青春なんて要らないのに

紐下 育

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October

先生の独り言(フィールドワーク編)

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朝起きて最初に見るのが愛する人の顔だなんて、なんて幸せなのだろう。
僕よりも小さい、ゆうの体を抱きしめる。
されるがままに僕に抱きしめられていてくれるのがとにかくかわいい。
ちょっとだけ。生理的に反応しているゆうの逸物を撫でた。ほぼ無意識のうちのことだった。
赤ちゃんのような顔をしているゆうの下半身が、ぴく、ぴくぴく、と反応する。
決して、性欲に飲み込まれたわけではない、と思いたい。
可愛いのだ。ゆうを構成するすべてが、可愛くて、愛おしくて仕方ない。

そうしてある程度ゆうを堪能した後、僕はベッドを出た。
何といっても、今日はフィールドワークの日。
学生も来るし、他の研究者も来ると聞いている。
僕がやっている研究では、その土地を見ること、その土地に住む人に話を聞くことは鉄則である。
学問が、机上の空論にならないように。できるだけ外に出なさいと、恩師にも教わった。
コミュニケーションが得意ではなかった僕にとって、フィールドワークは学生の頃、地獄のような時間だった。周りにいる同級生や先輩、後輩までもがその地域で人脈を作って、研究を始められるようになった時も、僕だけは一人だった。
今になって考えると、よくやったな、と思う。
その時のことは今でも現像されたように脳裏に焼き付いていて、今でも、フィールドワークと聞くたびに思い出す。
教授になった今でもちょっと苦手な仕事ではあるけれど、最初よりははるかにうまくやれるようになったと思う。
コミュニケーションができない僕が、現地の人と仲良くなるために編み出した方法はたった一つ。
仕事道具とお金以外は、何も持っていかないこと。
仕事はしっかりするけれど、ご飯も水も現地調達。
何も準備をしてきていない学生になりきって、地元の人の話すべてを今初めて知ったかのような顔をする。ただ相槌を打ちながら聞く方が良い。その方が人間は、教えてあげよう、話してあげよう、という気持ちになるようで、新しい情報を得やすかったりする。
今僕の研究に協力してくれているおじいさんとも、そうやって仲良くなった。
何にも知らないやつだ、と思われているから、家にあげてご飯を振舞ってくれたりもする。
ただ、ずっとおじいさんと一緒に行動することになると、ゆうと連絡を取る時間がない。
これは盲点だった。
お昼を食べ終わった後も、おじいさんの話を聞いているからスマホを握る暇なんてない。

大丈夫だろうか。
寂しがっていないだろうか。

寂しがっていたらと思うと胸が苦しくなる。
かといって、全く寂しくなさそうなのも、それはそれで悲しい。

矛盾ばかりで理性のない感情に流されないように、目の前で滔々としゃべり続けるおじいさんの話を書き留めていった。
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