青春なんて要らないのに

紐下 育

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June

29

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先生にゆすられて起きると、時計は19時を指していた。
一日中寝てたからなのか、眼裏が痛い。

「具合はどう?まだ頭痛い?」
「ん、大丈夫です。かなりましになりました」

実際、熱も下がっていた。まだ平熱よりは高いけど、37度8分。

「よかった、薬も効いたのかな。またご飯食べられる?」
「はい、食べられそうです」
「また作ろうか?」
「おかゆじゃなくても大丈夫そうなので、作り置きのやつチンして持ってきてもらえますか?」
「チンって言い方可愛い。わかった、持ってくるから待っててね」
「ありがとうございます。お願いします」

先生は俺の頭を撫でて、それから部屋を出ていった。

だいぶ身体が楽になった。これなら、明日先生を心配させることはなさそうだ。それに、もしかしたら俺も大学に行けるかも。
友達がいないから、講義を一回休むだけでもかなりダメージがでかい。その日出た課題、講義内容についていちいち授業担当の先生に確認を取らないといけないから。できれば明日は大学行けるといいな。

先生はお盆を持ってすぐ帰ってきた。まあ、電子レンジであっためるだけだから当たり前だけど。

「これでよかったかな?残っているものの中では消化の良さそうなものにしてみたんだけど」
「大丈夫です、お気遣い、ありがとうございます」

先生が持ってきてくれたのは俺が作り置きしておいた肉じゃがだった。何気に俺の得意料理。
実際、お腹壊してるわけじゃないからそんなに消化のいい物じゃなくてもいいんだけどね。でも、心配してくれたことが嬉しい。
よかった、と笑った先生の顔が、いつもより何倍もかっこよく見える。

「ご飯食べたらまた薬飲もうか」
「はい」
「僕もここで食べてもいい?ゆう見てたらお腹すいてきちゃった」
「あ、ぜひぜひ。ありがとうございます」

先生は再び部屋を出て、もう1パックの肉じゃがを持ってきた。

「いただきます!」

礼儀正しく挨拶する先生。可愛い。ベッドサイドにある小さい机で、二人で肉じゃがを食べる。

「おいしい!よかった、ゆうが元気になってくれて…」

俺の熱が下がって先生も安心してくれたみたい。表情が明るくなって、口数も増えた。

「ごちそうさまでした!」

二人合わせてごちそうさまをする。

「僕が片付けに行っている間、一人で薬飲める?僕が見ていた方がいいよね」
「いや、一人で飲めるので大丈夫です。片付け、お願いします」

それでも過保護なのは平常運転。誰かに見られながら薬飲む方が緊張するので、できれば片付けに行ってくれている間に飲める方がありがたいかも。

「そう?じゃあ、何かあったら呼んでね」
薬飲む時に何が起こると思っているんだろうか。不思議な先生の優しさに思わず笑ってしまう。
いや、嬉しいけどね。

「お風呂、入れそう?」

片付けを済ませてくれた先生が俺に聞いた。

「うーん、37度だし、ささっと入ってきます」
「え!いやいや、一人でお風呂は危ないよ。入るんだったら僕も一緒に入る。」

この間のぼせてた人に危ないって言われてもブーメランですけど。

「お風呂で倒れたことないし、すぐ上がるので大丈夫です!一人で入ります!」
「だぁぁめぇぇ!」

聞いたことない先生の声。そんな駄々っ子みたいな声出せたんですね…。

…今日は、お風呂あきらめた方がいいかもしれない。
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