青春なんて要らないのに

紐下 育

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October

広瀬北斗の独り言

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週末の夜。
農家のじいちゃんに呼び出された俺は、商品の売り上げを計算していた。
小学校の頃から任されているこの仕事は、めんどくさい、眠い、つまんない、のトリプルコンボではあるけど、別に嫌いなわけじゃない。
別に数字苦手じゃないし、じいちゃんと喋れるのなんてこの時くらいだし。

「これ、一個足んねぇけど。」

口が悪くなってる、自覚はある。
だけど家族だし。眠いからちょっと許してほしい。

「あぁ、この間、北斗くらいの年の男の子にあげたんだよ。いつも一人でそこのスーパーに買いに来てる子でな。北斗なんかよりよっぽどしっかりしてそうな子だった。だから問題ない。」

珍しい、と思った。
そもそも、うちのじいちゃんはサービスなんかめったにする人じゃない。
気前が悪い、わけではないんだけど。ちゃっかりしっかり、お金は貰う。
農園自体がそこまで広くないし、そこまでお金があるわけでもないから、そういうじいちゃんの方針じゃないとやっていけないんだ。
それに。

「シャインマスカットなんて単価高いやつ、あげていいの?」

しかも傷がついたやつとかじゃなくて、しっかりとした正規品を。
売ったらそれなりの値段するだろうに。

「いや、だめだろう。ふっはは。」

先に言っておく。うちのじいちゃんは変人だ。
表向きは職人気質で頑固な、昔ながらのじいちゃんだけど、こうやって急によくわからないことをしでかしては、よくわからない戯言を言ってごまかす。

「認知症にでもなった?」

そのじいちゃんの謎行動を目の当たりにするたびに俺が茶化すっていうのも、もうお決まりの流れ。

「おい、またそんなことをっ。ちょっとは敬わんかぁ!」

そう言いながら、自分でも笑ってるじいちゃん。これは酔ってるな。

ふっ、と、呆れとも笑いともつかない声が口から洩れる。

「じいちゃん酔ってるだろ?あと全部俺がやっとくから寝てて。酔って計算ミスったら余計面倒なことになるし。」
「いや、酔ってない!北斗は見張ってないとすぐサボるだろう。」
「酔ってる人間はみんな酔ってないって言うんだよ。」

ただのお気楽人間と化したじいちゃんを、仕事場からつまみ出す。

「最近は俺の体力も落ちてきたし、バイトでも雇いたいもんだ。大学の友達とかに誰かいないか?北斗みたいな自堕落なやつじゃなく、もっとましな人間。」
「…最後の一言は聞き捨てならないな。」

最後まで冗談(だと思いたい言葉)をほざいているけど、若干切ない気持ちになった。
そうか、じいちゃんも体力落ちてきてるんだよな。
そりゃそうだ、じいちゃんだもんな。
背骨が曲がってるわけじゃないんだけど、だんだん小さくなってってる。
最近は収穫もちょっと大変そうだし。
俺も手伝うけど、やっぱりバイトとか、必要なのかな…。
年中「金がない」って言ってサービスすらろくにしないじいちゃんが、人件費を払うって言ってるんだ。よっぽど、今の仕事量がしんどくなってきてるんだと思う。

売り上げの計算をしながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。
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