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第ニ章 ベリル
40:日に日にって、会って数時間だぞ?
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街灯がポツポツと通りに灯っていた。
正面には、黒い鉄柵の門とその奥に石作りの古い館がある。窓の数からして、五十部屋はありそうだが、ほとんどの部屋に明かりは灯っておらず、全体的に暗い雰囲気だった。
「すごい大きさだ」
「元々は、両親の持ち物だよ。鉱山所有の爵位持ちだったから。クラッシックシティー郊外にカントリーハウスもあるけれど、中心部に行くまで時間がかかるし、広すぎて使い勝手が悪くってね。ほぼ、こっちで暮らしている」
口を開けて見ていると、アーサーが説明しながら、館に入っていく。
人感センサーが反応して、玄関に淡い光が付いた。
広い円形の玄関に飾られている兵士や女性の姿をかたどった彫刻。歴代の当主とその妻なのか、男女の肖像画も数十枚飾られてる。
でも、全然、人気は感じられない。
アーサーは、辺りを見回しているベリルを置いて、廊下を歩いて行ってしまう。
「この館、アーサー以外に誰もいないの?」
ベリルの声が、玄関ホールに響いた。
なんだか、物悲しい気分になってくる。
「十五年前から僕一人だ。両親は、テロで死んでしまったから」
アーサーについていきかけたベリルは、立ち止まる。
「ごめん」
「どうして、君が謝るの?」
アーサーも立ち止った
「なんか、触れちゃいけないような、雰囲気」
「雰囲気……か。日に日に賢くなるね」
「日に日にって、会って数時間だぞ?」
すると、アーサーの青い瞳が揺れた。
「そうだね」と呟いて、また歩き始める。
ダニエルから、ラボでの様子の報告を受けていた、という意味なのかなと思いながら、ベリルは部屋を覗き込む。それにしては、悲しそうな反応だった。「初めまして」とダニエルのラボで挨拶を交わしたときとそれは似ていた。
アーサーが、廊下の真ん中ほどにある部屋の扉を開けた。
「ここが、君の部屋。寝間着もタオルも全部、揃っているから、足りない物はないと思う」
今後どうしたらいいのか聞いてもきちんとした返答がなかったから、今夜寝る場所すらないと思っていたのに。
ベリルは、彼のきめ細かい準備を意外に思った。
部屋は広くはないが清潔で、机と椅子が置かれてあった。奥にさらに部屋があり、白いシーツや、フカフカの枕が用意されたベッドが置かれてある。ブランケットも温かそうだ。
ここまでしてくれるなら、オレに飽きていないのは本当なのかな?
そもそも、遠方で商用があったから迎えに来れなかったと言っていたし。
目覚めたばかりで不安だったから、アーサーを過剰に疑ってしまったのかな、オレは。
とベリルは部屋を眺めながら自分の考えを改める。
「疲れたろう。ゆっくりおやすみ。僕の部屋は隣だ。何か困ったことがあったら、声をかけて」
アーサーが廊下を歩いて行くのを、ベリルは黙って見つめていた。
後ろ姿が、もの凄く疲れている。
ラボで猛烈に働くダニエルよりも酷い。
「アーサー!ありがとう!!」
ベリルは、その背中に向かって叫んだ。
「うん。また、明日ね」
正面には、黒い鉄柵の門とその奥に石作りの古い館がある。窓の数からして、五十部屋はありそうだが、ほとんどの部屋に明かりは灯っておらず、全体的に暗い雰囲気だった。
「すごい大きさだ」
「元々は、両親の持ち物だよ。鉱山所有の爵位持ちだったから。クラッシックシティー郊外にカントリーハウスもあるけれど、中心部に行くまで時間がかかるし、広すぎて使い勝手が悪くってね。ほぼ、こっちで暮らしている」
口を開けて見ていると、アーサーが説明しながら、館に入っていく。
人感センサーが反応して、玄関に淡い光が付いた。
広い円形の玄関に飾られている兵士や女性の姿をかたどった彫刻。歴代の当主とその妻なのか、男女の肖像画も数十枚飾られてる。
でも、全然、人気は感じられない。
アーサーは、辺りを見回しているベリルを置いて、廊下を歩いて行ってしまう。
「この館、アーサー以外に誰もいないの?」
ベリルの声が、玄関ホールに響いた。
なんだか、物悲しい気分になってくる。
「十五年前から僕一人だ。両親は、テロで死んでしまったから」
アーサーについていきかけたベリルは、立ち止まる。
「ごめん」
「どうして、君が謝るの?」
アーサーも立ち止った
「なんか、触れちゃいけないような、雰囲気」
「雰囲気……か。日に日に賢くなるね」
「日に日にって、会って数時間だぞ?」
すると、アーサーの青い瞳が揺れた。
「そうだね」と呟いて、また歩き始める。
ダニエルから、ラボでの様子の報告を受けていた、という意味なのかなと思いながら、ベリルは部屋を覗き込む。それにしては、悲しそうな反応だった。「初めまして」とダニエルのラボで挨拶を交わしたときとそれは似ていた。
アーサーが、廊下の真ん中ほどにある部屋の扉を開けた。
「ここが、君の部屋。寝間着もタオルも全部、揃っているから、足りない物はないと思う」
今後どうしたらいいのか聞いてもきちんとした返答がなかったから、今夜寝る場所すらないと思っていたのに。
ベリルは、彼のきめ細かい準備を意外に思った。
部屋は広くはないが清潔で、机と椅子が置かれてあった。奥にさらに部屋があり、白いシーツや、フカフカの枕が用意されたベッドが置かれてある。ブランケットも温かそうだ。
ここまでしてくれるなら、オレに飽きていないのは本当なのかな?
そもそも、遠方で商用があったから迎えに来れなかったと言っていたし。
目覚めたばかりで不安だったから、アーサーを過剰に疑ってしまったのかな、オレは。
とベリルは部屋を眺めながら自分の考えを改める。
「疲れたろう。ゆっくりおやすみ。僕の部屋は隣だ。何か困ったことがあったら、声をかけて」
アーサーが廊下を歩いて行くのを、ベリルは黙って見つめていた。
後ろ姿が、もの凄く疲れている。
ラボで猛烈に働くダニエルよりも酷い。
「アーサー!ありがとう!!」
ベリルは、その背中に向かって叫んだ。
「うん。また、明日ね」
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