青春なんて要らないのに

April

９

「先生、あの、俺、よかったら夕ご飯作りますよ」
「え、いいの！？」
ずっとお世話になりっぱなしだし。ちょっとでも役に立てたらいいなと思って。
先生が子どもみたいに目をらんらんと輝かせた。
「冷蔵庫、見ますね」
何を作ろうかな。先生の好きそうなもの…
「って、先生！お水とお酒ばっかりじゃないですか！」
「だってぇ…」
さっきとは打って変わってしょんぼりしてしまった先生。自炊できないなら冷蔵庫すっからかんでも仕方ないか…
「先生、俺、買い出し行ってきます」
「待って僕も行く！ゆうだけじゃどこにお店あるのかわからないでしょ？」
それも確かにそうだ。
「…じゃあ、一緒にお願いします…」

ということで、俺は先生と一緒に出掛けることになった。
ちなみに俺の服装は、先生の借り物だ。そして、先生がコーディネートしてくれた。露出があるからだめ、これはかわいすぎるからだめ、とぶつぶつ自問自答しながら…

やっと決まった服は、先生のワイシャツとジーパン。袖も裾も長すぎて、めちゃくちゃ折って着させてもらった。

「よし、じゃあ行こうか。」
先生は車の後部座席のドアを開けて、さっとエスコートしてくれた。こういう紳士なところ、本当にかっこいいと思う。俺も彼女できたらやりたい。
「そんなに長い距離ではないんだけど、どのくらい買うかもわからないし、車で行こう」

先生の家に来る時は寝ちゃっていたからわからなかったけど、やっぱり外はとてつもない高級住宅街だった。本当に日本なのかと疑いたくなる。
でも、そんなところにも日本のスーパーが佇んでいた。謎に安心した。

「先生、夜何食べたいですか？」
「ふふっ、なんだか新婚さんみたいだね」
「野菜を摂ってほしいんで…ラタトゥイユとかどうです？」
「あれ、恥ずかしくなったの？かわいい」

マイペースな先生はおいておいて、俺は野菜をいろいろ見ることにした。俺の後ろをちょこちょこついてくる先生が可愛い。

なんだかんだ、大量に食材を買ってしまった。買うのは俺だし、俺がお金を払おうとしたけど、先生は許してくれなかった。俺が作るって言ったのに、先生にお世話になってしまって申し訳ない。

「ゆうのご飯食べるの楽しみだな～」
帰りの車の中で、先生はしきりにそう言っていた。ちょっと緊張する。

「できました！」
俺が作ったのはラタトゥイユとサラダ、そしてピラフ。
「おお～すごすぎる！！」
料理中、先生はずっと俺の後ろに立っていた。包丁持ってる時とかはさすがに危ないので離れてもらっていたけど。

食卓に運んで、いただきますをする。
一口食べた先生は、目をまんまるくして大声で言った。
「ゆう！君は本当に大天才だね！！こんなおいしいご飯を作ってもらえるなんて、僕は幸せ者だよ！」

先生は俺に甘すぎる。でも、そういってもらえるなら作り甲斐があるな。

「これからも、俺でよかったら作らせてください」
「ぜひ！こちらからお願いしたいくらいだよ…！」
先生に気に入ってもらえたラタトゥイユは、３食分くらい作り置きしておいた。