青春なんて要らないのに

紐下 育

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June

31

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「ゆう~?」

ゆっさゆっさと身体をゆすられる。

「体調、どう?」

また、先生の部屋で寝ていたみたいだ。今日はほとんどだるさがない。

「だいぶよくなったみたいです。ありがとうございます。」
「おお、よかった。顔色も良くなっていて安心したよ。念のため、熱は測っておこうか」

先生に体温計をもらって、わきに挟む。そこまで具合も悪くないし、今日は大学行けそうだ。

「今日は大学どうする?大事を取って休んでもいいと思うけど、どうかな?」
「体温次第ですけど、できれば行きたいです」
「そっかぁ…。じゃあ、大学で具合が悪くなったり、疲れちゃったりしたら遠慮なく言ってね。駆けつけるから」

先生のことだから、本当に駆けつけてきそう。お仕事には集中してほしいんだけどな…。
でも、先生の車じゃないと帰れないんだから、本当に具合が悪くなっちゃったら仕方ないのか。

「ありがとうございます。何かあったら、連絡させてもらうかもしれないです」
「うん、ありがとう。無理せずに連絡してほしいな」

昨日ずっと一緒にいてくれた先生だけど、今日は別行動しなくちゃいけない。ちょっと寂しいと思っちゃうのは、病み上がりだからなのか。

二人そろって朝ごはんを食べる。先生は忙しいみたいで、パソコンで何か作業しながら食べてる。
それでも、いただきますとごちそうさまはしっかり言うし、俺の目をみておいしいって言ってくれたりもする。先生の身体が俺の作ったもので構成されてるんだと思うと、なんか自分も役に立ててるんだって気持ちになる。先生をみてキャーキャー騒いでる女子たちに、ちょっとだけ優越感。

先生がながら食べしやすいように、今度パンとか買ってこようかな。
支度を終えていつもみたいに先生の車で登校していると、俺のスマホが鳴った。LINEだ。

開くと、グループワークのメンバーの一人からだった。

「永瀬おはよう」
「今日は大学来れそ?」

今日も心配してくれてるのか。いいやつ。

「昨日の授業のレジュメ、今日も持っていくからもしよかったら貸すよ」

俺が既読をつけたくらいに、追加で送られてきたLINE。これは…本当にありがたい。
でも、これをお願いしちゃったら、本当の友達みたいだよな…。
あいつはいいやつだと思う。でも、だからこそ、友達になったらいろいろ誘われるかもしれない。
大学では友達は作りたくなかった。みんな知り合いにとどめておくつもりだったのに。

ふと、ルームミラー越しの先生の視線に気づく。
顔を上げると、先生と目があった。

「難しい顔していたけど、なんかあった?」
「授業のグループワークを一緒にやってる人からLINE来てたんです。昨日休んだ授業のレジュメを貸してくれるって言ってくれたんですけど、そこまで仲いい友達を作ったことがなくて怖くて…」
「なるほどねぇ。たしかに、友達がいるかいないかで大学の過ごし方も変わってくるよね。」
「はい…。高校でもそうだったから、大学でも友達作る気がなくて。でも嫌われたくもないんですけどね…」
「嫌われるのは誰でも怖いよ。ゆうが弱いわけじゃない。うーん、そうだなぁ。」
「友達は結婚とかと違って契約じゃないから、いつの間にか会わなくなったりすることもあるよ。とくに大学では、授業ごとにメンバーが変わるからね。とりあえず今日はこの人と一緒にいてみよう、くらいの軽い気持ちでいいと思うよ。」

そうなのかな…。でも、先生が言うならいいのかもしれない。
実際、俺は先生とはうまくやれてるんだ。人付き合いができないわけじゃない。

よし。

「ありがとうございます。ちょっと返信してみます」

LINEのトーク画面を開く。

「心配ありがとう。熱下がったから、今日は登校するよ」
「レジュメの件、とてもありがたいです…空きコマに見せてもらってもいいかな?」

送信した瞬間に返信が来た。

「おおー、よかった!」
「おけおけ、3限空いてる?時間合わせて図書館とかで待ち合わせしよ」

すごく優しい友達が、できたみたいだ。
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