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第四章

61:俺は、明日から王だ。それでも嫌か?

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 身体は、硬そうな筋肉で覆われている。首からは、鍵付きのネックレスを下げていた。
 ミオは、ブランケットに潜り込んで、巣穴の中にいる砂漠キツネのように丸まった。
「ア、アシュラフ様。俺、したことがありません。なのに、旅行社の店主に自慰を見せろと言われ何回も披露しています。そんな、俺を抱いたって……」
 必死になって弁明するミオの隣りに、アシュラフが身体を滑り込ませてきた。
「勘違いするな。俺は、いつも寝るとき、裸なんだよ。にしても、勤め先でそんなことを強制されていたのか?大変だったんだな、お前も」
 しんみりと言われ、チラっとアシュラフを伺った。アシュラフは、肘枕をしミオを見ていた。
「涙は?引っ込んだか?」
「は、はい」
 ブランケットを少し捲られ、はだけた背中を触られた。
「香油を塗られたのか?しっとりしているし、いい匂いがするな」
「あ、う……。あの……」
 ぎゅっと両目を瞑る。少し触っただけで、それ以上のことをアシュラフはしてこなかった。
 代わりに話が始まった。
「びっくりさせてしまったな。俺が、今夜は一緒に休ませると言ったら、召使いたちが勘違いしたようだ。俺は、お前がジョシュアから引き離されて、今夜ビービー泣くかと思ってそう言ったまでだったんだがな」
「別に、アシュラフ様の前では、泣きません」
「ふん。そうか?十年前のサミイみたいなことになったら困るから、念には念を入れてだ。夜中にあの窓から飛び降りるのもなしだぞ。約束しないなら、こうやってきつく抱きしめて眠……何、持ってるんだ?」
 アシュラフが、本を抱えているミオに気づいた。
「ジョシュア様の本です」
「ふうん。返しておこうか?」
「いいです。次にお会いしたとき、俺から返します」
「次といっても、明後日にはここを立たせる」
「そんな早く……」
「泣くな。俺は、ジョジュアと似ているだろう。口づけぐらいなら、マデリーンに内緒でしてやってもいい」
「明日、妻を迎える方が言うセリフとは思えません」
 ジョシュアだったら、絶対にそんこと言わない。
「マ、マデリーン様に、お会いになれたんですか」
 怯えながら皮肉を放つと、ふうっとため息が首筋にかかる。
「明日、初めて顔を見ることになる」
「え?あの方が王都にやってきてもう二週間近いのでは?」
「そういう関係なんだ、俺たちは」
「最初から冷え切った関係なら、どうしてサミイ様を手放したりしたんです?アシュラフ様は、全身でサミイ様を気にされています。俺を慈しんでくれるジョシュア様と同じだから分かります」
「この状況で言うねえ、お前も」
と言ったアシュラフは、首筋に鼻を埋めてきた。
「ああ、いい匂いだ」
「ひっ……」
「何だその悲鳴は?俺は、明日から王だ。それでも嫌か?」
「……」
「沈黙か。なかなか賢いな。だったら、都合のいいように解釈しよう」
 声色から、本気ではなさそうだった。ミオをからかいながら、慰めているだけのようだ。
「……さっき、俺が泣くかもしれないから、傍にいるだけだとおっしゃったじゃないですか」
「ジョシュアがいいか?」
「……。……っ」
 答えるだけ無駄だと、無言を貫こうとしたら首筋を噛まれた。
「もう一度聞く。ジョシュアがいいか?」
「……はい」
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