塞翁が馬

紐下 育

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※ 探良side

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「なんでっ、あぁあっ!」
「えっ、ぅ、さっ。さぐっ、らぁっっ!」

なんだっけ、なんだっけ。
どうしてこんなことになったんだっけ。
息をするたびに吐き出される嬌声はもはや呼吸の対価のようで、どう頑張っても止められない。
いつの間にか下は脱がされていて、探良の、細長くごつごつした指に囚われている。
ふと探良がこちらを向いた。

目が、あった。
「…っ!」

背中がぞくぞくする。それを知覚したとたん、不思議と抵抗する気も失せていく。
飢えた獣のような双眸が、ここ最近の探良とは思えないほど生命力を持っている。

こんな探良、初めてだ。

「咥えるね」
「えっ、ぅあああああっ!」

まだ覚悟も同意もしないうちに、俺の逸物はぬくぬくとした温室の中に包まれる。

「気持ちい?」
「うぁっ、そこっでっ、しゃべっちゃだめっっ」

あろうことかその中を自由自在に動き回る、蛇のような舌。

「だめっ、やぁっぁああぁぁぁあぁっ!」

探良の顔は俺の股にうずめられていて、どういう表情かわからない。
次にどういう動きをするのか、その予測さえさせてくれないのが怖くて、無意識に体を左右によじって快楽を逃そうとしてしまう。

「マサ、逃げないで」

久しぶりに聞いた気がする。俺を「マサ」って呼ぶ声。
熱くなった探良の手のひらが、俺の身体を押さえつけて離してくれない。
からからの喉から発される声はひどく艶っぽくて、渋くて、それだけで俺の耳は孕みそうなほど熱くなる。

「にげようっとなんんって、してにゃぁぁあっぁっああああああぁぁぁぁっ!」

逃げようとなんてしてない、体が勝手に動いちゃうの、って、言いたかったのに。
言い切る前に探良は、俺の隆起したそれを蹂躙しきった。
すーっと、意識がフェードアウトしていく感覚。

「ふふっ、猫みたい」

痩せた顔で探良が笑う。
ぼーっとした頭と熱くなった脳みそは、さくらの声だけを知覚する。
さくら、さくら、さくら。
さくらのことだけで頭が満たされていく。
幼稚園の頃。
頼れるのがさくらしかいなかったあの頃の感覚に、少し近い。
さくら以外のすべてが全部背景で、さくらだけが有機物としてそこに存在しているような気がしていた、あの頃。
さくらのこと、本当に好きだよ。信じてるんだよ。
そう言うかわりに、俺は探良の身体に腕を回して抱き着いた。
探良の肩は俺よりも華奢で、俺を押さえつける力がどこにあるのか不思議なくらい。
壊れそうで、壊されそうな俺たちは、その日初めて同じベッドで眠った。
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