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第九走
133:僕、電車に乗れなくて遠方の試合とか応援に行けなかったけれど、どこかの区の応援に行くね
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以前より、練習メニューを見てポイント練習の量が減ったことに不満が上がったが、極限の集中を招聘したメンタルコーチに習ってから行うと、脳がヒートアップして頭痛を訴える者が一時期激増した。それだけ集中するということは脳に負担をかけるのだ。飲み物に、ブドウ糖と顆粒レモンを加えた物が公表で西城陸上部のポイント練習をこなす日のグラウンドメニューになった。考案してくれたのは、紬季だ。どのメーカーのが吸収がよいのか何度も試してくれたらしい。
やがて十月。
出雲駅伝は十日。
箱根の予選会はその十四日後。
やはり出雲は捨ててよかったのかもしれない。
例年、立川で行われる予選会には、今年は四十三校集まった。
一チームは十人から十二人。上位十人の合計タイムがすくない順に上位十校が本戦出場権を得る。
周りには五百名を超える選手がいたが海は緊張はしなかった。
他のメンバーも同じだったかもしれない。
集中しきると不安が沸いてこないのだ。
歓声対策もバッチリしてきたし、いいレースになりそうだなと思った。
紬季は住んでいる街から立川まで電車で遠いので家での応援だ。紬季は一、二年生らの精神的支えになっているようで、電車に乗れない理由を話しても、応援のこないことを残念がられた。
予選会のレースは、陸上自衛隊立川駐屯地をスタートし、立川駅前を通過。昭島を抜け、昭和記念公園がゴールとなる。
結果は六位。
海は個人成績二十位。そして、イツザイは二十九位とかなりの好成績を残せた。
これで、箱根駅伝に出場だ。
返り咲いて感激というより、前いた場所に戻ってきた感じがする。
箱根駅伝まであと二ヶ月を控えて、皆がグイグイ記録を縮めているときに急にスランプになったのがイツザイだ。
皆に効果が出ている栄養管理アプリを未だに使っていないし、こっそり酒は飲む。煙草だって吸う。夜更かしも好んでし、ジョグに遅刻してくることもある。周りに追いつけなくなってきて当然だ。
あれこれ紬季が世話を焼いて、短期間でスランプは脱したのだが、それは、見下していた同級生達の伸びを目の当たりにして恐れおののいた結果なのかもしれない。
十二月になり、例年より早く箱根駅伝出走メンバーが発表された。
五区と六区は夏から決まっており、危なげない走りが期待できる。そして、花の二区には新垣が選ばれた。可愛がってきた後輩の躍進が海は素直に嬉しい。
海は十区。
三度走ったコースを最終年は逆走する。
毎年、全テレに全チームが依頼される作戦名を考えたのも、海だ。
今年はロケット作戦。
一区常連の海が昨年と同じくロケットスタートで他のチームを引き離し、そのままゴールを狙っていると思わせる作戦だ。
だが、実際は逆。
弟の空がきっと今年も十区を走るから、二人の烏堂を四年間育てた西城対白山の監督同士の勝負をしろと海が焚き付けたのだ。
そして、イツザイが九区だ。
最近特に紬季とぶつかっているのを知っていても、いつから襷をもらうことが海にはとても気持ちがいい。
自分も箱根駅伝に入れ込み過ぎてどこか壊れてしまったのかもしれない。
就活は完全に諦め、それどころか日本での就職に魅力を感じなくなった。
たぶん、大学を卒業したら中国の語学学校に行き、そこから職を探す。
紬季のことはどうしよう?
ついてきてくれなんて言っていいだろうか?
それとも、しばらく日本と中国で遠恋?
年末になり、赤星主催の元で決起会が開かれた。箱根駅伝のための決起会は海は初だ。
今年のチームの仕上がりがよく、相当、赤星に気合が入っている証拠だ。
十人が抱負を述べ、「僕もいいかな」と紬季が最後に言った。
「あの、僕、電車に乗れなくて遠方の試合とか応援に行けなかったけれど、どこかの区の応援に行くね」
大きな拍手が上がったのが、海は自分のことのように嬉しかった。
「マジで、俺の走区は勘弁」
とイツザイが言い、紬季がそれを無視したのは気になったけれど。
また絡まれたのだろうか。
それともバレた?
気を付けている紬季がボロを出すとも思えないし、あいつにカミングアウトは絶対に有り得ない。
じゃあ、海が紬季をマンションに送っていく姿をどこかで見られた?
夏合宿で相談するようになってから、マンション前まで送るだけという清らかな仲が復活したのだ。
それを見られた?
だからなんだってんだ。
キスどころか手だって握ってないのに?
いや、以前、イツザイは本能的な勘で性的指向が自分と違う相手を嫌悪しているって紬季が……。
部屋に戻ると、イツザイの姿は無かった。
箱根駅伝まではあと、四日。海が十区を走るまではあと五日ある。
やがて十月。
出雲駅伝は十日。
箱根の予選会はその十四日後。
やはり出雲は捨ててよかったのかもしれない。
例年、立川で行われる予選会には、今年は四十三校集まった。
一チームは十人から十二人。上位十人の合計タイムがすくない順に上位十校が本戦出場権を得る。
周りには五百名を超える選手がいたが海は緊張はしなかった。
他のメンバーも同じだったかもしれない。
集中しきると不安が沸いてこないのだ。
歓声対策もバッチリしてきたし、いいレースになりそうだなと思った。
紬季は住んでいる街から立川まで電車で遠いので家での応援だ。紬季は一、二年生らの精神的支えになっているようで、電車に乗れない理由を話しても、応援のこないことを残念がられた。
予選会のレースは、陸上自衛隊立川駐屯地をスタートし、立川駅前を通過。昭島を抜け、昭和記念公園がゴールとなる。
結果は六位。
海は個人成績二十位。そして、イツザイは二十九位とかなりの好成績を残せた。
これで、箱根駅伝に出場だ。
返り咲いて感激というより、前いた場所に戻ってきた感じがする。
箱根駅伝まであと二ヶ月を控えて、皆がグイグイ記録を縮めているときに急にスランプになったのがイツザイだ。
皆に効果が出ている栄養管理アプリを未だに使っていないし、こっそり酒は飲む。煙草だって吸う。夜更かしも好んでし、ジョグに遅刻してくることもある。周りに追いつけなくなってきて当然だ。
あれこれ紬季が世話を焼いて、短期間でスランプは脱したのだが、それは、見下していた同級生達の伸びを目の当たりにして恐れおののいた結果なのかもしれない。
十二月になり、例年より早く箱根駅伝出走メンバーが発表された。
五区と六区は夏から決まっており、危なげない走りが期待できる。そして、花の二区には新垣が選ばれた。可愛がってきた後輩の躍進が海は素直に嬉しい。
海は十区。
三度走ったコースを最終年は逆走する。
毎年、全テレに全チームが依頼される作戦名を考えたのも、海だ。
今年はロケット作戦。
一区常連の海が昨年と同じくロケットスタートで他のチームを引き離し、そのままゴールを狙っていると思わせる作戦だ。
だが、実際は逆。
弟の空がきっと今年も十区を走るから、二人の烏堂を四年間育てた西城対白山の監督同士の勝負をしろと海が焚き付けたのだ。
そして、イツザイが九区だ。
最近特に紬季とぶつかっているのを知っていても、いつから襷をもらうことが海にはとても気持ちがいい。
自分も箱根駅伝に入れ込み過ぎてどこか壊れてしまったのかもしれない。
就活は完全に諦め、それどころか日本での就職に魅力を感じなくなった。
たぶん、大学を卒業したら中国の語学学校に行き、そこから職を探す。
紬季のことはどうしよう?
ついてきてくれなんて言っていいだろうか?
それとも、しばらく日本と中国で遠恋?
年末になり、赤星主催の元で決起会が開かれた。箱根駅伝のための決起会は海は初だ。
今年のチームの仕上がりがよく、相当、赤星に気合が入っている証拠だ。
十人が抱負を述べ、「僕もいいかな」と紬季が最後に言った。
「あの、僕、電車に乗れなくて遠方の試合とか応援に行けなかったけれど、どこかの区の応援に行くね」
大きな拍手が上がったのが、海は自分のことのように嬉しかった。
「マジで、俺の走区は勘弁」
とイツザイが言い、紬季がそれを無視したのは気になったけれど。
また絡まれたのだろうか。
それともバレた?
気を付けている紬季がボロを出すとも思えないし、あいつにカミングアウトは絶対に有り得ない。
じゃあ、海が紬季をマンションに送っていく姿をどこかで見られた?
夏合宿で相談するようになってから、マンション前まで送るだけという清らかな仲が復活したのだ。
それを見られた?
だからなんだってんだ。
キスどころか手だって握ってないのに?
いや、以前、イツザイは本能的な勘で性的指向が自分と違う相手を嫌悪しているって紬季が……。
部屋に戻ると、イツザイの姿は無かった。
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