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父さんは昼過ぎまでお客さんと話しこんでいた。
ぼーっと眺めていると、さっきのお兄さんがこちらにやってきた。
「お腹すかない?大丈夫?おにぎり食べる?」
そう言って、コンビニのおにぎりを差し出すお兄さん。
こうやって近くで見ると、やっぱり若い。
何歳なんだろう?
「あ…ありがとうございます。」
ずっと喋ってなかったから、声がちょっとだけかすれた。
俺がおにぎりを受け取ると、お兄さんはにこっとして、こう続ける。
「お名前、聞いてもいい?何歳?」
「え、と。伊藤建都です。16です。」
「16か!高校生?」
「はい、あの、お兄さんはいくつですか?え、あ、聞いても良ければ、ですけど…。」
年上の人と喋る機会が少ないからなのか、シンプルに会話が下手なのか、しどろもどろになる。
認めたくないけど、俺の場合、多分後者だ。
「僕は24だよ。入社2年目。」
「大学行ってたんですか?」
「うん、行ってたよ。」
「どうしてここに?」
「何かを作る仕事がしたかったんだ。僕はまだこの会社では新人だし、特別な才能もないけど、こうやって家づくりに携わって、自分の生きた証を刻みたかった。」
「何かを作る仕事…。」
この間まで俺も、「作る」ことに夢中になっていた。
そのことを思い出して、質問が口をついた。
「こわく、ないですか?」
「ん?」
「何かを作るの、こわくないですか。自分が死んでも、誰かの記憶に残り続けたり、生きた証が残り続けたりするの、こわく、ないんですか?」
喋っている間にも、自分の根暗さを自覚して嫌になる。
「ごめんなさい、なんでもないです。」
あわてて打ち消した。
「謝ることないよ。建都君は、何かを作るのが怖いんだね?」
俺は、おにぎりを飲み込んでうなずいた。
「僕は、この世から完全に消えちゃうことの方が怖いかな。僕らはみんな、いつ死ぬかわからない。それに、」
お兄さんは一回口を閉じて、空の上で言葉を選ぶように目を動かした。
「僕の生きた証が全くないまま僕が死んじゃったら、僕のことを大切にしてくれてた人たちは悲しむと思うんだ。僕も、僕の大切な人が何も残さずにいなくなっちゃったらすごく悲しいからね。」
思い浮かぶのは、沙羅のこと。
事故にあって、記憶がなくなっても、沙羅の体が沙羅を証明してくれた。
心底、生きててくれてありがとうって思ったのは、沙羅が無事だったからっていうのももちろんある。もちろん。
でも沙羅が、沙羅としてまだ存在してくれてることに安心したところも、確かにあったような気がする。
そんなことを考えていたら、後ろから「岸谷!」と呼ぶ声がして、お兄さんが振り向いた。
「ごめん、そろそろ仕事に戻らなきゃ。建都君、もしよかったらインスタかLINE交換しない?またお話したいな。」
「え、あ…じゃあ、LINEで。」
ささっと交換すると、お兄さんは俺に手を振りながら外に出て行ってしまった。
友だちに、「岸谷蓮」という名前が追加された。
視察?って言ってたっけ。
忙しそうだけど、あのお兄さんみたいになる俺を想像したくなった。
俺はあんなにコミュニケーション上手じゃないし、さわやかでもないけど。
でも、ああやって働けたらかっこいいよな、と思う。
ぼーっと眺めていると、さっきのお兄さんがこちらにやってきた。
「お腹すかない?大丈夫?おにぎり食べる?」
そう言って、コンビニのおにぎりを差し出すお兄さん。
こうやって近くで見ると、やっぱり若い。
何歳なんだろう?
「あ…ありがとうございます。」
ずっと喋ってなかったから、声がちょっとだけかすれた。
俺がおにぎりを受け取ると、お兄さんはにこっとして、こう続ける。
「お名前、聞いてもいい?何歳?」
「え、と。伊藤建都です。16です。」
「16か!高校生?」
「はい、あの、お兄さんはいくつですか?え、あ、聞いても良ければ、ですけど…。」
年上の人と喋る機会が少ないからなのか、シンプルに会話が下手なのか、しどろもどろになる。
認めたくないけど、俺の場合、多分後者だ。
「僕は24だよ。入社2年目。」
「大学行ってたんですか?」
「うん、行ってたよ。」
「どうしてここに?」
「何かを作る仕事がしたかったんだ。僕はまだこの会社では新人だし、特別な才能もないけど、こうやって家づくりに携わって、自分の生きた証を刻みたかった。」
「何かを作る仕事…。」
この間まで俺も、「作る」ことに夢中になっていた。
そのことを思い出して、質問が口をついた。
「こわく、ないですか?」
「ん?」
「何かを作るの、こわくないですか。自分が死んでも、誰かの記憶に残り続けたり、生きた証が残り続けたりするの、こわく、ないんですか?」
喋っている間にも、自分の根暗さを自覚して嫌になる。
「ごめんなさい、なんでもないです。」
あわてて打ち消した。
「謝ることないよ。建都君は、何かを作るのが怖いんだね?」
俺は、おにぎりを飲み込んでうなずいた。
「僕は、この世から完全に消えちゃうことの方が怖いかな。僕らはみんな、いつ死ぬかわからない。それに、」
お兄さんは一回口を閉じて、空の上で言葉を選ぶように目を動かした。
「僕の生きた証が全くないまま僕が死んじゃったら、僕のことを大切にしてくれてた人たちは悲しむと思うんだ。僕も、僕の大切な人が何も残さずにいなくなっちゃったらすごく悲しいからね。」
思い浮かぶのは、沙羅のこと。
事故にあって、記憶がなくなっても、沙羅の体が沙羅を証明してくれた。
心底、生きててくれてありがとうって思ったのは、沙羅が無事だったからっていうのももちろんある。もちろん。
でも沙羅が、沙羅としてまだ存在してくれてることに安心したところも、確かにあったような気がする。
そんなことを考えていたら、後ろから「岸谷!」と呼ぶ声がして、お兄さんが振り向いた。
「ごめん、そろそろ仕事に戻らなきゃ。建都君、もしよかったらインスタかLINE交換しない?またお話したいな。」
「え、あ…じゃあ、LINEで。」
ささっと交換すると、お兄さんは俺に手を振りながら外に出て行ってしまった。
友だちに、「岸谷蓮」という名前が追加された。
視察?って言ってたっけ。
忙しそうだけど、あのお兄さんみたいになる俺を想像したくなった。
俺はあんなにコミュニケーション上手じゃないし、さわやかでもないけど。
でも、ああやって働けたらかっこいいよな、と思う。
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