91 / 134
October
82
しおりを挟む
「はぁぁぁぁぁぁぁ…。」
帰宅後。誰もいない部屋で、自分史上最大のため息をついた。
他のだれでもない、俺自身にすごく呆れている。
正直に言えば、帰りはさんざんだった。
都会の人間にとっては、さほど混んでるとは言えないのかもしれない。
だけど、普段電車に乗らない人間はどうしたって体験し得ない人口密度。
午後はみんな疲れているみたいで、負のオーラがすごかった。
今にも倒れそうなサラリーマンのためにつり革を明け渡してにこっと笑った広瀬を、俺は心の底から尊敬した。体力も精神も、そんなに余裕があるのか。
それに比べて俺はというと、ライフはもうゼロに近い。
一日大学にいるだけでこんなに体力が削れるとは、想像もしなかった。
さらに俺は、冷蔵庫を見てはっとした。
この間買い出しに行った時にシャインマスカットくらいしか買ってこなかった、あの自分の呑気さに今になっていらだつ。俺が今朝忘れて行ったお弁当が一つ、明るい真っ白な空間にポツンとおいてある。
買いそびれた分、買い物に行かなくちゃいけないんだけど…どうにも体が動かない。
今日のご飯、どうしよう…。それに、明日の朝ごはんもない。明日の分のお弁当も…。
買い出しに行くなら早く行かないと。新鮮な野菜ほど早く売り切れていくし、夕方になれば主婦の人やお仕事終わりの人が増えてきてしまう。
先生には「電車楽しかったです!広瀬ともたくさん話せました!」って送っちゃってるせいで、今更疲れたなんて言えないし。
買い物…行くしか、ない。
…よし。
ヘッドホンを付けて、やたら早口な洋楽を流す。
ヘッドホンの重さでさえもだるさに変わるような気がするけど、そんな心の声は聞かなかったことにする。
装備完了。
帰りの荷物が重くなるのは織り込み済みで、自転車に乗っていく。
外に出ると、家を走って出ていく小学生。
確か向かいの家に住んでる子。
あの元気さをちょっとください…誰に向かってでもなく懇願していると、ちょうどその子と目が合った。よく会っていたから、顔を覚えてくれたらしい。
「お兄さんこんにちはー!」
元気のいい挨拶に、背筋が伸びる。
そうだ、俺はまだ「お兄さん」なんだ。
小学生から見てお兄さんってことは、まだ若いってことだ。
まだ十代。大人になったばっかりじゃないか。
何をだらだらしてるんだ、永瀬優馬。
できるだけ大きな声で元気よく、「こんにちは!気を付けてねー!」と返した。
ちょっとだけ、元気になった気がする。
自転車でいくと、スーパーは思ったより近かった。
店内は静かでほっとする。
ふぅ…今日こそちゃんと買い物するぞ。
野菜と肉と魚。料理酒とか味噌も切れそうだったから、買わないと。
エコバックがちぎれそうになるほどの材料を自転車のかごに詰め込む。
ふぅ、ファーストミッションクリア。
「今日は回鍋肉もどきにしようかな~」
そんな独り言を聞いてる人がいるなんて、この時は知る由もなかった。
帰宅後。誰もいない部屋で、自分史上最大のため息をついた。
他のだれでもない、俺自身にすごく呆れている。
正直に言えば、帰りはさんざんだった。
都会の人間にとっては、さほど混んでるとは言えないのかもしれない。
だけど、普段電車に乗らない人間はどうしたって体験し得ない人口密度。
午後はみんな疲れているみたいで、負のオーラがすごかった。
今にも倒れそうなサラリーマンのためにつり革を明け渡してにこっと笑った広瀬を、俺は心の底から尊敬した。体力も精神も、そんなに余裕があるのか。
それに比べて俺はというと、ライフはもうゼロに近い。
一日大学にいるだけでこんなに体力が削れるとは、想像もしなかった。
さらに俺は、冷蔵庫を見てはっとした。
この間買い出しに行った時にシャインマスカットくらいしか買ってこなかった、あの自分の呑気さに今になっていらだつ。俺が今朝忘れて行ったお弁当が一つ、明るい真っ白な空間にポツンとおいてある。
買いそびれた分、買い物に行かなくちゃいけないんだけど…どうにも体が動かない。
今日のご飯、どうしよう…。それに、明日の朝ごはんもない。明日の分のお弁当も…。
買い出しに行くなら早く行かないと。新鮮な野菜ほど早く売り切れていくし、夕方になれば主婦の人やお仕事終わりの人が増えてきてしまう。
先生には「電車楽しかったです!広瀬ともたくさん話せました!」って送っちゃってるせいで、今更疲れたなんて言えないし。
買い物…行くしか、ない。
…よし。
ヘッドホンを付けて、やたら早口な洋楽を流す。
ヘッドホンの重さでさえもだるさに変わるような気がするけど、そんな心の声は聞かなかったことにする。
装備完了。
帰りの荷物が重くなるのは織り込み済みで、自転車に乗っていく。
外に出ると、家を走って出ていく小学生。
確か向かいの家に住んでる子。
あの元気さをちょっとください…誰に向かってでもなく懇願していると、ちょうどその子と目が合った。よく会っていたから、顔を覚えてくれたらしい。
「お兄さんこんにちはー!」
元気のいい挨拶に、背筋が伸びる。
そうだ、俺はまだ「お兄さん」なんだ。
小学生から見てお兄さんってことは、まだ若いってことだ。
まだ十代。大人になったばっかりじゃないか。
何をだらだらしてるんだ、永瀬優馬。
できるだけ大きな声で元気よく、「こんにちは!気を付けてねー!」と返した。
ちょっとだけ、元気になった気がする。
自転車でいくと、スーパーは思ったより近かった。
店内は静かでほっとする。
ふぅ…今日こそちゃんと買い物するぞ。
野菜と肉と魚。料理酒とか味噌も切れそうだったから、買わないと。
エコバックがちぎれそうになるほどの材料を自転車のかごに詰め込む。
ふぅ、ファーストミッションクリア。
「今日は回鍋肉もどきにしようかな~」
そんな独り言を聞いてる人がいるなんて、この時は知る由もなかった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる