青春なんて要らないのに

紐下 育

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August

61

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ただいま23時。
ベッドの上でまったり過ごしていてあとは寝るだけ、という状態だけど、先生の甘えたモードが発動していて眠れない。
俺は夕方昼寝したから、そこまで眠たくないけど。

俺の膝の上に先生の重たい頭。
最年少で教授になれるだけの頭脳が、今俺の膝の上にある。
ちょっとした支配欲が出てきそうで、慌てて抑え込んだ。

「ねぇ、ゆう?」
「どうしました?」
「後期も、僕の家にいてくれるよね?」
「え?」
「広瀬君と登校するようになっても、僕の家に住んでてくれるよね?」
「さくくんに追い出されるまで、住まわせてもらいたいと思ってますよ。」
「へへ、じゃあ、一生ここにいてくれるんだね。」
「さくくんに追い出されなければ。」
「そんなこと、するわけないじゃん。大学卒業しても、引きこもりになったとしても、何があっても僕が養うんだから。」
「ふふ、ありがとうございます。」

横になってる先生の喋り方は、いつもよりとろとろしている。
眠そう。

「さくくん、もう眠いですか?」
「んーん。大丈夫。」
「大丈夫ってことは眠くはあるってことですよね。」
「やだ!寝ない!もっとゆうに甘えたいもん。」
「さくくん、たまに駄々っ子みたいになりますよね。」
「そう?通常運転だと思うけど。」
「だとしたらヤバいです。」
「でも、なんだかんだ言って僕のこと甘やかしてくれるよね。」
「さくくんに言われたら断れないです。」
「それは、僕が先生だから?」
「うーん、普通に、尊敬してるからじゃないですか?さくくんが思ってるより、俺はさくくんのこと好きだと思います。」
「えっ?」
「えっ?」
「かわいすぎるでしょ。」

気付いたら、俺の背中がベッドについていた。
上には先生。
これって俗にいう、「押し倒された」ってやつ…?

「えっ、ええっ、」

頭が真っ白になって、口から戸惑いの声だけが漏れる。

「なーんてね。」

先生がにやっと笑う。

「びっくりした…。」
「へへっ。」
「もうっ、もう、膝枕しないですからね!俺はもう寝ます。」

照れてるのがバレたらまずい。
そう思って、怒ったふりをした。

「ごめんね?でも、可愛すぎるのは本当。」
「そんなの、俺は知らないです。」
「僕にとっては死活問題だよ。」
「なにそれ…。」

俺がわざわざ壁の方を向いて横になったのに、力の強い先生は俺をあっけなくくるっとひっくり返す。

「そんなにほっぺたふくらませても、可愛いだけでちゅよ?」

赤ちゃんをあやすみたいな先生の口調。絶対、おちょくられてる。

「かわいいねぇ。」

先生がずっとそう言ってくるもんだからもう俺は口を挟む気もなくなって、ただただ目を閉じた。
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