青春なんて要らないのに

紐下 育

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May

21

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土曜日の昼下がり。眠くなる時間だけど、課題を進めなくちゃいけない。
明日は俺の学生アパートの荷物を先生の家に持ってくる日だから。
今日中にこまごました課題を終わらせないと、月曜日に大量の勉強道具を持って登校しなくちゃいけなくなる。

六月の初旬提出のレポート。これは先生が担当する授業のものだ。先生がいるところでやるのはなんだか不正のような気がするから、先生がいないところでやりたいんだよな。
でも、時間をかけて、気合を入れてやりたい。
もうほとんどできているけど、まだ推敲の余地がある気がする。もっと参考文献増やした方がいいかな。明日大学の図書館で参考になりそうな本を借りてこよう。

だめだ、あくびがでる。
いったん勉強は中断しよう。
ハンバーグの仕込みを始めてもいいころだ。

ハンバーグの仕込みをして、余った具材で副菜を作る。ご飯もそろそろ炊こう。
先生はいっぱい食べるから、いっぱい作る。食べられなかったら明日の朝にでも食べればいいからね。

ジーパンに入れたスマホが震える。先生からのメッセージかな。でも、あいにく火を使ってるから確認できない。
スマホの震えが止まらなくて、あ、これは先生だな、と確信する。
先生は俺が既読をつけないと心配になるのか、連投する癖がある。既読さえつけば、返信がなくてもいいみたいだ。

前のポケットに入れたスマホがずっと震えてるせいで、くすぐったい。
「ふっ、ぁっ、」
鼠経部のくすぐったさに耐えられなくなって、いったん火を止める。
確認すると、おびただしい数のメッセージ。

「学会、僕の発表が終わったよ!」
「お昼は突然電話切っちゃってごめんね」
「あの後、興味深い研究をやってる人に会えて、話しこんじゃった」
「なかなかゆうに電話かけられるタイミングなくて、ごめんね」
「寂しくない?」
「帰りの飲み会はいつも断ってるから、19時半には解散になると思う!」
「ゆう~?」
「既読つけてほしいな」
「寝てる?」
「課題できたかな?」
「もうすぐ帰るからね!」
「僕は鍵持ってるから、インターホン鳴っても絶対出ないでね!」
「ゆう~?」
「大丈夫?」

既読をつけた瞬間に、連投の嵐が凪ぐ。

「料理作ってて確認遅れました。お疲れ様です。」

「よかった!返信ありがとう~」

一瞬の間もなくつく既読に、笑みがこぼれる。
よし、料理を再開しよう。

先生は特に好き嫌いがないと前に言っていたけど、それが本当に助かる。
何でもおいしく食べてくれる。
今日は肉肉しいハンバーグに合うように、野菜炒めはさっぱりした味付けにした。
完成。

あとは先生が帰ってくるのを待つだけだ。

メッセージの通り、先生は20時前には帰ってきた。
帰ってくるなりいつものように俺に抱き着き、ハンバーグの匂いだ、とつぶやいた。何回も言うが、俺の胸の中でしゃべるのはくすぐったいからやめてほしい。

お腹がすいていたらしい先生、そして俺は、すぐに夕食を食べることにした。
料理はできるだけ出来立てで食べたいしね。

「この野菜炒め、めちゃおいしいんだけど!なんの味付けなの?」
「色どりもきれいだ~すご!!」

先生は些細なところもくまなく褒めて、それから学会のお土産話をしてくれた。

「それでね!その研究してる人が…」
「ええ!めっちゃ面白いですね!その方の論文どっかで読めないかな…」
「僕が所属してる学会誌で読めると思うよ!あとで貸してあげるね!」
「ありがとうございます!」

ハンバーグを褒めてくれたのが嬉しかったのはもちろんなんだけど、もっと嬉しかったのは先生がしてくれる学会の話。楽しくて仕方なかった。
多分、俺がわかんないであろう用語とかをすっとばして、わかりやすく話してくれてるんだと思う。先生の語り口が軽快で巧妙なのも相まって、好奇心をそそられる。
食事をした後、先生のお部屋にお邪魔して、学会誌を読ませてもらった。
先生の匂いにつつまれて、学会誌を読む時間は俺にとっては至福だった。
そんな俺を見て、先生は、ここにある本はなんでも読んでいいよ、いつでもおいでって言ってくれた。

「ありがとうございます!」

やっぱり、先生のお家は最高だ。
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