34 / 64
第四章
34:もう、レオさんの顔、直視できない
しおりを挟む
レオナルドが寝室から居なくなると、自分の心臓がはちきれんばかりに動いているのに気づいた。
アンジェロは逃げ場を探して、寝台の上を後退する。
床に降り立つと、足に力が入らない。まるで、自分の体じゃないみたいだ。
廊下に出ると、玄関でマルリシオに対応するレオナルドの後ろ姿が見えた。玄関扉にもたれて立っている。マルリシオは油紙の袋をレオナルドの顔の前でブラブラさせていた。
「余ったら返せと言っただろう? お蔭でこっちが足を運ぶはめになった」
「悪い」
「どうした? 普段なら言い返してるお前が。悪い物でも食ったのか?」
マルリシオが油紙の袋の中身を覗き込んで、それを逆さにした。手のひらに白い包みが三包乗せられた。
アンジェロは、マウリシオが手のひらに乗せた白い包みを横目で見ながら、自分の寝室の扉を音を立てないようにそっと開ける。
「十包渡したのに、残りはこれだけか。アンジェロはくせにはならなかったか」
急に自分の名前が出てきて、二人がいる方を見る。
どういう意味だ。くせにはならなかったかって?
まるで、オレがあの薬を飲んだみたいなことをマルリシオは言っている。
レオナルドが頭をかきながら言う。
「熱と痛みが酷い時に飲ませたらすぐ大人しくなった。夢を見て大変だったようだが」
「幻覚を見るほど強いと先に言っただろう」
一体何を言っているんだ、レオさん。オレはそんなの飲んだ覚えはないよ。
飲まされたとするなら、旅の疲労と、手の怪我のせいで記憶が曖昧な最初の三日。
あの時は、ずっと、不埒な夢を見ていて。
『―――夢』
ロレンツォの冷たい唇が印象的な夢。もしあれが半分夢で、半分現実だとしたら……。
めまいが襲ってきて、寝室の扉によりかかると、ギイッと扉が軋む。
玄関先にいた二人がその音に振り向いた。
レオナルドと視線が絡み合って、アンジェロは急いで寝室に飛び込んだ。
「アンジェロッ!挨拶もできないのか。」
ブツブツとマルリシオの小言が聞こえてきたが、やがて静かになった。帰ってしまったらしい。
きっとレオナルドは、この部屋にやってくる。
部屋の中で、自分の尻尾を追いかける犬のようにぐるぐると同じ場所を何度も回っていると、扉の前で声がした。
「アンジェロ。入るぞ」
アンジェロは開けられようとしている寝室の扉に飛びついた。しかし、一瞬遅く、レオナルドと鉢合わせする。後ずさりをしようとして足がもつれ、仰向けに転ぶ。
「お前、誤解しているだろ」
レオナルドはしゃがんでアンジェロを助け起こそうとする。
唇に目がいった。
オレ、この唇と……。
体が燃え上がるように熱くなり、自力で立ち上がると、その脇を駆け抜けた。
「おいっ?!」
焦った声が追いかけてくるが、アンジェロは止まらない。玄関を出かけて自分が上半身裸であることに気付く。
堪らなく無防備な気分になって、家の中を見渡した。
右に行けば、レオナルドの寝室。逆側は、居間と炊事場。そこに隠れる場所はない。
さらに首を捻ると、作業部屋の扉が目に入った。そこに駆け込む。
テーブルの上には、粘土が取り払われたハリボテの馬が置かれてあった。丸裸にされた自分を見ている気分になる。
『もう、レオさんの顔、直視できない』
扉を背中で抑えるように座って、アンジェロは膝を抱えた。
『レオさんと何回したんだ? ええっと、薬が十包あって、残りが三包だから……』
口づけの回数を知って、気絶しそうになる。
いや、あれは口づけじゃない。薬を飲ませようとしてくれただけで……。
否定に否定を重ねるほど、体がさらに熱くなる。
アンジェロは、レオナルドを責め始める。
レオさん、一言言ってくれたらいいじゃないか!
熱で苦しんでいたから、薬を口移しで飲ませてやったぞって。
さらっと何気なく!!
アンジェロは逃げ場を探して、寝台の上を後退する。
床に降り立つと、足に力が入らない。まるで、自分の体じゃないみたいだ。
廊下に出ると、玄関でマルリシオに対応するレオナルドの後ろ姿が見えた。玄関扉にもたれて立っている。マルリシオは油紙の袋をレオナルドの顔の前でブラブラさせていた。
「余ったら返せと言っただろう? お蔭でこっちが足を運ぶはめになった」
「悪い」
「どうした? 普段なら言い返してるお前が。悪い物でも食ったのか?」
マルリシオが油紙の袋の中身を覗き込んで、それを逆さにした。手のひらに白い包みが三包乗せられた。
アンジェロは、マウリシオが手のひらに乗せた白い包みを横目で見ながら、自分の寝室の扉を音を立てないようにそっと開ける。
「十包渡したのに、残りはこれだけか。アンジェロはくせにはならなかったか」
急に自分の名前が出てきて、二人がいる方を見る。
どういう意味だ。くせにはならなかったかって?
まるで、オレがあの薬を飲んだみたいなことをマルリシオは言っている。
レオナルドが頭をかきながら言う。
「熱と痛みが酷い時に飲ませたらすぐ大人しくなった。夢を見て大変だったようだが」
「幻覚を見るほど強いと先に言っただろう」
一体何を言っているんだ、レオさん。オレはそんなの飲んだ覚えはないよ。
飲まされたとするなら、旅の疲労と、手の怪我のせいで記憶が曖昧な最初の三日。
あの時は、ずっと、不埒な夢を見ていて。
『―――夢』
ロレンツォの冷たい唇が印象的な夢。もしあれが半分夢で、半分現実だとしたら……。
めまいが襲ってきて、寝室の扉によりかかると、ギイッと扉が軋む。
玄関先にいた二人がその音に振り向いた。
レオナルドと視線が絡み合って、アンジェロは急いで寝室に飛び込んだ。
「アンジェロッ!挨拶もできないのか。」
ブツブツとマルリシオの小言が聞こえてきたが、やがて静かになった。帰ってしまったらしい。
きっとレオナルドは、この部屋にやってくる。
部屋の中で、自分の尻尾を追いかける犬のようにぐるぐると同じ場所を何度も回っていると、扉の前で声がした。
「アンジェロ。入るぞ」
アンジェロは開けられようとしている寝室の扉に飛びついた。しかし、一瞬遅く、レオナルドと鉢合わせする。後ずさりをしようとして足がもつれ、仰向けに転ぶ。
「お前、誤解しているだろ」
レオナルドはしゃがんでアンジェロを助け起こそうとする。
唇に目がいった。
オレ、この唇と……。
体が燃え上がるように熱くなり、自力で立ち上がると、その脇を駆け抜けた。
「おいっ?!」
焦った声が追いかけてくるが、アンジェロは止まらない。玄関を出かけて自分が上半身裸であることに気付く。
堪らなく無防備な気分になって、家の中を見渡した。
右に行けば、レオナルドの寝室。逆側は、居間と炊事場。そこに隠れる場所はない。
さらに首を捻ると、作業部屋の扉が目に入った。そこに駆け込む。
テーブルの上には、粘土が取り払われたハリボテの馬が置かれてあった。丸裸にされた自分を見ている気分になる。
『もう、レオさんの顔、直視できない』
扉を背中で抑えるように座って、アンジェロは膝を抱えた。
『レオさんと何回したんだ? ええっと、薬が十包あって、残りが三包だから……』
口づけの回数を知って、気絶しそうになる。
いや、あれは口づけじゃない。薬を飲ませようとしてくれただけで……。
否定に否定を重ねるほど、体がさらに熱くなる。
アンジェロは、レオナルドを責め始める。
レオさん、一言言ってくれたらいいじゃないか!
熱で苦しんでいたから、薬を口移しで飲ませてやったぞって。
さらっと何気なく!!
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる