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November
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「そういえば、俺が寝てる時誰かと電話されてました?」
オムライスをほおばりながら聞いてみる。
俺のせいで休講にしてしまったから、何か大変なことがあったのかもしれないと思って。
「ん?何のこと?」
先生は、オムライスを食べる手を止めてこちらを見る。
「一回、起きちゃったんです。その時、さくくんがドアの外で誰かとお話してた気がして。」
先生は横を向いて、んー、と考え込む。
「聞こえちゃった?」
「あ、はい。ところどころですけど。」
「そっか。そんなに大きな声で話してるつもりはなかったんだけどなぁ。」
「なんか、俺に言えない感じの話ですか?」
隠し事はしちゃだめ、なんて先生に言うつもりはない。
大学教員としての守秘義務もあるだろうし、公にまだ発表できないプロジェクトもあるだろうし。
ちょっと前までは先生のこと全部が気になってたけど、今はそこまでじゃない。
例えば俺が痴漢に遭ったことだって、先生は誰にも話さないでいてくれるっていう信頼があったから話せたわけだし。
だから、言いにくいことなら無理に言わなくたっていい。
そう思ってるんだけど。
先生は焦った顔をして、慌てて答えた。
「いや、そういうことでもないんだけど。」
先生にしては珍しく、歯切れが悪い。
「言いにくいことだったら全然、大丈夫です。」
さっきから、オムライスを食べる手がずっと止まったままだ。
「うーん…。」
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「あぁ、うん。」
どうしよう、オムライスに浮かれて、やばいこと聞いちゃったかもしれない。
「そういえば!庭にあるお花、そろそろ枯れてきちゃいましたけど…別のお花買ったりとかしに行くんですか?」
自分でも明らかにおかしいことはわかってる。
でも重たい空気に不安が押し寄せてきて、耐えられなくなっちゃった。
話題の変え方が下手すぎるのはわかってる。
無免許運転の車みたいな急転回。
「あれは、夏に妹が植えて行ったんだ。僕はあんまり世話できないからな…。」
先生もなんとなくそれを察してくれたんだろう。
俺の不器用さに少しだけ頬を緩めて、会話に付き合ってくれる。
こういうところが好き。
花は好きなんだけどね、と名残惜しそうに枯れた花の方を眺める先生。
その姿すら絢爛に見えて、平安時代の貴族みたいだ、と思う。
「もしよかったら、俺が植えてもいいですか?」
「え、いいの?」
「俺も花とか、好きですし。」
「ありがとう!今度一緒に買いに行こうね!」
「はい!」
よかった。ちょっと空気が明るくなった。
お花ありがとう。
さっきまでの困惑した色は先生の顔から抜け落ちて、俺はひどく安心する。
いつの間にか、先生のもとにあったオムライスはなくなっていて。
俺もちょっと急いで完食した。
オムライスをほおばりながら聞いてみる。
俺のせいで休講にしてしまったから、何か大変なことがあったのかもしれないと思って。
「ん?何のこと?」
先生は、オムライスを食べる手を止めてこちらを見る。
「一回、起きちゃったんです。その時、さくくんがドアの外で誰かとお話してた気がして。」
先生は横を向いて、んー、と考え込む。
「聞こえちゃった?」
「あ、はい。ところどころですけど。」
「そっか。そんなに大きな声で話してるつもりはなかったんだけどなぁ。」
「なんか、俺に言えない感じの話ですか?」
隠し事はしちゃだめ、なんて先生に言うつもりはない。
大学教員としての守秘義務もあるだろうし、公にまだ発表できないプロジェクトもあるだろうし。
ちょっと前までは先生のこと全部が気になってたけど、今はそこまでじゃない。
例えば俺が痴漢に遭ったことだって、先生は誰にも話さないでいてくれるっていう信頼があったから話せたわけだし。
だから、言いにくいことなら無理に言わなくたっていい。
そう思ってるんだけど。
先生は焦った顔をして、慌てて答えた。
「いや、そういうことでもないんだけど。」
先生にしては珍しく、歯切れが悪い。
「言いにくいことだったら全然、大丈夫です。」
さっきから、オムライスを食べる手がずっと止まったままだ。
「うーん…。」
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「あぁ、うん。」
どうしよう、オムライスに浮かれて、やばいこと聞いちゃったかもしれない。
「そういえば!庭にあるお花、そろそろ枯れてきちゃいましたけど…別のお花買ったりとかしに行くんですか?」
自分でも明らかにおかしいことはわかってる。
でも重たい空気に不安が押し寄せてきて、耐えられなくなっちゃった。
話題の変え方が下手すぎるのはわかってる。
無免許運転の車みたいな急転回。
「あれは、夏に妹が植えて行ったんだ。僕はあんまり世話できないからな…。」
先生もなんとなくそれを察してくれたんだろう。
俺の不器用さに少しだけ頬を緩めて、会話に付き合ってくれる。
こういうところが好き。
花は好きなんだけどね、と名残惜しそうに枯れた花の方を眺める先生。
その姿すら絢爛に見えて、平安時代の貴族みたいだ、と思う。
「もしよかったら、俺が植えてもいいですか?」
「え、いいの?」
「俺も花とか、好きですし。」
「ありがとう!今度一緒に買いに行こうね!」
「はい!」
よかった。ちょっと空気が明るくなった。
お花ありがとう。
さっきまでの困惑した色は先生の顔から抜け落ちて、俺はひどく安心する。
いつの間にか、先生のもとにあったオムライスはなくなっていて。
俺もちょっと急いで完食した。
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