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第三章
41:これは、罰ですか?
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取りつく島もなく、ジョシュアは部屋を出ていっていまう。
いいようにやりこめられた気がした。
悔しいのだけれど、なんだかくすぐったい気持ちもあった。
言われた通り、食事をし、寝台に横たわった。
さすがにもう眠れなくて、何度も寝返りを打つ。
一人は寂しく、せめてジョシュアの使ったものを触りたいと、彼の枕に手を伸ばすと、その下に硬い感触があった。
探ると、出てきたのは革張りの本だ。
宿屋の軒先や、海にも持って来ていた本だった。
きっと異国の言葉が描かれているだろうし、読めやしないだろうと思いつつ、ジョシュアの持ち物だと思うと興味が湧いて、表紙をめくる。
数ページめくって、目が、挿絵に釘づけになる。
「何て本を読んでらっしゃるんですか……」
ミオは絶句した。
ミオのいる星空旅行社は宿屋も兼ねていて、旅人が本を忘れていったり寄附していったりするのだが、その中に同じような本があってウィマやフィティがゲラゲラ笑いながら挿絵を見ていた。
字が読めなくても、挿絵を見ているだけでなんとなく話の筋がわかるのだ。
この本は、貧乏な少女が実はお姫様で、城に連れて行かれてレッスンを受けるうちに美女として磨かれて、あまりの美しさにたくさんの王子から求婚されるという話のようだ。
ロマンス小説というものらしい。阿刺伯国ではまずお目にかかれないが、欧羅巴ではたくさん出回っていると聞く。
最後は、寝台で男女が身体を重ねる享楽的なシーンで終わっていた。
「爽やかな見た目からは想像がつきませんでした。こういう欲求がおありなんですね。そうですよね。ジョシュア様は健全な男性ですもの」
ミオは考え込む。
きっと昔愛した人とも、こういう行為を何度も、何度もしたことだろう。
なのに、俺は……。
夜が更けてきた。
今夜もまた、ジョシュアはなかなか帰ってこない。
ミオは怒られるのを承知で、街の入り口まで出かける。
「君は、本当にもう」
オアシスから戻ってきたジョシュアが、街の入り口で待つミオを見て、北斗星号から飛び降りる。
今日もすぐに砂漠キツネを見ることができ、もう一か所オアシスを回ってきたので、遅くなってしまったらしい。
やはり、昨晩と同じで、なんとなくジョジュアの表情が浮かない。
「この少年は、もう従者の域を超えているな」と青いサイティを着た案内人が呟き、二人を置いて去って行く。
ミオは、ジョシュアにきつく抱きしめられた。
「部屋で待っていろと言ったよね?」
と熱の籠った声で言われ、表情が浮かない理由を聞くタイミングをまた失った。
「お帰りが、待ちきれなかったんです。あの、その……体調は……良くなりましたから」
ジョシュアは、ミオの顔を覗きこみ、口元に笑みを浮かべる。
いつもは饒舌なのに、今に限っては何も言ってくれない。
北斗星号を宿の厩舎に預けると、ジョシュアは先に部屋に戻るように言った。
落ち着かない思いで、ミオは一人部屋の中をうろうろする。
中庭で水を浴びたジョシュアが部屋に戻ってきて、トランクの中から、ドロップの缶を取り出すように言った。
「好きな味を選んでいいよ」
紫色のドロップを選んで、手のひらの上に置いた。
「これは、罰ですか?俺が言いつけを守らず部屋を出たから」
「いいや。可愛く僕を煽った仕返し、かな?」
ドロップを口に含まされたと同時に口づけが始まった。
最初、様子を伺うかのような控えめな口づけだったが、やがて熱を帯び始めた。
緩んだ口の端から甘い唾液が流れていく。
薄く目を開くと、ジョシュアがじっとミオを見ている。
「ん……っん……ああっ」
感じている顔を見られていたことに強烈な羞恥が生まれ、鼻から息が漏れる。
ドロップがどんどん溶けていき形が無くなったころ、互いの息はすっかり甘くなっていた。膝から力が抜け、床に座り込みそうになる。
いいようにやりこめられた気がした。
悔しいのだけれど、なんだかくすぐったい気持ちもあった。
言われた通り、食事をし、寝台に横たわった。
さすがにもう眠れなくて、何度も寝返りを打つ。
一人は寂しく、せめてジョシュアの使ったものを触りたいと、彼の枕に手を伸ばすと、その下に硬い感触があった。
探ると、出てきたのは革張りの本だ。
宿屋の軒先や、海にも持って来ていた本だった。
きっと異国の言葉が描かれているだろうし、読めやしないだろうと思いつつ、ジョシュアの持ち物だと思うと興味が湧いて、表紙をめくる。
数ページめくって、目が、挿絵に釘づけになる。
「何て本を読んでらっしゃるんですか……」
ミオは絶句した。
ミオのいる星空旅行社は宿屋も兼ねていて、旅人が本を忘れていったり寄附していったりするのだが、その中に同じような本があってウィマやフィティがゲラゲラ笑いながら挿絵を見ていた。
字が読めなくても、挿絵を見ているだけでなんとなく話の筋がわかるのだ。
この本は、貧乏な少女が実はお姫様で、城に連れて行かれてレッスンを受けるうちに美女として磨かれて、あまりの美しさにたくさんの王子から求婚されるという話のようだ。
ロマンス小説というものらしい。阿刺伯国ではまずお目にかかれないが、欧羅巴ではたくさん出回っていると聞く。
最後は、寝台で男女が身体を重ねる享楽的なシーンで終わっていた。
「爽やかな見た目からは想像がつきませんでした。こういう欲求がおありなんですね。そうですよね。ジョシュア様は健全な男性ですもの」
ミオは考え込む。
きっと昔愛した人とも、こういう行為を何度も、何度もしたことだろう。
なのに、俺は……。
夜が更けてきた。
今夜もまた、ジョシュアはなかなか帰ってこない。
ミオは怒られるのを承知で、街の入り口まで出かける。
「君は、本当にもう」
オアシスから戻ってきたジョシュアが、街の入り口で待つミオを見て、北斗星号から飛び降りる。
今日もすぐに砂漠キツネを見ることができ、もう一か所オアシスを回ってきたので、遅くなってしまったらしい。
やはり、昨晩と同じで、なんとなくジョジュアの表情が浮かない。
「この少年は、もう従者の域を超えているな」と青いサイティを着た案内人が呟き、二人を置いて去って行く。
ミオは、ジョシュアにきつく抱きしめられた。
「部屋で待っていろと言ったよね?」
と熱の籠った声で言われ、表情が浮かない理由を聞くタイミングをまた失った。
「お帰りが、待ちきれなかったんです。あの、その……体調は……良くなりましたから」
ジョシュアは、ミオの顔を覗きこみ、口元に笑みを浮かべる。
いつもは饒舌なのに、今に限っては何も言ってくれない。
北斗星号を宿の厩舎に預けると、ジョシュアは先に部屋に戻るように言った。
落ち着かない思いで、ミオは一人部屋の中をうろうろする。
中庭で水を浴びたジョシュアが部屋に戻ってきて、トランクの中から、ドロップの缶を取り出すように言った。
「好きな味を選んでいいよ」
紫色のドロップを選んで、手のひらの上に置いた。
「これは、罰ですか?俺が言いつけを守らず部屋を出たから」
「いいや。可愛く僕を煽った仕返し、かな?」
ドロップを口に含まされたと同時に口づけが始まった。
最初、様子を伺うかのような控えめな口づけだったが、やがて熱を帯び始めた。
緩んだ口の端から甘い唾液が流れていく。
薄く目を開くと、ジョシュアがじっとミオを見ている。
「ん……っん……ああっ」
感じている顔を見られていたことに強烈な羞恥が生まれ、鼻から息が漏れる。
ドロップがどんどん溶けていき形が無くなったころ、互いの息はすっかり甘くなっていた。膝から力が抜け、床に座り込みそうになる。
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