青春なんて要らないのに

紐下 育

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May

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「今日の二限の授業中、目の前にゆうがいたでしょう?ゆうがいつもより集中してない気がして気になっちゃったんだ。いつもより消しゴム使ってたし。だから、何かあったんじゃないかなって思って。もし、僕のせいでゆうが誰かに何か言われたりしていたらって考えたら、仕事も手につかなくなっちゃった。今日はもう駄目だと思って、仕事を早めに切り上げてきたんだよ。学食でゆうを見かけたとき、本当は駆け寄りたかったんだ。でも、そんなことしたらゆうに迷惑がかかるかもしれない。だから…」

なんか、すごく安心する。俺だけが不安になってるわけじゃないんだ。

「僕、誰かのことをこんなに考えたことなくて。自分でもびっくりしてるんだ。なんでこんなにそわそわするんだろう。不安になるんだろう。ゆうのこと守るって言ったくせに、頼りない大人でごめんね。」

「俺も、一緒です」

思わず、言ってしまった。言うつもりなんてなかったのに。
「え…?」
見たことないくらい目をまんまるにした先生。
もう引くに引き下がれない。

「先生が一限で学生さんの質問答えてたって聞いて、そうか、俺だけの先生じゃないんだって思ったら悲しくなっちゃって…」

「えっ!!そういうことだったの!?」

恥ずかしい。

「家に帰ったら僕はゆうだけのものだよ。大学では公正に見なきゃいけないけど、ゆうだって僕の大切な学生なんだからね。質問とか、相談とか、話したくなったらいつでもおいで。」

先生は、いつも優しい。俺だけをえこひいきするような人じゃなくて、そういうところも含めて大好きだ。でも、ちょっと寂しくなっちゃうのはどうしてなんだろう。そんなこと望みたくないのに。

「…ありがとうございます」
喉の奥から声を絞りだす。

「お腹すいたので、ご飯、持ってきてもいいですか」

話したいことは話せた。あとは俺がなんかわがままを言いたくなっちゃってるだけで、それは我慢しなくちゃいけない。ご飯食べて早く寝よう。

「あ、うん。ありがとうね」
先生はまだ、何か考えたいみたいだった。さすが研究者、気になったことは解決しないと気が済まないらしい。俺は脳内で茶化したことを考えて、もやもやを振り払った。

週末に作り置きしたタッパーを二つ、冷蔵庫から取り出す。先生はあっつあつが好きだから、レンジの時間は長めに設定しないと。

「今日、もしよかったら一緒にお風呂入らない?」
「え?」

考え込んでいた先生が、唐突にそんなことを言い出す。

「裸の付き合いってやつ。お互いのことをもっと知れるかなと思って。嫌かな?」

嫌かな、と聞かれたら、嫌ですとは言えない。

「いや、では、ないですけど…恥ずかしいです…」
「そっかぁ…」

悲しそうな顔をする先生。俺がこの顔に弱いことを知っててやっているんだろうか。そう思うほどに策略的で、あざとい。

「わかり…ました。ご飯食べたらご一緒させてください。」
「うん!ありがとう!」

先生のころころ変わる感情を隣で見ているのは、割と楽しい。
これが見たくて、いろんなことを許してしまうんだ。
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