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2章
春の欠片
しおりを挟む不明瞭な意識に抗い、重くなった瞼を開ければ畳の上で独り、灯の途絶えた宵の中にいた。天上かと期待していた節もあったので早々に恥じ入る。夢であったのか、将又現であったのか、何れにせよ今となっては知る術もない。
けれどふと思い立ち、掌を天井へ翳せば、緩慢に落下していく花弁のひとひらが目に灼きついた。ふたたび掌に納めようと腕を伸ばす。ところが花弁は弧を描いて指先を掠め、僅かに開いた襖からするりと逃れるようにして隙間を抜け出た。未だ目の届く花弁のひとひらを追って灯を持たず、外套さえ碌に身に付けぬまま、息を切らして冬夜を駆ける。凍空に晒した肌はひりりと悴んで、冴えざえとした風が鼻に沁みた。白い息を一つ吐いて天上を見上げれば、皓皓とした満月が此方を見下ろしている。静けさに染まった辺りを清く、淡く、柔らかな光で優しく包む月明かりに、ありもしない春を手繰る心を少しだけ、ほんの少しだけで良いからあたためていてほしいと独り願った。
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