青春なんて要らないのに

紐下 育

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August

50

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広瀬との勉強会。
途中一緒に学食で昼休憩したりしながらだったけど、思ったより集中できて俺としてもめちゃくちゃ助かった。
明日の試験勉強だけじゃなくて、明後日、明々後日の試験もおおかた復習できた、と思う。
広瀬と過ごす時間は居心地がいい。

「そういえば、永瀬っていつも何時くらいに帰ってる?いつも図書館いる気がするんだけど。」

ぎくっ。
…唯一、こうやって冷や汗かかされるときがあることを除いては。

「確かに、ずっと図書館にいるわ。たいてい朝から夜までいる。」
「えぇ、なんで?家帰ったり遊んだりしないの?」
「あんまり遊んだりしないんだよね。遊び方もよくわかんないから、そもそも遊ぼうって発想もないわ。」
「えぇ、もったいな!グループで遊びに行くのとは別にさ、今度一緒に遊び行こうよ。」

先生のことに触れないように、あえて「遊ばない」ってところにフォーカスを当てて話す。
広瀬も、「なんで家に帰らないのか」とは聞かないでいてくれて、一安心。

「お、おう。」
「緊張すんなって!上京してからこの辺では遊びまくってるから俺に任せろ。」

時々こうやって頼れるのも、広瀬のいいところだ。
この間授業欠席しちゃったときもそうだけど、すぐ俺の気持ちを汲んでくれる。
そういえば、先生もそうだな。

…え?俺ってそんなにわかりやすい?

自覚は全くなかったけど。
人に自分の考えてることが全部伝わってたらと思うとちょっと恥ずかしいような、照れくさいような。

「ありがとね。」

人に恵まれてる。
感謝が口をついて出た。

「何言ってんだよ!当たり前だろ、友達なんだから。」

柄にもなく、広瀬がかっこよく見えた。

「そういえばさ、広瀬はなんで俺に声かけてくれたの?」

こんないい人が俺なんかの友達なんて、そんなことあっていいんだろうか。

「えぇ、わからん。ただ何となく話してみたかったから、じゃない?」

圧倒的陽キャの回答…。
しれっとした顔で答える広瀬に感心さえ覚える。
こっちは友達になるかならないか、誘いを受けるか受けないか、さんざん悩んでたっていうのに。
広瀬からしたらただの友達のうちの一人で、ただの興味本位でしかない。
まったくもって嫉妬とか虚しさとかそういうのじゃない。嫌味でもない。
ただ、目の前で圧倒的なコミュ力の差を見せつけられた。

「広瀬、お前ってほんとすげぇな。」
「、?は?」

目の前で鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしている広瀬が面白くて、くすくす笑う。
広瀬がいるからか、午後の時間はあっという間に過ぎて行った。

「俺、そろそろ帰るわ。」
「お、了解。じゃあ俺も帰るわ。ちょうどいいタイミングの電車もありそうだし。」

広瀬は気遣ってくれたのか、俺が帰るって言うまで一緒にいてくれた。


「あれ、永瀬そっち?」
「あぁ、ちょっと研究室の掲示板見てから帰る。」
「えらすぎ。俺は早くいかないと電車なくなりそうだから先帰る。」

ここで一緒についてこられたら先生と待ち合わせしてることがバレちゃうかもしれない。
本当にナイスタイミング。

にこにこしたまま先生との待ち合わせ場所、もとい研究室に向かう。
先生は廊下で待っていた。
捨てられた子犬みたいな顔をして。
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