68 / 92
第四章
68:いいよ。会いに行こう
しおりを挟む
サミイが、手首に深い傷を負っているからだろうか。いいや、一心にアシュラフを愛するサミイを見て、やはり彼の傍にいさせてあげたいと思ったのだ。
ミオは、ブレスレットがいつまでも元の持ち主の手首にはめられないことにじれて、サミイの手を取って傷のある方の手首に無理に嵌めた。
「サミイ様。ジョシュア様がきっと何とかしてくれます。俺は、サライエでラクダ使いとして働いていました。『白』の俺には誰も触れようとしませんでした。けれど、ジョシュア様は、そんなこと気にすることなく、俺に接してくれました。素直になれない俺を、励ましたり褒めてくれたりしました。色んな喜ばせ方をジョシュア様は知っていて、だからきっと今みたいな状況も驚くような案を思いついてくれるはずです」
「……はい。ジョシュア様は、そういう方でしたね」
涙まじりだったが、ミオは初めてサミイが笑うところを見た。その笑顔に見惚れていると、駆けてくる足音を聞く。
「ミオさん。サミイ」
振り向くとジョシュアがいる。
「ジョシュア様。お食事は?」
「マデリーンが急に席を外してしまってね。どうやら、アシュラフを置いて離宮に戻ってしまったらしいんだ」
サミイが、口元を手で押さえ顔を青くする。今にも倒れてしまいそうだ。
「マデリーン様はきっと怒ってらっしゃるんです。私みたいなのがアシュラフ様の御傍にいるから」
「サミイ。マデリーンは人を嫌うような子ではないよ」
元恋人は優しくサミイの肩を叩く。
「ジョシュア様は、マデリーン様とお知り合いなのですか?」
ミオは、どうしてジョシュアが西班牙の第一王女の性格まで知っているのかと不思議に思って尋ねた。
「グレートマザー主催のダンスパーティーで、何度も僕達は会っているんだよ。夜通し若い男女が踊るんだけれど、僕もマデリーンも苦手で休憩室がメイン会場だったんだ。恋愛の話とか、本の話とかずっとそこでしていたね」
「ジョシュア様。是非、アシュラフ様とマデリーン様に橋渡しを」
サミイはジョシュアに詰め寄った。それは、大好きなアシュラフと離れることを意味するのに、サミイは必死だ。
「アシュラフ様は、マデリーン様に宛てて熱心に手紙を書いておりましたし、二週間前に王都に到着されたからは、差し上げた離宮に毎日足を運んでおりました。ただ一度も会っていただけないのです」
「いいよ。会いに行こう」とジョシュアが頷いた。
ミオは、ブレスレットがいつまでも元の持ち主の手首にはめられないことにじれて、サミイの手を取って傷のある方の手首に無理に嵌めた。
「サミイ様。ジョシュア様がきっと何とかしてくれます。俺は、サライエでラクダ使いとして働いていました。『白』の俺には誰も触れようとしませんでした。けれど、ジョシュア様は、そんなこと気にすることなく、俺に接してくれました。素直になれない俺を、励ましたり褒めてくれたりしました。色んな喜ばせ方をジョシュア様は知っていて、だからきっと今みたいな状況も驚くような案を思いついてくれるはずです」
「……はい。ジョシュア様は、そういう方でしたね」
涙まじりだったが、ミオは初めてサミイが笑うところを見た。その笑顔に見惚れていると、駆けてくる足音を聞く。
「ミオさん。サミイ」
振り向くとジョシュアがいる。
「ジョシュア様。お食事は?」
「マデリーンが急に席を外してしまってね。どうやら、アシュラフを置いて離宮に戻ってしまったらしいんだ」
サミイが、口元を手で押さえ顔を青くする。今にも倒れてしまいそうだ。
「マデリーン様はきっと怒ってらっしゃるんです。私みたいなのがアシュラフ様の御傍にいるから」
「サミイ。マデリーンは人を嫌うような子ではないよ」
元恋人は優しくサミイの肩を叩く。
「ジョシュア様は、マデリーン様とお知り合いなのですか?」
ミオは、どうしてジョシュアが西班牙の第一王女の性格まで知っているのかと不思議に思って尋ねた。
「グレートマザー主催のダンスパーティーで、何度も僕達は会っているんだよ。夜通し若い男女が踊るんだけれど、僕もマデリーンも苦手で休憩室がメイン会場だったんだ。恋愛の話とか、本の話とかずっとそこでしていたね」
「ジョシュア様。是非、アシュラフ様とマデリーン様に橋渡しを」
サミイはジョシュアに詰め寄った。それは、大好きなアシュラフと離れることを意味するのに、サミイは必死だ。
「アシュラフ様は、マデリーン様に宛てて熱心に手紙を書いておりましたし、二週間前に王都に到着されたからは、差し上げた離宮に毎日足を運んでおりました。ただ一度も会っていただけないのです」
「いいよ。会いに行こう」とジョシュアが頷いた。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
【R18】奴隷に堕ちた騎士
蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。
※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。
誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。
※無事に完結しました!
ハルくんは逃げ出したい。~全寮制男子校の姫になったら、過保護なストーカー護衛に溺愛されました~
夜薙 実寿
BL
〝男子校の姫〟……それは、男だらけのむさ苦しい学園生活に咲いた一輪の花として、周りに彩りと癒しを与えるアイドルのような存在。
オレ、日向 陽(ヒナタ ハル)がこの春入学した全寮制私立男子校は、その〝男子校の姫〟が役職として制度化されているらしい。
けどまぁ、大衆に埋もれる平凡モブ(自認)のオレには、そんな姫制度なんて一切関係ない……と思っていたのに、あれよあれよという間に女装させられて、気が付いたら姫選抜会のステージに立たされて……まさかの、オレが姫に!?
周りの期待を裏切れず(あと、諸々の特権に多少揺らいで)仕方なく姫職を請け負うことにはしたものの、オレに付けられた護衛人が、何というか過保護過ぎて……。
オレを深窓の令嬢か何かと勘違いしているのか、荷物は持たせてくれないし、授業中も背後に立ってるし、あまつさえ皆がオレを(性的な意味で)狙っているなどと思い込んでいる始末。
警戒のし過ぎで周囲を威圧、排除してしまい……ああもうっ! これじゃあ、友達も出来やしない!
~無自覚可愛い系姫♂と執着美人護衛による、年の差学園主従BL!~
━━━━━━━━━━━━━━━
ストックが切れるまでは毎日(18:10頃)更新。以降は書け次第の気まぐれ不定期更新となります。
※他サイトでも先行公開しております
上司に連れられていったオカマバー。唯一の可愛い子がよりにもよって性欲が強い
papporopueeee
BL
契約社員として働いている川崎 翠(かわさき あきら)。
派遣先の上司からミドリと呼ばれている彼は、ある日オカマバーへと連れていかれる。
そこで出会ったのは可憐な容姿を持つ少年ツキ。
無垢な少女然としたツキに惹かれるミドリであったが、
女性との性経験の無いままにツキに入れ込んでいいものか苦悩する。
一方、ツキは性欲の赴くままにアキラへとアプローチをかけるのだった。
ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話
かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。
「やっと見つけた。」
サクッと読める王道物語です。
(今のところBL未満)
よければぜひ!
【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる