青春なんて要らないのに

紐下 育

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June

35

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「今日は、どうだった?」

俺が口を開く前に、先生の方が口火を切った。

「体調はどう?」
「おかげさまで、元気に一日過ごせました。」
「よかった、心配してたから。」
「ありがとうございます。」
「お友達と一緒にいたの?」
「あ、はい。おかげさまで結構仲良くなれた気がします。」
「そうだったんだ!今日は学食でゆうに会わなかったから、あれ?って思ってたんだ。かなり長く話してたのかな?」
「はい。レジュメ見せてもらって、その後お礼に彼のわからないところを教えてあげてたら結構遅くなっちゃって。学食も彼と一緒に行ったんですけど、昼過ぎだったのであんまり混んでなかったです。」
「そうだったのか!えぇ、じゃあ、僕も遅めに行ったらよかったなぁ。何時くらいに行ったの?」
「えっと、多分14時前だったと思います。俺らが最後だったので。」
「まじかぁ…13時すぎまでは粘ってたんだよ。もうちょっといればよかったなぁ…。」

…この人、本当に教授?
教授ってもっとこう、忙しいものかと思ってた。
いや、失礼だから
「その子、ゆうと一緒にお昼ご飯食べれたんでしょ?いいなぁ、ずるいなぁ。」

ずるいなぁはちょっと勘違いしますよ、先生。
まるで嫉妬してくれてるみたいじゃん。

「まぁ、ゆうが仲良くできる子が見つかってよかった。僕だけを見てくれないのはちょっと寂しいけど、僕のせいであんなに長く大学にいてもらうことになってるからね。一緒に時間つぶせる人がいて本当によかったよ。」
「ありがとうございます。おかげさまで、ちょっと大学生活変わりそうです。」

今日の先生、可愛い。
いや、いつもかっこいいし可愛いんだけどね。
今日はいつにも増してというか。

「そういえば、今日の一限は図書館で過ごしてたんですけど、面白い人見つけたんですよ!」
「へぇ!どんな人?」
「佐藤武夫さんって人なんですけど、ご存じですか?」
「え?」
「あれ、知らないですか?」
「いや、知って…る…けど。」

なんだ?急に歯切れが悪くなる。
もしかしたら、何かタブーみたいな人だったりする…?

ちょっと思ってた反応と違って焦ってる俺に、先生が慌てて付け加えた。

「あ、この間の学会にいた人なんだよ。ちょっとびっくりしちゃった。」
「え!そうなんですか!?」
「まさかゆうが佐藤先生にたどり着くとは…本も面白いし、この間の学会発表も興味深かった。いいよね!」
「え~、まさかそんなつながりがあったなんて!感動してます!」

やっぱり、知ってる人だったのか。
学問の世界はやっぱり狭い。
興奮して、つい声が大きくなる。

いつも、学問の話になるとオタクになる先生なのに、珍しい。
「いいよね!」で済ませる人ではないと思うんだけどなぁ…。
まぁ、アカデミックな話はいろいろ衝突とかもあるし、俺には想像もつかないようなことがいろいろあるのかもしれない。

家について、車を降りた後も、先生はちょっと元気がなかったかもしれない。
今日は一日心配かけちゃってたみたいだし、疲れさせちゃったかな。
申し訳ないな。

先生が先にお風呂に入りにいったから、その間に作り置きのご飯を温めて準備する。

「あれ、作ってくれたんだ!ゆうはほんとに気が利くなぁ、ありがとう。」
ちょっとネガティブな気持ちになってたけど、こうやって先生に褒めてもらえるだけで気分が戻る。

やっぱり俺はちょろいんだなって、ご飯を食べながら思った。
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