青春なんて要らないのに

紐下 育

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October

83

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何の修行なんだ、と思ってしまうほどに重たいエコバッグ。

「よいしょぉっっと!」
自分でも思ったよりでかい声が出た。
閑静な住宅街に響いちゃって、ちょっとだけ恥ずかしい。

はぁ…疲れた。
重たい腰をあげて、冷蔵庫まで運ぶ。
こういう時、この家の長い廊下が恨めしくなる。
冷蔵庫までが遠いのなんの。
はぁぁ。今日何度目かわからないため息が出た。
どうしてか、先生がどうにも恋しくなる。
別に甘えようとか手伝ってもらおうとか、そういうこと思ってるわけじゃないと思うんだけどな。
無意識にそういう風に考えてるんだろうか。依存ばっかりで情けないな。
今日は先生が帰ってきてから、できるだけ疲れた顔しないようにしようと思っている。
ただでさえ電車通学で不安にさせてしまっているのに、これ以上心配をかけたくない。
俺がやりたいって言って決めて、お願いしたことだから余計に。

さくさく、さくさく、とテンポよくキャベツを切っていく。
二人で食べるなら、キャベツは半玉もあれば十分だ。意外とお腹が膨らむ。
ちょっとだけつまみ食い。
「うまい。」
ペコペコのお腹にキャベツの甘さが染み渡った。

フライパンに肉を突っ込んで炒めて、さっきのキャベツとあわせてさらに炒める。
肉から油分が出るから、具材だけで炒めても大丈夫。
先生が結構食べる人だから、油とかはできるだけ少なく、ヘルシーに。
でも、ちゃんとおいしく、満足してもらえるように焼き肉のタレで軽く味をつける。
俺があんまり辛いの得意じゃないから、甘めの味付けにさせてもらう。
先生は俺に断ってから、自分のものには七味をかけたりしてる。

あとは適当に、オクラの副菜とかでいいかな。この間のシャインマスカットはデザートで出そう。
…なんか全体的に緑の食事になっちゃうけど。まぁしょうがないよね。茶色い食事よりはましだろう。
自分を何とか納得させて、オクラに手を伸ばしたその時。
先生から電話がかかってきた。

「あ、もしもしゆう?」
「もしもし、お疲れ様です!」
できるだけ元気に、疲れてるって気づかれて心配されないように。

「今からゼミの子たちを帰して、それから帰るね。遅くなってごめんね。」
「了解しました。気を付けて帰ってきてください!」
「ふふ、ありがとう。」

電話の奥の方から、大学生らしい声が聞こえる。
なんて言ってるかはわかんないけど、ギャルの音程で会話してる女の人の声。
先生のゼミの学生さんって、あんな感じなんだ。もしかしたら酔ってるのかもしれない。
急に女の人の声が近くに来る。

「先生誰に電話してるの~?彼女?」
「ちょっとちょっと!」

あ、これはやばい。
電話の相手がバレたら、困るのはきっと俺よりも先生だから。
心臓が止まりそうになりながら、俺は無言で電話を切った。
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