真っ白な君は

紐下 育

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桜が咲く前に

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「おは~。」
「おはよ。」
「建都君、今日も、ありがとう。」

沙羅に二冊目の絵本を渡してから、今日でちょうど一年になる。
今年の春はまだ寒くて、桜が咲くのはまだもう少し先になりそう。

「いよいよ、今日ですね。」
「ええ。長かったわ。」

穂乃果さんが窓の外を眺めてつぶやく。
「よし、行こうか。」

穂乃果さんが押していく車椅子に乗っている沙羅は、いつものパジャマじゃない。

「桜が咲く前に、退院できたよ。建都の本の通り。」
「うん。」

車椅子から俺を見上げて、沙羅が誇らし気に笑う。

「建都の言葉って、魔法みたい。」


「沙羅ちゃん!」

病院の駐車場。
母さんが遠くで手を振っているのが見える。

「奈津さん!」
「奈津!」

穂乃果さんと沙羅の声が重なる。

「退院、おめでとう。」
「へへ、ありがとうございます!」
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