真っ白な君は

紐下 育

文字の大きさ
上 下
13 / 41

13

しおりを挟む
次の日、俺は初めて沙羅のお見舞いを休んだ。
父さんの職場を見学しに行くから。
毎日行くことをノルマにしていたわけじゃないけど、なんだかちょっとそわそわする。
車にゆられながら、俺は考えていた。
沙羅のそばにいて居心地がいいと思うのは、沙羅が進路決定と無縁な場所にいるからなんじゃないか。

沙羅に今求められてるのは、健康であること、一度忘れてしまった知識を覚えなおすこと。
進路選択しなくていい沙羅と一緒にいることで、自分の進路決定から逃げようとしてるのかも。
もしくは、まだ進路を決められない沙羅のそばにいることで安心してるのかも。
そう思うと自分がものすごく醜い存在に思えてきて、その考えを振り切るように車窓を見つめ続けた。

父さんは営業の仕事をしている。
話で聞くことはあっても、父さんの仕事とか、仕事仲間については詳しく知らない。
どんな人がいるのか、どんなことをやっているのか。

「ねぇ、父さんってどんな仕事してるの?」
「どんな仕事っていっても、いろんなことやってるから説明が難しいんだよな…。建築会社の営業マンとして仕事をして、お客さんの要望を聞いて一緒に打ち合せをしたり、他にも、工事現場の人とか外構設計の担当者とかと連絡を取り合ったりする時間もある。要するに、その場で必要なことをやってる。」

着いたぞ、と言われて前に目をやると、そこにあったのは普通の一軒家みたいな建物だった。
もっと会社みたいなところなのかと思ってた。
「うちの会社が作った家だよ。ここにお客さんも来てもらって、完成形のイメージができるようにしてるんだ。」

家みたいな外観とは裏腹に、中はしっかり会社みたいになっていた。

「伊藤先輩、おはようございます。」

スーツを着た、大学生くらいにも見える男の人が父さんに頭を下げる。

「おはよう。今日は打ち合わせ?」
「はいっ。打ち合わせのあと建設予定地の視察行ってきます。」
「そうか、がんばれよ。暑いから水分補給忘れずにな。」
「ありがとうございます!」

「えっと、そちらの方は…?」
「ああ、俺の息子。進路選択の参考になるかもしれないって言って、今日だけ見学させることにした。なかなかイケメンだろ?」
「そうなんですね!初めまして、お父様にはいつもお世話になってます。」

先輩くらいの年齢の人に敬語を使われて戸惑った。
柔らかすぎるソファに座っているみたい。
どうしたらいいかわからなくて、適当に会釈をした。

「ここのあたりだったら邪魔にならないから、いろいろ見ながら考えてみな。」

父さんが端っこに椅子を持ってきてくれて、俺はそこに座らせてもらった。

動き出した人たちをぼーっと眺めてみる。
父さんも動きだした。
お客さんが来たみたいで、真剣な表情で図面に向き合っている。

ここに就職したら、と想像する。
さっきのお兄さんみたいにスーツを着て、毎朝こうやって出勤する。
先輩がいて、いずれ後輩ができて、頼ったり、面倒をみたり。

父さんみたいに働く俺。
全く想像できないし、不思議な感じもする。
だけど、少なくとも昨日の大学で四年間過ごすより、ましな気がした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

小学生の働き方改革

芸州天邪鬼久時
児童書・童話
竹原 翔 は働いていた。彼の母は病院で病に伏せていて稼ぎは入院費に充てられている。ただそれはほんの少し。翔が働くきっかけ母はなのだがそれを勧めのたのは彼の父だった。彼は父に自分が母に対して何かできないかを聞いた。するとちちはこう言った。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

おまじないバースディ

やっさん@ゆっくり小説系Vtuber
ホラー
天涯孤独な裕子 亡き母から教わった、願いを叶えるおまじないを唱えた… 裕子に出来た親友と恋人 彼らが祝ってくれる誕生日で起きたことは… おまじないの効果とは…

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

私の婚約者は失恋の痛手を抱えています。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
幼馴染の少女に失恋したばかりのケインと「学園卒業まで婚約していることは秘密にする」という条件で婚約したリンジー。当初は互いに恋愛感情はなかったが、一年の交際を経て二人の距離は縮まりつつあった。 予定より早いけど婚約を公表しようと言い出したケインに、失恋の傷はすっかり癒えたのだと嬉しくなったリンジーだったが、その矢先、彼の初恋の相手である幼馴染ミーナがケインの前に現れる。

処理中です...