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第十章 バロン

230:なぜ、沈黙する?お前は私の手足となって働く王立警ら隊の副隊長ラリーではないのか?

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エドワードが話し始めた。
『首相。お前のドメイン愛、しかと聞かせてもらった』
「何故だ。ドメインチェックは、何度も行った。それなのに」
『不思議か?それは、十二才でテロに遭い一年近く臥せって、久しぶり会った母親がドメインになっていたかのような感覚と似ているだろうか?』
「エドワード王太子殿下っ。私を沼の底に完全に静めたいのだろうが、自分も同時に沈むようなことを言うつもりか?」
会見場は、再びざわつき始める。
女性インタビューアーがキンキンとした声を張り上げた。
『殿下?今の発言はどういう意味なんでしょうか?母親がドメインとは?それでは、アン女王は??』
「一から順に話すから少し待て」
エドワードは、カメラを、直視した。
お得意の野生のグリズリー顔だ。
『ラリー。王宮に押しよせていたオールドドメインは、議会に移動中だ。それ以外にも各所から、集まりつつある。人間の姿も多数確認されている。おそらく暴徒化して、議会の中になだれ込む。裏切り者をそこに置いて、三体のドメインとともに早急に脱出しろ』
「……」
『返事は?』
「……」
『なぜ、沈黙する?お前は私の手足となって働く王立警ら隊の副隊長ラリーではないのか?』
「―――はい」
『いい子だ』という返事が帰って来て、ラリーはすぐさまタブレットを胸ポケットに入れ、 
ケビンを持ち上げ、部屋の外に連れていく。 
「部屋に入れろ。暴徒に殺されてしまうっ」
「あんたが、裏切ったんだ。なだめるか、逃げ切るか、撲殺されるか自分で決めろ」
ラリーは銃口でケビンの顔を思いっきり殴り、腹を蹴り上げ、扉を閉める。
犬死した人間の自分は、到底溜飲は下がらないだろうが、オールドドメインとしての自分は、ほんの少し前に進めたような気がした。
ケビンが「ここを開けろ」とバンバン扉を叩く。
ラリーはその声も無視し、鍵をかけ、シーツやカーテンを引き裂いて頑丈なロープを作った。
「ンンッ」
ベリルが目覚めつつあるようで、寝ぼけた声を上げる。
ロープを作り終えたラリーは、乱暴に二体を叩き起こす。
彼らが眠ってからの経緯を説明し、暴徒がやってくると説明する。
「どうするの?」
一番先にアンプルを打たれたルシウスがやはり意識がはっきりするのが早い。
「バルコニーから一階へ脱出する」
「ここ、四階だよね?」
「もし、落ちても雪が受け止めてくれる」
「他に脱出方法ないの?もっと格好いいやつ」
扉の外では『アアアッ、アアアッ。来ないでくれ』というケビンの悲鳴が聞こえる。
「いこう、ラリー」
一瞬、顔を歪ませたルシウスは、バルコニーへと向かって歩いて行く。
ラリーはまだ目覚めきらないベリルを立たせ、バルコニーに連れて行った。
「彼に、君の約束は手紙を書くことだった伝えた」
「あいつ、何て」
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