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その3
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リーリス5日間の王城滞在、その最終夜。
王太子専属の使用人達に、浴場で最高級の石鹸を使った湯浴みや浴後のマッサージ、そして香油を全身に塗り込まれるなど、それこそ王太子妃である私でも滅多に受けないような贅沢を受け、心は半ば天に昇っているような表情でした。
そして最終夜のみ、リーリスは王太子であるユルキと会食の機会を得ます。
会食の前に、ユルキがリーリスへと与えられている客室へ赴き、手ずから今夜の為に用意されたドレスや装飾品を下賜します。
「リーリス、王城での日々を楽しんでいるかな?」
「殿下、身に余る光栄、誠に……」
ユルキはソファーから立ち上がったリーリスの肩に優しく触れ、座るよう促します。
そして自身もリーリスの隣に掛け、さりげなく身体に触れて目を見つめます。
「そなたは美しいな……、そなたのような気品溢れる女性を迎え入れるシサラカ侯爵家が羨ましい。
いっその事……。
いや、何でもない。忘れてくれ」
ユルキの零した独白を聞き、動揺を隠せないでいるリーリスに背を向けて立ち上がり、ユルキは使用人が両手に携えている薄紫色のドレスを受け取ります。
「王城で行われた舞踏会で見掛けたその時から、そなたにはこのような色が似合うのではないかと思っていてな、そなたに下賜する時が来ればこの色にしようと心に決めていたのだ。
今宵の会食ではこのドレスを着てくれ。
きっとそなたに似合うであろう」
リーリスへとドレスを手渡し、じっと目を見つめた後、名残惜しそうに客室を辞するユルキ。
そのユルキの行動を受け、リーリスは戸惑い続けるばかり。
王太子妃である私も、愛妾であるミミアもいる場での、まるで口説くかのようなユルキの行い。
自分の立場、そしてユルキの正妻と妾、使用人達がいる場で下手な返答をすれば、大勢の人間の人生が狂ってしまうのではないかという懸念からの戸惑い。
リーリスは知らないのでしょう。
リーリスはバーナチタ伯爵家から王太子へと献上された身。
献上を受けたユルキは、必ずリーリスをシサラカ侯爵家へと下賜しなければならない訳ではありません。
もしも、本当にユルキがリーリスを気に入ったのであれば、そのまま2人目の妾にしてしまえば良いのです。
バーナチタ伯爵家としては献上した娘が王太子殿下のお眼鏡に適ったのだと誇りに思うでしょう。
シサラカ侯爵家としては不本意かも知れませんが、過去にその例がなかった訳ではありません。
その可能性を重々承知しているでしょう。
とはいえ、そのような裏事情を知らずともリーリスは聡明です。
聡明で、見目麗しい15歳の淑女。
1年の婚約期間を経て、シサラカ侯爵家嫡男との式の日取りが決まりました。
後は今宵、ユルキの女になるだけです。
王太子家との会食を終えた後、リーリスはユルキの閨へと向かう前に最後の湯浴みを済ませ、これも下賜された紫色のナイトドレスを身に纏います。
使用人に案内され、ついにユルキの閨へと招き入れられます。
ここからは使用人さえ入る事の出来ない、王太子家の私的な空間。
リーリスは自らの手でノックを三度、ミミアの返答を受けて扉に手を掛けます。
「失礼致しま……、キャッ!?」
扉を押し開けたリーリスの手を掴み引き寄せて、ユルキがリーリスを抱き締めます。
その光景を私とミミアはベッドに座りながら眺めています。
「で、殿下!?」
「リーリス、このドレスもよく似合っている。
やはり君には紫がよく似合う。
艶のある金色の髪の毛と、情熱的な唇と、白く柔らかい肌。
もっとよく見せておくれ」
ユルキはリーリスの髪の毛、唇、頬と順番に撫でて行き、そして両肩に手を置いてじっくりとリーリスの身体を眺めます。
リーリスはやはり戸惑いながら、しかし拒む事は出来ずにじっと耐えているようです。
私はベッドから立ち上がり、ユルキの横へと向かいます。
そしてリーリスの腰に触れ、
「大丈夫ですよ、リーリス。
この場には私達4人しかおりません。
殿下はリーリスの事を大層気に入られたご様子。
今宵だけは殿下の物におなりなさい。
きっと、生涯忘れる事のない悦びを与えて下さいますわ」
そう囁きます。
これは秘め事である、と。
「王太子妃殿下、その……」
「リーリス、今宵は私だけのものになってくれ。
私の事はユルキと、そう呼んでくれないか?」
リーリスは目を見開きます。
当然でしょう、大国の王太子であるユルキを名で呼ぶなど、伯爵家の令嬢では一生ないであろう機会です。
ちら、ちら、とリーリスが私とミミアに目線を寄越し、本当に良いのかと伺っております。
私もミミアもリーリスへ向けて微笑み、心配ない事を伝えます。
「……、ユルキ様」
「あぁ、リーリス。
さ、こちらへおいで。何か飲むか?
ワインか、ブランデーか、蜂蜜酒もあるが」
「いえ、お酒はあまり……。
でも、せっかくですので蜂蜜酒を少しだけ頂きたいと思います」
ユルキがリーリスをベッドまで連れて行き、そっと座らせます。
ミミアが蜂蜜酒を用意し、ユルキとリーリスに手渡します。
そして2人がグラスをチンと鳴らして乾杯をします。
「今宵のリーリスは特に可憐だ。
下賜するなど勿体ないくらいに……」
グラスの中身をグビリと煽った後、またもユルキの独白。
リーリスもほんのりと頬を染めて、まんざらでもない様子。
閨は蝋燭の灯りで妖しく照らされています。
妻の私が言うのも何ですが、ユルキは美男子。
ユルキ以上の美貌を持った殿方を見た事がございません。
その美貌がゆらゆらと揺れる灯りに照らされ、光と影が交互にユルキの表情を変えるかのよう。
まるで嬉しいような、そして悲しいような。
そんなユルキの顔を見つめていたリーリスの表情が、トロンと溶けるかのように緩みます。
リーリスへと手渡された酒精が強めの蜂蜜酒が。
反対に、ユルキが持つグラスには蜂蜜酒ではなくただの蜂蜜水が入れられているのです。
準備が整いました。
後はじっくりと、ゆっくりと、そして優しく、しかし狂おしいほどに……。
ユルキの手でリーリスを女へと花開かせるだけ。
王太子専属の使用人達に、浴場で最高級の石鹸を使った湯浴みや浴後のマッサージ、そして香油を全身に塗り込まれるなど、それこそ王太子妃である私でも滅多に受けないような贅沢を受け、心は半ば天に昇っているような表情でした。
そして最終夜のみ、リーリスは王太子であるユルキと会食の機会を得ます。
会食の前に、ユルキがリーリスへと与えられている客室へ赴き、手ずから今夜の為に用意されたドレスや装飾品を下賜します。
「リーリス、王城での日々を楽しんでいるかな?」
「殿下、身に余る光栄、誠に……」
ユルキはソファーから立ち上がったリーリスの肩に優しく触れ、座るよう促します。
そして自身もリーリスの隣に掛け、さりげなく身体に触れて目を見つめます。
「そなたは美しいな……、そなたのような気品溢れる女性を迎え入れるシサラカ侯爵家が羨ましい。
いっその事……。
いや、何でもない。忘れてくれ」
ユルキの零した独白を聞き、動揺を隠せないでいるリーリスに背を向けて立ち上がり、ユルキは使用人が両手に携えている薄紫色のドレスを受け取ります。
「王城で行われた舞踏会で見掛けたその時から、そなたにはこのような色が似合うのではないかと思っていてな、そなたに下賜する時が来ればこの色にしようと心に決めていたのだ。
今宵の会食ではこのドレスを着てくれ。
きっとそなたに似合うであろう」
リーリスへとドレスを手渡し、じっと目を見つめた後、名残惜しそうに客室を辞するユルキ。
そのユルキの行動を受け、リーリスは戸惑い続けるばかり。
王太子妃である私も、愛妾であるミミアもいる場での、まるで口説くかのようなユルキの行い。
自分の立場、そしてユルキの正妻と妾、使用人達がいる場で下手な返答をすれば、大勢の人間の人生が狂ってしまうのではないかという懸念からの戸惑い。
リーリスは知らないのでしょう。
リーリスはバーナチタ伯爵家から王太子へと献上された身。
献上を受けたユルキは、必ずリーリスをシサラカ侯爵家へと下賜しなければならない訳ではありません。
もしも、本当にユルキがリーリスを気に入ったのであれば、そのまま2人目の妾にしてしまえば良いのです。
バーナチタ伯爵家としては献上した娘が王太子殿下のお眼鏡に適ったのだと誇りに思うでしょう。
シサラカ侯爵家としては不本意かも知れませんが、過去にその例がなかった訳ではありません。
その可能性を重々承知しているでしょう。
とはいえ、そのような裏事情を知らずともリーリスは聡明です。
聡明で、見目麗しい15歳の淑女。
1年の婚約期間を経て、シサラカ侯爵家嫡男との式の日取りが決まりました。
後は今宵、ユルキの女になるだけです。
王太子家との会食を終えた後、リーリスはユルキの閨へと向かう前に最後の湯浴みを済ませ、これも下賜された紫色のナイトドレスを身に纏います。
使用人に案内され、ついにユルキの閨へと招き入れられます。
ここからは使用人さえ入る事の出来ない、王太子家の私的な空間。
リーリスは自らの手でノックを三度、ミミアの返答を受けて扉に手を掛けます。
「失礼致しま……、キャッ!?」
扉を押し開けたリーリスの手を掴み引き寄せて、ユルキがリーリスを抱き締めます。
その光景を私とミミアはベッドに座りながら眺めています。
「で、殿下!?」
「リーリス、このドレスもよく似合っている。
やはり君には紫がよく似合う。
艶のある金色の髪の毛と、情熱的な唇と、白く柔らかい肌。
もっとよく見せておくれ」
ユルキはリーリスの髪の毛、唇、頬と順番に撫でて行き、そして両肩に手を置いてじっくりとリーリスの身体を眺めます。
リーリスはやはり戸惑いながら、しかし拒む事は出来ずにじっと耐えているようです。
私はベッドから立ち上がり、ユルキの横へと向かいます。
そしてリーリスの腰に触れ、
「大丈夫ですよ、リーリス。
この場には私達4人しかおりません。
殿下はリーリスの事を大層気に入られたご様子。
今宵だけは殿下の物におなりなさい。
きっと、生涯忘れる事のない悦びを与えて下さいますわ」
そう囁きます。
これは秘め事である、と。
「王太子妃殿下、その……」
「リーリス、今宵は私だけのものになってくれ。
私の事はユルキと、そう呼んでくれないか?」
リーリスは目を見開きます。
当然でしょう、大国の王太子であるユルキを名で呼ぶなど、伯爵家の令嬢では一生ないであろう機会です。
ちら、ちら、とリーリスが私とミミアに目線を寄越し、本当に良いのかと伺っております。
私もミミアもリーリスへ向けて微笑み、心配ない事を伝えます。
「……、ユルキ様」
「あぁ、リーリス。
さ、こちらへおいで。何か飲むか?
ワインか、ブランデーか、蜂蜜酒もあるが」
「いえ、お酒はあまり……。
でも、せっかくですので蜂蜜酒を少しだけ頂きたいと思います」
ユルキがリーリスをベッドまで連れて行き、そっと座らせます。
ミミアが蜂蜜酒を用意し、ユルキとリーリスに手渡します。
そして2人がグラスをチンと鳴らして乾杯をします。
「今宵のリーリスは特に可憐だ。
下賜するなど勿体ないくらいに……」
グラスの中身をグビリと煽った後、またもユルキの独白。
リーリスもほんのりと頬を染めて、まんざらでもない様子。
閨は蝋燭の灯りで妖しく照らされています。
妻の私が言うのも何ですが、ユルキは美男子。
ユルキ以上の美貌を持った殿方を見た事がございません。
その美貌がゆらゆらと揺れる灯りに照らされ、光と影が交互にユルキの表情を変えるかのよう。
まるで嬉しいような、そして悲しいような。
そんなユルキの顔を見つめていたリーリスの表情が、トロンと溶けるかのように緩みます。
リーリスへと手渡された酒精が強めの蜂蜜酒が。
反対に、ユルキが持つグラスには蜂蜜酒ではなくただの蜂蜜水が入れられているのです。
準備が整いました。
後はじっくりと、ゆっくりと、そして優しく、しかし狂おしいほどに……。
ユルキの手でリーリスを女へと花開かせるだけ。
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