青春なんて要らないのに

紐下 育

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September

73

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大学が始まる一週間前。先生の家に戻ることにした。
もうすでに学校が始まってる妹は今朝、「イケメン先生によろしく。」とだけ言って登校していった。

「忘れ物ない?」
「うん。大丈夫。」
母さんは最後まで心配してくれて、最寄りの駅まで送ってくれた。
学校では広瀬やら先生やら、みんなにしっかり者みたいな扱いを受けているけど、俺だって平凡な18歳だ。
親の前ではなんにもしないし、だからこそ普通に心配をかけてしまってるんだろう。
今度、何か親孝行っぽいことしたいな。

本当は今日も先生が迎えに来てくれるって言ってくれたんだけど、お仕事があるから夜になっちゃうって言われて、だったら自分で帰りますって言った。
先生の家が恋しくて早く戻りたい気持ちもあったし。

あの後も何度か電話をしたけど、結局、「ゆうが思ってるよりもあつくて暗い『好き』」が何なのか、教えてくれることはなかった。

でも、あの先生にここまで迫れたのは、先生に絆されてばっかりの俺にしては上出来だと思う。
呆れてるとかではないけど、もうこれ以上迫らなくてもいいやって気がしてきた。
俺のこと好きでいてくれてることは間違いなさそうだし、その種類とかはこの際不問にしても差し支えない。
混んでいる電車の中で、何度目かわからない悟りの境地に達した。

先生、お仕事頑張ってるみたいだけどご飯とかちゃんと食べられてるかな。
俺が来る前と同じような食事だったら心配すぎる。
家に何もなさそうだったら買い出し行って、先生が帰ってくるまでにご飯とか作り置きしておこう。


電車を降りると、久しぶりの高級住宅街。
俺みたいな人間が懐かしいとか言うのもおこがましい。
ごろごろひいているスーツケースの音が割とでかくて、閑静な住宅街ではいやに目立つ。
あんまりにもうるさいから、最後はスーツケースごと抱えて歩いた。ダサいのは覚悟の上で。
中に入ってるのは秋物の服とか大学の勉強道具とかだけで、そんなに重たくはない。

先生の家には、見慣れない花がたくさん植えられていた。
あれ、こんな趣味あったっけ。
とは言え、この季節の花はやっぱり綺麗だ。
不思議さより美しさが勝った。
パンジーやらなにやら、その他諸々。
あんまり花に詳しくないからわからないけど、庭に色があるって素敵なことだ。
スーツケースを下におろしてからちょっと眺めて、それから玄関の鍵を開けた。

「ただいま戻りましたー。」
誰もいない家。だけど自然とあいさつしてしまうほどに、この家自体に愛着が生まれてしまっている。
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