上 下
45 / 92
第三章

45:支えます。お嫌でなければ

しおりを挟む
「その可能性が高いのではないか、と言ったまでだ。阿刺伯国の北西部には、こんな古い言い伝えがある。砂漠キツネの巣穴を掘れば、黒い水が湧き出るから絶対に巣穴に悪さをするなと。だが、真実はこうだ。砂漠キツネは黒い水の匂いが平気で、他の動物が嫌って近寄らない場所に巣を作って生き延びる。お前の主人は、どこかでその話を聞いて国籍を偽って黒い水の調査に乗り出した。それに、気づいた王宮の兵士が連れ去った」
「もしかして、もう殺されて……」
 ミオは両手で顔を覆った。
「いや、兵士たちは王を相手にするように丁寧だった。手は縛られていたが、傷つけられてはいない。乗っていたラクダごと連れていかれた。王宮の兵士に囲まれたとき、お前の主人はお前のことをとても心配し、宿を引き上げサライエで待っていてくれという伝言を私に。あと、絶対に探し回らないでくれと」
「俺、助けに行きます。ジョシュア様が捕まったのはきっと誤解です。その誤解を解きにいきます」
 タンガは、にやりと笑った。
「『白』よ。そう言うと思ったぞ。あの欧羅巴人も、愛されたものだな」
 そして、脇腹を押え苦し気に言う。
「数時間、離れただけで街の入り口で主人を待つお前のことだ。絶対に後を追いたがるだろうと思って、捕まった主人の後をこっそりつけた。兵士たちに見つかり、矢傷を負ってこのザマだが。剣では負けぬが、数百人に一斉に矢を放たれてはな」
「ジョシュア様は今どこに?」
「交換条件といこう。私は、お前の主人の居場所を確かめたわけではない」
「お金ですか?お金なら結構あります。ジョシュア様がカードゲームで稼いで、俺に分け前をくださったので……」
「阿呆。その程度のものはいらぬ。私が欲しいのは、多くの人間に行き渡る富だ。お前、可愛い顔でお願いできるか?」
 ミオは一瞬、目を瞬かせた。
「……お願いします。タンガ様」
「重ね重ね阿呆だな、お前は。私にしてどうする。主人にするのだ、そう言う顔を」
 タンガは、サイティから金属の棒を取り出す。
「お前の主人が、捕まった際に落としていったものだ。これが、何であるかテーベの街の欧羅巴人に片っ端から聞いてみた。これは、地下の資源を調査する工具だそうだ。欧羅巴では、黒い水を採掘するために『ギシ』という者が使うのだという。彼は貴重な技術を持っているがゆえに殺されなかったとすれば、黒い水の採掘が近々はじまるのかもしれない。だから、無事会えたら耳元で囁け。黒い水の採掘には黒の部族よりも青の部族が役に立つと。砂漠キツネを探しに向かっている最中でも、ミオサンガー、ミオサンガーとうるさいあの男のことだ。可愛くねだれば、願い事の一つも叶えてくれるだろう」
 タンガは、金属の棒をミオに渡すと、地図を広げさせた。
「オアシス都市テンガロを知っているか?この街から、小さなオアシスを幾つか経由して行く」
「行ったことはありませんが、大丈夫だと思います」
「お前の主人の顔を見たのは、ここが最後だ。少し時間が経ってしまったからテンガロを離れてしまったかもしれないが、最終的な行き先は決まっている」
「どこですか?」
 タンガが指さしたのは阿刺伯国の北西、もう隣国にほど近い場所、王都だった。
「お前の主人は、なぜか『白の人』の一団と合流した」
「サライエで輿に乗り込むところを見ました。波止場はすごい人で」
「テンガロでもそうだった。輿に幕が下がっていて顔は見えなかったが。輿はテンガロの大富豪の屋敷へ入っていった。お前の主人もその中に。次の街に移動していたとしても、宿泊場所は似たようなところだろう。……っう」
 タンガは盛大に顔をしかめた。
「傷口が本格的に痛み出した。私は村に帰るとする。宿はいつ王宮の兵士がやってくるかわからないから、なるべく早く引き払らっ……」
 痛みが酷くなってきたのか、タンガはよろめいた。
「支えます。お嫌でなければ」
 腕を背中に回させる。
「宿の前にいるラクダのところまででいい。これしきの傷で、青の部族が人の肩を借りたなど笑われてしまう」
 タンガは去勢を張るが、一歩足を進めるだけでかなり痛むようで、喉の奥で唸り声を上る。
 ミオは、タンガをなんとかラクダの背中に乗せた。
「タンガ様。貴重な情報をありがとうございました。早く矢傷が治りますように」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

きみをください

すずかけあおい
BL
定食屋の店員の啓真はある日、常連のイケメン会社員に「きみをください」と注文されます。 『優しく執着』で書いてみようと思って書いた話です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

水色と恋

和栗
BL
男子高校生の恋のお話。 登場人物は「水出透吾(みずいで とうご)」「成瀬真喜雄(なるせ まきお)」と読みます。 本編は全9話です。そのあとは1話完結の短編をつらつらと載せていきます。 ※印は性描写ありです。基本的にぬるいです。 ☆スポーツに詳しくないので大会時期とかよく分かってません。激しいツッコミや時系列のご指摘は何卒ご遠慮いただきますようお願いいたします。 こちらは愉快な仲間たちの話です。 群青色の約束 #アルファポリス https://www.alphapolis.co.jp/novel/389502078/435292725

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

処理中です...