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第三章

45:支えます。お嫌でなければ

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「その可能性が高いのではないか、と言ったまでだ。阿刺伯国の北西部には、こんな古い言い伝えがある。砂漠キツネの巣穴を掘れば、黒い水が湧き出るから絶対に巣穴に悪さをするなと。だが、真実はこうだ。砂漠キツネは黒い水の匂いが平気で、他の動物が嫌って近寄らない場所に巣を作って生き延びる。お前の主人は、どこかでその話を聞いて国籍を偽って黒い水の調査に乗り出した。それに、気づいた王宮の兵士が連れ去った」
「もしかして、もう殺されて……」
 ミオは両手で顔を覆った。
「いや、兵士たちは王を相手にするように丁寧だった。手は縛られていたが、傷つけられてはいない。乗っていたラクダごと連れていかれた。王宮の兵士に囲まれたとき、お前の主人はお前のことをとても心配し、宿を引き上げサライエで待っていてくれという伝言を私に。あと、絶対に探し回らないでくれと」
「俺、助けに行きます。ジョシュア様が捕まったのはきっと誤解です。その誤解を解きにいきます」
 タンガは、にやりと笑った。
「『白』よ。そう言うと思ったぞ。あの欧羅巴人も、愛されたものだな」
 そして、脇腹を押え苦し気に言う。
「数時間、離れただけで街の入り口で主人を待つお前のことだ。絶対に後を追いたがるだろうと思って、捕まった主人の後をこっそりつけた。兵士たちに見つかり、矢傷を負ってこのザマだが。剣では負けぬが、数百人に一斉に矢を放たれてはな」
「ジョシュア様は今どこに?」
「交換条件といこう。私は、お前の主人の居場所を確かめたわけではない」
「お金ですか?お金なら結構あります。ジョシュア様がカードゲームで稼いで、俺に分け前をくださったので……」
「阿呆。その程度のものはいらぬ。私が欲しいのは、多くの人間に行き渡る富だ。お前、可愛い顔でお願いできるか?」
 ミオは一瞬、目を瞬かせた。
「……お願いします。タンガ様」
「重ね重ね阿呆だな、お前は。私にしてどうする。主人にするのだ、そう言う顔を」
 タンガは、サイティから金属の棒を取り出す。
「お前の主人が、捕まった際に落としていったものだ。これが、何であるかテーベの街の欧羅巴人に片っ端から聞いてみた。これは、地下の資源を調査する工具だそうだ。欧羅巴では、黒い水を採掘するために『ギシ』という者が使うのだという。彼は貴重な技術を持っているがゆえに殺されなかったとすれば、黒い水の採掘が近々はじまるのかもしれない。だから、無事会えたら耳元で囁け。黒い水の採掘には黒の部族よりも青の部族が役に立つと。砂漠キツネを探しに向かっている最中でも、ミオサンガー、ミオサンガーとうるさいあの男のことだ。可愛くねだれば、願い事の一つも叶えてくれるだろう」
 タンガは、金属の棒をミオに渡すと、地図を広げさせた。
「オアシス都市テンガロを知っているか?この街から、小さなオアシスを幾つか経由して行く」
「行ったことはありませんが、大丈夫だと思います」
「お前の主人の顔を見たのは、ここが最後だ。少し時間が経ってしまったからテンガロを離れてしまったかもしれないが、最終的な行き先は決まっている」
「どこですか?」
 タンガが指さしたのは阿刺伯国の北西、もう隣国にほど近い場所、王都だった。
「お前の主人は、なぜか『白の人』の一団と合流した」
「サライエで輿に乗り込むところを見ました。波止場はすごい人で」
「テンガロでもそうだった。輿に幕が下がっていて顔は見えなかったが。輿はテンガロの大富豪の屋敷へ入っていった。お前の主人もその中に。次の街に移動していたとしても、宿泊場所は似たようなところだろう。……っう」
 タンガは盛大に顔をしかめた。
「傷口が本格的に痛み出した。私は村に帰るとする。宿はいつ王宮の兵士がやってくるかわからないから、なるべく早く引き払らっ……」
 痛みが酷くなってきたのか、タンガはよろめいた。
「支えます。お嫌でなければ」
 腕を背中に回させる。
「宿の前にいるラクダのところまででいい。これしきの傷で、青の部族が人の肩を借りたなど笑われてしまう」
 タンガは去勢を張るが、一歩足を進めるだけでかなり痛むようで、喉の奥で唸り声を上る。
 ミオは、タンガをなんとかラクダの背中に乗せた。
「タンガ様。貴重な情報をありがとうございました。早く矢傷が治りますように」
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