青春なんて要らないのに

紐下 育

文字の大きさ
上 下
67 / 134
August

60

しおりを挟む
先生から来たLINEの通知で、目を覚ました。

「今から帰るよ。30分くらいで着くと思う。」

あぁ、結構な時間寝ちゃったな。
そろそろ料理作り始めないと。

ソファーから身体を起こすと、心地よいくらいの倦怠感がまとわりついていることに気づく。
こんなに友達と過ごしたことがなかったから、知らず知らずのうちに疲れたのかもしれない。
チャーハンを作っていると、先生が帰ってきた。

「おかえり!!」
「うぉっ!?」

玄関からキッチンまでが遠いのに加えて、チャーハンを炒めてたせいで先生が鍵を開けた音も聞こえなくて、びっくりする。
あやうくチャーハンこぼしそうになったぜ…。
…冷静になるまで気づかなかったけど、帰ってきた先生が「おかえり!」はおかしくない?こっちのセリフでは?

スーツをがばっと脱いでいく先生がかっこよくて、ついつい見ちゃう。
危ない危ない。焦がさないようにしっかり見てないと。
もうちょっと早く昼寝から起きてたら、もうちょっと早く料理作り始めてたら、先生のスーツをもっと堪能できたのかな。

「チャーハン?疲れてるはずなのに作ってくれて、ありがとうね。」

部屋着に着替えた先生が、俺を後ろから抱きしめる。
相変わらず耳元で話されて体がびくっとしちゃって、より力強く抱きしめられた。
逃げようとしてるとでも思ったのかな。

「大丈夫です。あ、なかなか連絡せずに、すみませんでした。」
「本当に、無事でよかったよ…。心配した。」

俺の肩に顎を乗せて、先生が甘えてくる。
声的に、絶対唇とんがらせてるんだろうな。
顔が安易に想像できて可愛い。

「さくくんは、学会、どうでした?」
「うん、新しい研究者や彼らの新鮮な研究を聞けて、とっても良かったよ。今度の授業でも、その時の論文を紹介しようと思ってるんだ。」
「よかったです。またお話、聞かせてください。」
「うん。ありがとうね。」
「そういえば、今日一緒に遊んだメンバーも、先生の授業は楽しいって言ってました。」
「本当?嬉しいな。というか、遊んでてもそんな話になるの?みんな真面目だなぁ…。」

若狭先生以外の先生の名前が出てくることはあんまりないですよ、って言いかけて、他の先生を下げてることになるから失礼かなって思う。

「たまたまです。でも、若狭先生って言葉が出てくる度に俺、冷や汗かくんですよ…。」
「家にいる僕は若狭先生じゃなくてさくくんだから、そんなに過剰に反応することないよ。」
「とはいっても…。」
「でも、そうやって僕のことを常に気にしてくれてるのは嬉しいな。ずっとゆうの脳内に僕がいるってことだもんね。」

よくわからない会話をしているうちに、チャーハンが完成した。

「夕飯できたので、運ぶの手伝ってもらってもいいですか?品数少なくて申し訳ないですけど…。」
「ありがとう!相変わらず、手際がいいなぁ…。僕が運ぶから、先に席ついてて。」

先生の言葉に甘えることにして、先生が運んでくれるのをまったり眺める。
相変わらず手がきれい。イタリアンレストランとかにいそう。

「お待たせ。」
「ありがとうございます。」

二人でチャーハンを食べ始める。
我ながら、うまくできたと思う。パラパラに仕上がってるし。

「今日は楽しかった?」
「はい。友達と遊ぶなんてほぼ初めてでしたけど、本当に楽しかったです。また遊ぶ約束もしました。」
「そっかぁ…よかった。」
「そういえば、広瀬、いつも仲良くしてくれてる広瀬北斗ってわかりますか?まさかの、最寄り駅が一緒だったんですよ!」
「へぇ…。」
「だから、後期からは、二人で電車乗って登下校できそうだなって思って。」
「え…。」
「どうかしました?」
「い、いや、なんでもない…。よかったね。」

食べ終わると、先生は俺にくっついて離れない。

「大丈夫ですか?」
「うん…今日はちょっと疲れちゃったみたい。甘えたい気分。いい…?」

こんなにはっきりと「甘えたい」って言われると、ちょっと戸惑ってしまう。

「もちろんです。」

でも、断るなんて俺にはできない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

視線の先

茉莉花 香乃
BL
放課後、僕はあいつに声をかけられた。 「セーラー服着た写真撮らせて?」 ……からかわれてるんだ…そう思ったけど…あいつは本気だった ハッピーエンド 他サイトにも公開しています

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

坊ちゃんは執事兼教育係の私が責任を持って育てます。

幕間ささめ
BL
一目惚れして爵位を捨てた執事兼教育係(攻め)×執事大好き純粋ぽわぽわ坊ちゃん(受け)

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

処理中です...