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第四章

53:最高に美しい『白』

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 眠りから覚めると、天蓋がついた寝台に寝かされていた。薄い布が何枚もたらされて幕を作っていた。
 まるで、王様のような寝台だ。
 身体がじっとりと熱い。
 何度か、汗ばむ身体を冷たいタオルで拭われた記憶がある。
 うめき声を上げた時、誰かが手を握ってくれた。ジョシュアかと尋ねると「違います」と小さな声で言われた。
 そうだ。
 黒髪を長く伸ばした浅黒い肌の青年だ。
 目は、黄金をはめ込んだように金色に淡く光っていて、女性と見まごうほど華奢で美しかった。彼の額にはミオと同じ奴隷印があった。
 折れそうなぐらい細い腰をしていて、よく手入れされた髪の毛は絹糸みたいに艶があった。きっと、歓楽都市ソアレの女性も敵わない。
 手首には大きな宝石がついたブレスレットが何個も嵌められていた。
 青年は、たしかこう言った。
『ミオ様。私はサミイと申します。傍に降りますので、苦しいときはいつでも御呼び下さい』
「……サミイ様。熱を上げ過ぎて、美しいニンフ(精霊)の幻でも見てしまったのかな?」
 ぼそっと呟くと、さっと薄い布がかき分けられた。
「お目覚めですか?」
 顔を出したのは、夢の中の住人だと思っていた黄金の瞳を持つ美しい青年だ。
 この青年は、ミオと同じ『白』なのだろう。
 しかも、最高に美しい『白』。
 サミイは、汗で張り付いたミオの前髪を掻き分け、額に手を当てて体温を確かめる。
「大分、容体が落ち着かれたようですね。冷たい水をご用意します。少しお待ちください」
 ミオの額から手を離したサミイは、部屋の隅でギッと鳴った音に素早く振り返った。そして、そそくさと幕を捲って出て行った。
 やがて、嗅いだことのないような淫靡で上等な香りが部屋に漂い始めた。
「今日は一日中、お忙しいのでは?」
「もう俺がその場にいなくてもなんとかなる」
 サミイが、幕の外で話している。
 香りは、この人物が連れてきたようだ。
 ミオは、自分が置かれた状況を思い出していた。
 イリアの街までジョシュアを追いかけて行って、輿に飛び乗った後、引き離された。とすれば、ここは王都に向かう途中に寄せてもらうという大富豪の館だろうか?
 なら、奴隷印を額に持つ『白』のサミイが、手首に美しい宝石のついたブレスレットを嵌めているのもわかる。大富豪に愛でられる存在なのだろう。
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