゃんが先に家を出ていたもんね。バレないようにこっそりとだけど。

「ええ、私とローラ姉様は夕方になる頃には帰って来ますので」

「ゼノン様、行って参ります」

 ローラちゃんが勇者ちゃんに向けて両手を伸ばし、ニコニコと笑顔を見せています。これはハグを要求しているようですね。

「えっと……」

 分かっているのかいないのか、勇者ちゃんはローラちゃんと同じポーズを取りましたね。これは悪手ですよ。人は相手がよく分からない行動に出た際、とりあえず自分も同じ行動をしてみるという心理が働く事がありますが、この場合はダメですね。最悪死にますよ。
 さて賢明なリスナーさん、いや視聴者さん? この動画をご覧の方の呼び方って何と言えばいいんでしょうね。今さらながら気になってしまいました。お前ら?

「ぐえぇっ……」

 おっと、見て下さっている方々の呼び名を考えている間に勇者ちゃんがローラちゃんに鯖折さばおりを掛けられたような格好になっています。
鯖折りとは相撲の決まり手の1つなんですが、下半身に巻いたまわしを強く引き付け、上からのしかかるようにして相手の膝を地面に付かせる技の事を言います。この技をかけられた場合、腰や膝に大きな負担がかかるので、子供が相撲を取る大会では禁止される場合が多いんですね。
 ローラちゃんは単に勇者ちゃんに行ってらっしゃいのハグをしてほしかっただけなんですが、勇者ちゃんが迂闊に両手を出してしまったばっかりに、勇者ちゃんは重傷を負う事になってしまいました。
 はい、つまり今、勇者ちゃんの膝の皿が割れました。

「ぎゃーーー!!!」

 これには勇者ちゃんも絶叫! ローラちゃんのたわわな胸の膨らみを楽しめる状況ではないようです。あぁ勿体ない。

「ローラ姉様! ゼノン様になんて事を……」

 すかさずラミィちゃんがローラちゃんから勇者ちゃんを取り上げ、床の上へそっと寝かします。そっと寝かしたのはいいのですが、ローラちゃんから取り上げた際に勇者ちゃんの脚が宙でぶらんぶらんと振り回された為、あまりの痛みで脳がシャットダウンした勇者ちゃんは白目を剥いて気絶していますね。
おっーと、今確認したら膝の皿だけでなく股関節の脱臼に大腿骨のひび割れ、あー細かいの入れると言い切れないくらいの怪我を受けていますね。可哀想w

「すぐに治して差し上げますからねっ!」

 ラミィちゃんが勇者ちゃんの右脚の付け根に両手を添えて、ゆっくりと撫でながら足先へと向かわせています。つま先までなぞり終わると次は左脚の付け根へと移動し、またゆっくりと撫でて行きます。その両手はほんのりと光を発しています。これは治癒魔法ですね。勇者ちゃん、もう少しで蘇生魔法が必要なところだったので良かったですねwww

「こ、この箇所は特に治療が必要ですね……」

 ごくりっ、と唾を飲み込んで、ラミィちゃんが勇者ちゃんの鼠蹊部、つまり股間付近を撫で回します。あぁ、手付きがいやらしい。口調はたどたどしくなっているのに、その手付きは滑らかで迷いが一切感じられません。

「ラミィ姉、やり過ぎ」

 イリスちゃんがラミィちゃんの頭をスパンっと叩いて止めます。と、同時に勇者ちゃんの意識が戻りました。自分の身に降りかかった不幸な事故()を瞬時に理解したようです。

「ひぃぃぃ……」

心配そうに見つめる銀髪姉妹から何とか逃れようと、4人にお尻を向けて四つん這いになってしまいました。よっぽど怖かったんですねw
 治癒魔法を掛けられてすぐの状態なので手にも足にも力が入り切らず、床に這いつくばって震えています。

「ゼノ君、もう痛くない? 大丈夫?」

 それでも何とか銀髪姉妹から少しでも離れようとずりずりしていた勇者ちゃんにスノォちゃんが駆け寄り、優しく声を掛けます。ですが勇者ちゃんの心は恐怖に染まっているので悲鳴と呻き声しか発せません。

「大丈夫、大丈夫だよ~」

 スノォちゃんが勇者ちゃんの背中を優しく撫でます。右手が光っている事から、スノォちゃんが魔法を使っている事が分かりますね。これは……、沈静化の魔法でしょうか。ずりずりしていた勇者ちゃんの身体から徐々に力が抜け、そして寝てしまいました。床にキスするとはまさにこの状態の事を指すのでしょう。

「もうっ! 姉様達が怖がらせるから!!」

 ぷんぷんと怒りながら、スノォちゃんが勇者ちゃんをお姫様抱っこして勇者ちゃんに与えられた寝室へと運び込みます。勇者ちゃんの保護者を任されてルンルン気分で出掛けるところを邪魔された訳ですから、そりゃぁ怒りもしますでしょう。
 残されたローラちゃんとラミィちゃんは、イリスちゃんに見送られて追い払われてとぼとぼと兵士の訓練所へと向かって行きました。


 さて、勇者ちゃんったら朝起きただけでもうすでに死にかけてます! 敵と戦った訳でもないのに瀕死の重傷を負わされていました!!
 もうこれどうなの? 勇者ちゃんに明日はあるの? 実況者としてちょっと不安になって来ました。
 まぁ面白いからいいんですけどねwww 

 勇者ちゃん、起きたらどうするんでしょうね。もうやだこの姉妹! って言って何とか逃げ出すのか、それとも当初の予定通りにスライムを叩きに行くのか、はたまた開き直って姉妹達のヒモペットに成り下がるか。

 勇者ちゃんに明るい未来は待っているのか!?
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